ブランド体験を作るデザイナー3人が語る、ビジュアルデザインの軸の作り方
施策の目的整理をしてUser Focusなコンセプトにまとめ上げ、グラフィック等の非言語表現に落とし込むことは、デザイナーの大きな役割のひとつですよね。
今日はマネーフォワードでBXデザイナーやコミュニケーションデザイナーとして活躍する3人に、その過程でどんな思考や作業を経ているか実例を挙げて話してもらおうと思います!
まずは自己紹介をお願いします。
高木:BXデザイナーの高木です。
コーポレートブランディングを推進するチームで、主に採用関連の全社発信施策のブランド体験を高める役割を担っています。
花沢:BXデザイナーの花沢です。
高木さんと同じチームで、主にIRや広報を担当しつつ、サービスロゴの全社横断的な管理もしています。
進藤:コミュニケーションデザイナーの進藤です。
私はマネーフォワード ビジネスカンパニーで、『マネーフォワード クラウド』をお客様にお届けするためのタッチポイントを作っています。
ー 各々のポジションで活躍している3人ですが、普段クリエイティブを作る上で、着手してからアウトプットまでどんなフローを踏んでいますか?
BXデザイナー 高木さんのケース
高木:施策が立ち上がったら、まずは制作物の役割を整理をします。
誰に何を伝えるのか、どう感じてほしいのか……。
そこからいくつかのキーワードとなる言葉を選び、キーワードから想像できる表現を手を動かしながら模索して、軽いラフを起こします。
次に、描いたラフをベースにリファレンスをリサーチし、両方を照らし合わせながらラフのチューニングをしてコンセプトを固めます。
そこまでやってから本番のグラフィック制作に入ります。
事例:サマーインターンのノベルティ
高木:去年作ったサマーインターンのノベルティを例にあげると、採用担当からの相談を元に選んだキーワードが「成長」「ステップアップ」「前向き」「前進」などでした。
最初は直線やトルネードで1ヶ所に向かっていくモチーフでラフを描いていたのですが、その後リファレンスをリサーチする中で、「個性豊かな曲線が四方八方に向かっていく表現の方が、多様性やFunなイメージ……つまり"マネーフォワードらしさ"が表せるのでは?」という気付きがありました。
そこからラフをチューニングして、グラフィックを作り上げていきました。
ラフの発散は、抽象的なモチーフでやることが多いです。
頭の中でキーワードをパッと抽象モチーフ化して、ビジュアルでマインドマップをやるイメージです。
もちろんその過程で必然性を感じれば、アウトプットが具体モチーフになることもあります。
ー 高木さんの作り出すグラフィックは、抽象的なのにすごく伝わるものが多いですよね。
花沢:わかる。発散の軸がブレていないからだよね。
高木:時と場合によるけれど、具体過ぎると意味合いが固定されちゃうことが多いからかな?
進藤:確かにコーポレートブランディングは対象が広い施策が多いから、皆に当てはまるようにって考えると自然とそうなるのかもね。
高木:マネフォのカルチャー(Speed・Pride・Teamwork・Respect・Fun)も人それぞれ色々な捉え方ができるようになっているので、解釈の余白を残した表現にすることが多いですね。
進藤:グッズの選定もしたの?
高木:はい。長く使ってもらえることを大事にして考えました。
クリーニングクロスがただ折りたたんでビニールに入っているのではなくて丸い缶に入っていたり、ペンの形状にも丸モチーフが使われていたり。
仕様をマネフォらしさに落とし込めるものを選んでいきました。
もちろん予算があるので、やりたいことを無限にはできないですよね。
なのでメインとサブのアイテムを決め、金額の強弱をつけることで全体のバランスを調整しました。
こういった仕様面の検討は、受け取った時の感じ方や、実際に使うシーンを想像しながらするのが大事だと思っています。
ー このノベルティセットで特にお気に入りなポイントは?
高木:グラフィックパターンが展開しやすいところです!
