【超短小説】年雄と換気扇

年雄は清掃員だ。

普段はマンションやビルの廊下、窓ガラスなどを清掃している。

でも年に2.3回ほど、換気扇の清掃が入る。

今日はその日だ。

換気扇の清掃は苦手だ。

何故かというと、人が生活している部屋に入るからだ。

廊下や窓ガラスを黙々と綺麗にするのとは違う。

普段より綺麗な制服を着て、家に入る前に新しい靴下に履き替え、道具もなるべく新しい物を使う。

そして、住人の方に笑顔で挨拶をする。

なんなら会話も。

油まみれの換気扇を、ベトベトになりながら掃除するのも大変だが、失礼のない会話の方が年雄は苦手だ。

住人「ご苦労様です」

年雄「はいー」

住人「凄い油ですねー」

年雄「いえいえ、まだマシな方ですよ」

住人「私、小学校の先生してるんですけど、みんな掃除嫌がるんですよ」

年雄「あはは。そうですかー」

住人「生徒に掃除の楽しさを教えたいんですが、なんて言えばいいんですかねー?」

年雄「なんでしょうねー?こんな汚い換気扇、誰も掃除したくないでしょうからねー」

住人「・・・」

年雄「・・・ここは・・・まだマシですけどね」

住人「・・・」

年雄「・・・」

浜本年雄40歳。

ピンチの時の乗り切り方。

それは、満面の笑顔。

ニカっ!

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