【超短小説】年雄とホーホケキョ
年雄が朝、家を出ると「ホーホケキョ」とうぐいすの鳴く声が聞こえてきた。
まるで音楽のような鳴き声。
耳が浄化されていくような感覚。
そんな日は、不思議と周りがよく見える。
空に浮かぶ雲の形。
マンションとマンションの隙間から見える景色。
いつもは気付かなかった看板。
自転車で走る年雄の後ろに、元気そうに自転車を漕ぐおじいさん。
周りが分かる。
世界が見える。
ホーホケキョ。
年雄は右折する為、自転車のスピードを落とした。
後ろのおじいさんに"止まりますよ"と手で合図。
周りに気配り。
年雄が止まる頃、おじいさんが年雄にぶつかってきた。
あれ?合図したのに・・・。
「おじいさん、大丈夫ですか?」優しく尋ねる。
おじいさんは「急に止まってんじゃねーよ!バカ!」
え?
「いや、ぶつかってきたのはそっちでしょ?」
「ガキが!急に止まるからだろ!」
「合図したでしょ?」
「知らねーよ!バカ!」
年雄に"バカ"を残して走り去るおじいさん・・・いや、じじいの背中に向かって年雄が叫んだ。
「ホーホケキョ!」
浜本年雄40歳。
この歳でもまだガキと見られた事に、少し喜びを感じた日。
ホーホケキョ。