ひとつひとつのモチーフの形状にこだわり、単体の表現でも魅力的に見えることを意識しました。
ー これすごいバランスですよね。いろんな方向を向いてるけれど、全部上向きのラインの先に丸があって。さすがです。
進藤:いい意味での曖昧さをそのまま表現した感じが、すごく魅力的。
花沢:高木さんは抽象表現がめちゃくちゃ上手ですよね。
グラフィックをシンプルな状態で持たせたり、特徴をつけるのって難しいじゃないですか。そこを見事にまとめ上げてくれる。
進藤:しかも「らしさ」をとらえた上でやってくれるのがすごいよね。
ー さすがCDOのセルジオさんに「グラフィックモンスター」と呼ばれるだけありますね。
進藤:グラモン(笑)。
花沢:通称グラモン(笑)。
高木:グラモンとして頑張ります(笑)。
BXデザイナー 花沢さんのケース
ー では花沢さんのお話を聞いてみようと思います。
花沢:僕も高木さんとほぼ同じフローで進行することが多いのですが、その中で特に意識して取り組んでいることをいくつかお話しします。
まずはいただいた依頼や相談の前提部分や、どういった結果を求めているかをヒアリングします。
話す中で、作るものや伝える内容が「こっちの方が良いかも」とより最適な方向へ向かえるようになることがとても多いからです。
次に、伝えたい内容やブランドトーンに「フィット」しているかを意識しています。
アイデアも表現も、「らしさ」や「ちょうど良さ」を兼ね備えたデザインは気持ち良くクリアに伝えられると思います。
それと、最後はクリエイティブジャンプです。
高木:かっこいい〜
進藤:かっこいい〜
花沢:(笑)。
ここでいうクリエイティブジャンプが何を意味しているかと言うと、魅力的な表現やユニークなアイデアで施策の成果が格段に良くなること。
実際にはそういったウルトラC案が発見できたり、求められるケースばかりではないですが、
小さな仕事や、一見クリエイティブが求められていないシーンでも、流れ作業的にならずに何かしら工夫できないか、一度考えるようにしています。
ー 確かに、地に足つけて理論立てて導き出した表現は誰にでも理解してもらえると思うけれど、有無を言わさず人の心を動かすのものって、その先でさらにクリエイティブジャンプしたもの……ということは多いですよね。
花沢:はい。それを踏まえて紹介したいのが、ミッショングラフィックの事例です。
事例:ミッショングラフィック
元々は「決算説明資料にミッション・ビジョン(以下MV)を図的に説明するページを入れたい」という内容の相談でした。
MVは言葉では定義されていますが、絵するとどんなものになるのかを相談していく中で、図的な表現ではなく「MVが実現した世界観に共感してもらえる絵を作る」という結論に辿り着きました。
MVの何を伝えるの?を考えた時に、まず未来に向けて多義な含みがあってほしいと考えました。
MVが実現した時の世界……つまり人々がお金の悩みから解放されて、より良い人生をのびのびと謳歌している世界を描く、ということです。
一方で、具体的すぎる状態やシステムを表現すると、人によっては当てはまらなかったり、ウソになっちゃうかもしれない。
マネフォのサービスやテクノロジーはあくまでユーザーの人生の黒子やパートナーであって、ビジュアル上ではそこに重きを置くことは重要ではないと考えました。
また、ひとりの人だけを描いてしまうと、ひとつの人生にフォーカスしてしまうので、ある程度引きの絵であらゆる人の人生を描くことにしました。
よく見るとそれぞれの生活が見えるんです。
ただ単に人が豊かに生活しているだけの絵だと、MVでも何でもなくなっちゃうので、描いている世界の中のどこでマネフォのテクノロジーが生きているのかを散りばめるように表現しようかなと。
加えて、同じ理由で基盤となる大地の形状をマネフォのシンボルマークにしたいと考えました。
ここまで整理をしてから、表現したい世界観を魅力的にビジュアライズしてくれるイラストレーターさんを探しました。
マネフォのトーンや描きたいことを忠実に再現するだけではなく、クリエイティブジャンプ……つまり、人の心が動くレベルでより素敵に描いてくれそうと感じ、イラストレーターの マエダユウキ さんにお願いしました。
僕から共有したラフは詳細に描かれているように見えますが、抑えたいポイントやイメージを共有するためにそうしただけて、実はあまり具体的な指示は入れていないんです。
やりたいことはしっかり伝えつつも、表現面は余白を残した方がイラストレーターさんの力でより魅力的になるので。
ー 花沢さんの書く指示書は「これをこう描いてください」ではなく「〇〇を伝えたいです」っていう文体で書かれているのが良いですよね。こう書いた方が自由に発想しやすい。クリエイティブジャンプが起きた瞬間はありましたか?
