【超短小説】年雄とポケットのゴミ
年雄は出掛ける前に、自転車の鍵を探していた。
「どこだ?どこだ?」と独り言を言いながら、昨日着ていた服を思い出す。
ダウンジャケットか。
クローゼットを開けて、昨日着ていたダウンジャケットのポケットに手を入れた。
年雄が手に掴んだのは、探していた自転車の鍵ではなく、紙のゴミだった。
年雄は急いでいたので、そのゴミをポイっと床に捨てた。
でも少し気になって、何のゴミかチラッと見た。
映画の半券だった。
年雄はその映画の半券を拾った。
5年前の映画の半券だった。
5年前・・・。よく今までポケットに入っていたなと感心した。
ポケットに入れてたという事は、思い出深い映画だったのか?
年雄はタイトルを見た。
・・・全く思い出せない。こんな映画観たっけ?
年雄は携帯で検索した。
検索した結果、その映画の存在は知っていたが、内容が全く思い出せない。
どんな映画だった?
こうなると、観ていないのと同じだ。
5年ぶりにポケットから出てきた小さな思い出。
ゴミ箱へ、ポイっ。
浜本年雄40歳。
無駄な時間を過ごした。
鍵はどこだ?