【超短小説】年雄と家電量販店
年雄は家電量販店に来ていた。
暇だからだ。
広い店内に、新品の品々。最新の技術の結晶。
それらに囲まれていると、気分が高揚する。
何か買う予定はない。
ただブラブラする。
暇つぶし。
年雄はビデオカメラのコーナーに立ち止まった。
最新のビデオカメラのビジュアルに惹かれたからだ。
真っ黒でピカピカで丸みを帯びてる。
超カッコいい。
手に取ってみると、手の中にスッポリ入るちょうどいいサイズ。
ゾクゾクする。
ただ、買う気はない。
店員さんが年雄に話しかけてきた。
「そちらよりも、こちらのカメラのほうがスペックはいいですよ。少しお値段は上がりますけど、手ブレ補正してくれますし、プロが撮ったような映像に仕上がりますよ。お子さんの運動会にはもってこいです。」
年雄は黙って聞いていた。
「他にもこちらの商品なんかは・・・」
次々に商品を紹介されるが、この店員さんは、年雄のカメラに対する目的を一度も聞いてこない。
説明している最新のスペックが、年雄にとって必要かどうかは、関係ないらしい。
つまり、年雄にとってどうでもいい話をずっとしている。
「いかがですか?」と聞いてきた店員さんに、年雄は答えた。
「うるせえな」
"ただビジュアルを楽しんでいただけなのに、興味のない話を長々しやがって"との思いで出た一言だったが、すぐに後悔した。
年雄は元々暇で来ただけであって、何も買う気がない。つまりお店にとってなんのメリットのない客だ。
そんな奴が、「うるせえな」とほざいてしまった。
年雄は恥ずかしくなって、1280円の携帯カバーを買って帰った。
「うるせえな」に対する迷惑料のつもりだ。
浜本年雄40歳。
まだまだ自分をコントロール出来ない、子供だなと反省。
だが、心の奥底に"お前も悪いけどね"が残る。