花沢:初稿を見せていただいたときに、期待以上の仕上がりに感動しました!
マエダユウキさんのお力で大ジャンプできました。お願いして本当に良かったです。
ー サマーインターンのケースと比較すると、現在〜近い未来を抽象モチーフで表現しているのと、遠い未来を具体モチーフで描いているのが対照的で興味深いです。
花沢:確かにそうですよね。会社が描く未来の話なので可能な限りは具体表現に落とし込むことに意味があると思いましたし、それが今回のチャレンジポイントでもありましたね。
進藤:未来を表現するにあたり、あり得ない世界を描くこともできたと思うんだけど、割と現実に想像しやすいラインにしているのは、皆にシーンを想像してもらいたかったから?
花沢:それも途中で議論になったのですが、未来の生活の見た目がガラッと変わったり、AIやロボットなどが前面に出るより、技術が隠れてインフラ化している感じにしたい、という意図ですね。
進藤:人の生活を主役に描いたんだね。
花沢:そう。実際に提供するサービスとしての未来感より、日常生活がステキに見える未来感をうまく入れていきたいなと。
ホログラム的なスクリーンがあったり、キックボードが浮いてたりするんだけれど、キツネもいるし、飛行機も今と同じ形。
飛行機も最初はスペースシャトルみたいな形だったのですが、途中で普通の旅客機の形状に変更しました。
高木:これほんとかわいい!
オフィスのエントランスにも飾ってあるし、zoom背景に使っている人も多いですよね。
コミュニケーションデザイナー 進藤さんの場合
ー では進藤さんのお話を聞いてみようと思います。
進藤:マネーフォワードクラウドの施策は課題ベースで立ち上がることが多いので、制作物を通して誰にどんな情報を渡して、どういう状態に持っていった結果、どんな課題を解決するのかを一番考えます。
自分がコミットするのが大きな施策の中の一部というケースもあるので、何のコミュニケーションのどこの部分なのか、何を担うのかを、全体視点と部分視点の両方で理解する必要もありますね。
この理解を十分にしてから、コミュニケーション設計……つまりKWを拾って、ブランドとしての姿勢を当てて、メッセージや構成を考えて、参考資料やイメージを集め、世界観を詰める……などの作業に着手します。
表現の検討では、積み上げたロジックと「こういうビジュアルっていいよね」の理想形の両方を用意して、その間を行ったり来たりして繋げることを大切にしています。
事例:イベント『士業サミット2022』
昨年開催された士業さま向けのオンラインイベント『士業サミット2022』のクリエイティブを練っている時のmiroをお見せしますね。
「ワクワクするようなイベントにしたいんだけど、どうしよう?」という粒度で相談が来たので、その「ワクワク」とは誰のどういう状態を指すのか言語化するのにたくさん時間を使っています。
ここをクリアにしてからアウトプットのあたりをつけ、またキーワードに戻り……「一緒に山を登る仲間たち」というコンセプトに着地しました。
ー マネーフォワードクラウドの施策はステークホルダーが多く難しいテーマになるので、前段の言語での課題整理に時間をかける傾向がありますよね。
進藤:そうそう。目線を合わせるって大切ですよね。
「どういう手法で、どういう進め方で、何を作るか」について関わるメンバーの認識を合わせる作業は丁寧にします。
キービジュアルを描いていただくイラストレーターさんを探す時に意識したのは、イメージや提案力はもちろんですが、加えてタッチポイントの展開を含めて設計していただける人かどうかという点です。
イベントのクリエイティブまるっとなので、作るものはLP、バナー、動画、スライド、広告……その他多岐にわたります。
1枚絵をキレイに描いていただくだけでなく、個々のモチーフの展開性も考慮してくれる方ということで、イラストレーターでありデザイナーでもあるMANYOU GRAPHICSの吉田さんにお願いしました。
細かいパーツに分けても見栄えがし、背景/あしらいにしやすいパーツの両方があり、世界観を保ちつつ展開性のあるものが出来上がりました。
ー 人のデザインに込めた思いはありますか?
