【超短小説】年雄とオープンカー
年雄が信号待ちをしていると、横に真っ赤なオープンカーが止まった。
車高が低く、運転席は年雄の腰より低い。
運動しているおじさんは、オシャレなスーツに白髪混じりの唇を生やし、サングラスをかけていた。
"かっこいいおじさんだな"年雄は思った。
年雄は子供の頃、こんな大人になりたいと思っていた。・・・と思う。
そのオープンカーの前を園児たちが通りすぎた。
園児たちは「見て!あれ!」「すごーい!」とオープンカーを指差しながら歩いていた。
やっぱりそうだよね。
カッコいいよね。
きっと年雄も子供だったら憧れたはず。
でも園児の1人が言った言葉で"俺はそっちだ"と確信した。
「何あの車。カッコ悪い」「ちっちゃ!」「先生!大人がミニカーに乗ってる!」
子供は大人の凄さが分からない。
浜本年雄40歳。
俺は子供の感覚のまま、大人になったのかもしれない。
そう思い、年雄は中古の自転車を走らせた。