「よその思い出」⑥
こんにちは。少し間があいてしまいましたが、「よその思い出」の6回目です。
今日は、家のちかくにある古本屋さんに、1か月半くらいぶりに行ってきました。仕事と創作と日々の買い物と喫茶店とその古本屋さん、が揃えば私の日常は80%くらいは戻っています。でも、このいろいろあった期間中に考えたこと感じたことは、緊急事態と一緒に解除されたりはしないので、「日常に戻る」という言い方はしっくりいかないような気もします。いつもやっていたことが一時的に失われ、今80%は戻ったけれど、私の中身はそのあいだにすっかり変わっていて、でもそれは、緊急事態と関係があるかないかは分からないというか、いや、大方ありそうなんだけど、もしかしたらないのかもしれない。
野間川くん
ここ以外では見たことがない、弁当を入れておくと温めてくれる箱、レンジではなくただ一定の時間入れておくだけという弁当温め器に毎日弁当を入れているのは野間川くんだけで、黄色いハンカチで包んである二段のでかい弁当箱を出勤してまず最初にその箱に入れて、昼休みになると少し嬉しそうに僕には見えるのだが取り出す野間川くんはちょっと変わっているというか、見ていて飽きない。
最近アルバイトで入った女の人は無口で、感じが悪いことは全然ないのだけどとにかく静かで、我々の仕事は草刈り機を作って販売することで野間川くんがその本体の中心部分を組み立てている隣の作業机でアルバイトの人はその本体の中心部分の組み立てに使うゴムの部品と金属の部品を接着剤で接着するという作業をしていて、野間川くんは一日中黙々と作業していると息が詰まって、作業自体は嫌いではないがどうしても誰かと話がしたくなって、野間川くんより三歳若い佐々木くんが近くにいると話しかけたり、作業場の主任の高田さんとパートの藤田さんが背中合わせになった後ろの作業台でおしゃべりしていると背中を向けたままおしゃべりに参加したりしている。
アルバイトの人はそういった会話にも加わらず黙々と作業している。昼休みには藤田さんや、事務の岡田さんと普通におしゃべりしている、とは言えまあ、藤田さんや岡田さんのおしゃべりに比べるとやっぱり静かではあるけど、手先を使う細かい作業なので椅子に座っている。別室で部品のチェックや出来上がった機械の動作チェックを僕はしているがたまに野間川くんたちのいる工場に入るとき見ていると、彼女なりのルールがあるのか接着した部品を一定の数で並べて、その都度時計で時間をチェックしているようで、工場の時計は彼女から見て右手側の壁に掛かっていて、野間川くんの作業台の方に振り向くカタチになる。
彼女が作業中マスクの下でずっとガムを噛んでいるのが野間川くんは気に入らないらしい。
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