進藤:誰か一人が先導しているように見えないという点です。
一人のリーダーが牽引する表現にしてしまうと、高圧的なものに見えるかもしれない。
皆が同じ目線で互いに伴走し合う感じがこのイベントらしいし、マネフォらしいという意図です。
ー 幕間やオープニングの動画もとても良かったですよね。あれ完成した時、テンション上がりました。
花沢:(動画を見ながら)すごい!
高木:なめらかに動いてるー!
進藤:コンセプトを明確にして大量の素材を用意したから、動画はサクッとできましたね。
花沢:まゆさん(進藤さん)って、課題整理〜コンセプト策定〜表現までの流れやコミュニケーションがシームレスですごい。
BX領域のデザインをしていると、つい「ジャンプしたい!」ってなっちゃいませんか?「作ったものを見て納得してもらいたい!」って。
でも事前に言葉で握ったり説明を丁寧にすると、関わる人たち全員が違和感を感じずにスッと意識統一できるんだなって。
進藤:デザイナーはデザインの良し悪しがわかって当然ですが、ビジネスサイドの皆さんがデザインを判断する時の基準となるフックは用意しないと、一緒にプロジェクトを進める過程で認識ズレが生じやすくなってしまう。
花沢:僕も見習おう。
進藤:好き嫌いだけで語れたらシンプルだけど……それが通用するのはデザイナー同士のコミュニケーション。ビジネスサイドの皆さんと納得と感動を共有するためにも、デザイナーは言語化をサボらないようにしたいと思っています。
花沢:前段整理に時間かけると作業時間がなくなって焦りませんか?(笑)
僕はよく「作んなきゃ!」って先走っちゃいがちなんです……。
進藤:まず手を動かした方がアイデが出てくるタイプのデザイナーもいるから、最終的に意図とアウトプットが繋がってさえいれば、順番はこだわらなくてもいいのではと思います。
同時進行というやり方もありですし。
高木:私も頭の中と手の動きが一本で繋がってるみたいで、手を動かしながらコンセプトを練らないとすんなり答えが出てこないタイプです(笑)。
進藤:高木さんや花沢さんのタイプの方がクリエイティブジャンプはしやすいだろうし、羨ましいです(笑)。
ー どのフェーズでワクワクするかの違いもあるかもしれませんね。
高木:確かに「これ作りたい!」ってテンション上げるために手も一緒に動かします。
花沢:さすがグラモン(笑)。
ー 3人ともお互いを羨ましがってますね(笑)。
では最後に、これから挑戦したいことはありますか?
花沢:エディトリアルや動画ですね。こういうものって編集力が大事だと思っていて、全体のコンセプトの中の各コンテンツとビジュアル表現を、ストーリーだてて束ねる力が必要になりますが、意外とやったことなくて。
コピーライティングも含めて強めていけるといいなあ。
高木:表現の幅を広げるっていう意味で、私はキャラクター制作をしてみたいです。
そこから派生する色々な展開のデザインとか、キャラクターを使ったコミュニティー作りとかもやりたい!
進藤:インナーに向けた取り組みをもっとやりたいです。
「ブランドらしさ」の表現がデザイナーに閉じない状態にしていくとか、経営メンバーのメッセージの翻訳とか。
媒体にこだわりはなくて、目的に合わせて媒体を自分で選べるような挑戦をしたいですね。
ー 今日はありがとうございました!
さいごに
マネーフォワードではコミュニケーションデザイナーを積極採用中です。
サービスの魅力をお客さまに届けるためのデザインを、一緒にしませんか?
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