コミックジャーナリズム研究(4)マンガ・イラストのピューリッツァー賞受賞作品
てなわけで、久々にコミックジャーナリズムについてです。大学院で研究しているので、たまにここで報告してるのです。コミックジャーナリズムの詳細は以下のリンクをどうぞ〜(サポートもまだまだ大歓迎です)。
今日はマンガ・イラストのピューリッツァー賞受賞作品についてです。
そもそもピューリッツァー賞って?
ピューリッツァー賞(Pulitzer Prize)は、アメリカメディアにおける報道や作品に与えられる賞で、新聞出版で大成功したジョーゼフ・ピューリッツァーの遺志に基づいて1917年に創設されたもの。現在はジャーナリズムコースもあるコロンビア大学によって運営されています。
ピューリッツァー本人はイエロージャーナリズム(スキャンダル&センセーション重視の報道)で有名だった人なんですが、その反省が反映されたのか、いまやピューリッツァー賞といえば、公益や社会正義を重視した賞で、世界的権威のあるジャーナリズムのある賞として知られています。
そんなピューリッツァー賞、「写真の賞」のイメージ強くないですか?
トランプ前大統領の暗殺未遂事件時にも「あの奇跡の一枚を撮ったのは、ピューリッツァー賞受賞歴のあるカメラマンだった!どうりでうまいわけだ!」みたいな話題になってたよね。
風刺画のピューリッツァー賞受賞作品
というわけで、本題のピューリッツァー賞のマンガ・イラスト部門。それが、1922年からある風刺漫画部門(Editorial Cartooning)という、新聞に掲載された風刺イラストに受賞される賞。1922年って、えらい昔からあったんだな!!
ちなみに、第一回の受賞作品はこちら。ローリン・カービイによる、ロシア飢饉を描いた風刺画です。
うーん、うまい。死神っぽい骸骨は揚々と上を向いているのに、民衆たちは下を向いている、そのわかりやすさとデッサン力。このローリン・カービイはいくつかの新聞社の社員として風刺イラストを描き続け、文章記事や書評や詩の執筆にも長けた人だったそう。ちなみに、日本もアメリカも、漫画家・イラストレーターは新聞社の社員だったことが多かったのです。アメリカは、昔よりもだいぶ減ったものの、いまだ社員漫画家がいるそうです。
こういう一枚絵による風刺画受賞作は今も続いており、最近の受賞作だと、2020年のバリー・ブリットによる作品もとっても好き。
彼が絵にすると、トランプまでもとてもかわいい。そして、この水彩画の質感、好きだなあ〜!これらは、ニューヨーカー紙に掲載された作品です。
こんなかんじで、長々とした一枚絵の風刺画の受賞作がある一方で、複数コマによるマンガの受賞作も生まれていきます。
長編マンガのピューリツァー受賞作品
まず、1992年に長編マンガで最初に受賞したのは、アート・スピーゲルマンによる『マウス』。
作者本人が、父親のアウシュビッツ体験をマンガ化したこの作品。アメリカではとても有名らしく、高校の授業で読まれることもあるとか。ただし、この作品は、ピューリッツァー賞のジャーナリズム部門ではなく、それと別枠の特別賞(special awards and citations)の受賞です。
さて、その後、賞そのものが変化していきます。
1916年には新聞だけではなく、雑誌やオンラインも受賞対象になりました。しかし、2021年には風刺漫画部門(Editorial cartooning)が終了。最終年の受賞者はなし。そのかわりに、2022年には、新たに「絵による報道と解説部門」(illusrated Reporting and Commentary)が設立されました。
この変更は、要するに、一枚絵の風刺画だけじゃなく受賞対象を広げるよ、ということなのですが、これに関しては、アメリカ編集漫画家協会が、風刺漫画部門と長編漫画部門は2つに分けるべきだと主張してるみたいです。
さてさて、そんな「絵による報道と解説部門」での受賞作は、いちばん最近の2024年の受賞作は、ニューヨーク・タイムズ紙のオンライン版に掲載された『ライカーズ島図書館職員の日記』。刑務所の図書館で勤務した作者、ダール・デ・ラ・クルスによる、コミックエッセイ的な作品ぽい。完全にマンガというより、テキストとマンガとイラストが混ざったようなかんじ。
そんなふうにピューリッツァー賞にストーリー的マンガ作品が増えてきた一方で、全くアプローチの違うイラスト作品も受賞していました。
イラストによるピューリッツァー賞受賞作品
そんな作品が、2023年の『ジェフ・ベゾズの富を想像する9つの方法』。作者はモナ・チャラビでニューヨークタイムズオンライン版に掲載されたものです。これはアマゾンの創業者であるジェフ・ベゾスの経済力をイラストデータで表現しています。
へー、こういうのもピューリッツァー賞を取ってるんだな〜!!
なんか寄藤文平さんのデータイラストも思い出すなあ。面白い。
まだまだコミックジャーナリズムの研究入り口、つか下調べ状態ですが、それでもこういう新たな発見があるのが面白い。そんで、有名作品とか見てると、企画のアイデアとか浮かんできたりするのです。思いついたら編集さんに企画提案メールとかしてます(いまできる時間があるかどうかとかは二の次だ!笑)。
もともと、大学院に入る前に知ってたピューリッツァー賞受賞作は「マウス」だけだったんですが、いろんなタイプの作品があったんだねーと驚いたのでシェアしてみました。
ちなみに、こういったマンガイラストに力を入れてるニューヨークタイムズでは「コミックジャーナリズム」ではなく「グラフィックジャーナリズム」と表現しています。そして日本には、社会問題をマンガで描く「機能マンガ」というジャンルがあることも知ったのですが、そんな話はまたいずれ。
そんなわけで、ピューリッツァー賞のイラスト・マンガ部門について歴史と概要をまとめてみました。ちなみに、過去の受賞作はこちら(https://www.pulitzer.org/)から見れますよ。ではではまた!
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