【超短小説】年雄、一本!

年雄が中学生の頃、柔道部の子と喧嘩をした。

理由は些細な事だ。

柔道部の子が学校の駐輪場で、年雄の自転車を倒した。

わざとではないと分かっていたが、年雄は「謝れよ」と言った。

柔道部の子は倒れている年雄の自転車を踏みつけた。

年雄は「俺を本気にさせる気か?」と聞いた。

柔道部の子は年雄の自転車を蹴り上げた。

年雄は殴りかかった。

一瞬だった。

年雄は空を見上げていた。

年雄が綺麗な背負い投げをくらったと気付いたのは、"空って青い"と思ったあとだった。

「一本!」

誰かが叫んでいたが、そんな事はどうでもよかった。

その後、仰向けに寝ている年雄に向かって、柔道部の子は罵声をいくつか浴びせたが、年雄は1つも覚えていない。

だって空が青くて綺麗だから。

浜本年雄40歳。

あれから20年以上たった今でも、空は青くて綺麗だ。

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