【超短小説】年雄の内緒の話
誰にも言っていない内緒の話だが、年雄は上京してから一度だけ映画のオーディションを受けに行った事がある。
役者をやった事はない。
ただ、上京したからには何かしようと思っていた時、たまたま目にした雑誌で、オーディションの事を知って受けてみようと思った。
年雄は専門学校の入学式用に買ったスーツを着て、オーディションに向かった。
久々のスーツ。
久々の革靴。
馴染まない。
でも田舎ではできない経験に胸が躍った。
住所を調べ、最寄りの駅を調べる。
昔は携帯で調べるなんて出来なかったから、何度も地図を見ながら、オーディション会場へと向かう。
慣れない東京。
見渡せどビルばかり。
あっという間の迷子。
同じようなビルをぐるぐるまわる。
余裕を持って家を出たが、遅刻ギリギリ。
走る年雄。
慣れないスーツで走る。
慣れない革靴で走る。
やばい!遅刻だ!
焦る年雄にトラブル。
革靴の底が外れる。
こんな時に!こんな事ある!?
年雄がオーディション会場に着いた時、年雄は裸足だった。
会場の人に「遅刻ですよ!」と怒られた。
年雄は顔を真っ赤にして「帰る!田舎に!」と叫んだ。
誰にも言えない年雄の秘密。
若いパワーの無駄遣い。
浜本年雄40歳。
久しぶりに思い出した苦い思い出。
映画はヒットしなかった。
当然だろ?年雄が出てないんだもの。