【超短小説】年雄ならこうする
深夜の公園で、年雄はブランコに乗っていた。
月が綺麗だったからだ。
ギーコギーコとブランコを漕いでいるうちに、年雄の想像が膨らむ。
年雄ならこうする。
年雄がイケメン俳優ならこうする。
台本は全部覚えて、時間通りに現場に着き、待たされても「待つのが仕事ですから」と笑顔。
スタッフや後輩にも優しく、差し入れを怠らない。
外見ではなく、心が綺麗な人と結婚。
浮気なんて絶対しない。
完璧な夫。
だから、奥さんは常に笑顔。笑顔でなくてはいけない。
だって完璧だから。
ちょっとの不満も許さない。
それはスタッフも後輩も同じ。
優しくしてるんだから、不満などないはず。
あったら許さない。絶対に。
どんなに忙しくしていても、俺がいれば挨拶はしなくてはいけない。絶対に。
だって完璧だから。
俺はお前たちに、こんなに気を使って我慢しているのだから、それには応えなくてはいけない。
それがバランスだろ!
世の中はバランスだ!俺より下の者がバランスを崩すな!バカ!
深夜の公園でブランコに乗りながら年雄は思った。
"俺がイケメン俳優ではない事で、人の為になっているのかもしれない"
浜本年雄40歳。
明日も仕事だ。帰って寝よう。