【超短小説】年雄とツータック

年雄が中学生の頃、私服のズボンにツータック以上入っている時は、先輩の許可をもらわなければいけない決まりだった。

中学一年の年雄は、デパートで濃い紫色のツータックのズボンを見つけた。

"欲しい"

一目惚れだった。
買いたいが、ツータックだ。迷っていると、二つ上の中村先輩が声をかけてきた。

「欲しいのか?」
「あっ、こんちは!・・・でも、ツータックなんで・・・」
「いいよ。買えよ。俺が許す」
「マジっすか!?ありがとうございます!」

年雄は濃い紫のツータックのズボンを買った。
あまりに嬉しかったので、着てたズボンは捨てて、その場で濃い紫のツータックのズボンを履いた。
そして、そのままデパート内にある喫茶店に入り、メロンパフェを注文した。

その時、二つ上の林先輩とその仲間たちが入ってきた。
年雄は挨拶した。

「こんにちは!」

林先輩は年雄のズボンをみて、

「てめぇ、誰に許可もらってツータック履いてんだ?」
「え?あっ中村先輩に許可してもらいました」

林先輩の目が、冷酷になる。

「うちの中学で許可できるのは、俺だけなんだよ!」

年雄は林先輩とその仲間たちにトイレに連れて行かれ、ビッタンビッタンに殴られた挙句、濃い紫のツータックのズボンを没収された。
年雄の勘違いかもしれないが、その殴る人の中に、中村先輩もいた気がした。

年雄がビリビリに破れたシャツとパンツで席に戻ると、メロンパフェが出来ていた。

年雄は席に座ってゆっくり食べた。

中学の思い出だ。

浜本年雄40歳。

今食べているパフェより、あの時のメロンパフェの味の方が、忘れられないだろうな。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?