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コミックジャーナリズム研究(1)コミックジャーナリズムを分類分けしてみた
先日、「大学院でコミックジャーナリズム研究をスタートするよ」って記事を書きましたが、
今日は、コミックジャーナリズムの分類について書いてみます。
とはいえ、これはあくまで、いま私が勝手に考えてる分類で、分類名も私の勝手な命名です。あと、作品例もあくまで「私がコミックジャーナリズムじゃないかな」という作品を紹介しています。なので、これから先行研究を調べて本格的な研究をしたり「ジャーナリズムの基本概念」を深く学んでいったらガラッと変わる可能性は大です。すでに分類は定義されてるのかもだしね。ただ、とりあえず現段階で私が考えてる分類を記録しておくのも、思考の整理になるし、研究でどう変わるかの記録にもなるかも、と思ったのです。他の情報も集まるかもしれないしね。
(追記・大学院で勉強しはじめたら、すぐに私の定義づけが間違っていたことがわかりました(恥)。「ジャーナリズム」と「メディア」の区別がごっちゃになってたのが原因でした。なので、以下は、コミックジャーナリズムの分類じゃなくて、私が考える「社会派マンガ」の分類として読んでみてくださいな)
それではいきまーす!
①「独自取材」のコミックジャーナリズム
社会問題に関わるような人、事柄について、直接会ったり現地に赴いたりして、いちから取材し、マンガ化し、世の中に発信すること。
これはいかにもジャーナリズム!というイメージの手法です。たとえば、私の連載で「里親活動をする同性カップル」を取材した記事があり、これに当てはまると思います。
「コミックジャーナリズム」という言葉を使い始めたアメリカのジョー・サッコの「パレスチナ」(パレスチナ潜入ルポ)もこのジャンルですね。
こちらもアメリカ。ピューリッツァー賞を取ったアート・スピーゲルマンの「マウス」もこれです。この作品は、執筆者本人の父親がアウシュビッツの体験者であることから、父親を取材して体験談をマンガ化したものです。
②「拡散」のコミックジャーナリズム
すでに専門家やジャーナリストなどが世に発信済みの情報を、マンガというわかりやすい形に変換して、世にさらに広めるもの
マンガの特徴は、多くの人に読んでもらいやすいこと。なので、すでに世の中に発信されている内容でも、マンガ形式に置き換えて紹介するだけで、その認知が広がるということがよくあります。一次情報としてすでに完成しているものを、二次情報として、拡散目的でマンガ化するのです。私はこれもコミックジャーナリズムの大事な役割だと考えています。
私がやった仕事だと、たとえば、東洋経済オンラインで描いたこれ。フランス在住ライター・髙崎順子さんの著書「休暇のマネジメント」(フランス人の「休める働き方」を実現できるようになった背景)をわかりやすくマンガにした内容です。ご本人に取材もしてますが、基本は本をもとにして描いています。現代の日本人にとって必要な内容が詰まっているなと思ったので、マンガにしたいと企画提案したのですが、実際とても反響がありました。
KIDSNAにて、ハーバード大学医学部准教授の内田舞さんに取材してまとめたこの記事もそうです。これもいちおう取材はしてますが、内田さんの著書「ソーシャル・ジャスティス」の一部、特に「SNSでの心理操作術」をわかりやすくマンガ化したような内容です。本を読んだときに、これはマンガ化して広めたほうがいい内容だ!と思ったので編集部に企画提案して記事にしました。実際、かなり反響もあり拡散されました。こちらは編集部のテキストとの組み合わせ記事でした。
古い時代に遡ると、明治時代の一時期に発行されていた「錦絵新聞」もこのジャンルだと思います。大学院でジャーナリズム史を学んで知ったのですが、錦絵新聞は、日刊新聞の記事のひとつを、後日、イラスト入りで一枚刷り新聞にして発売したもの。イラスト入りで文章もわかりやすかったことから、大衆の人気を博したそうです。
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③「物語」のコミックジャーナリズム
社会問題に関係するくわしい状況や人々の深い心情を、物語形式でまざまざと描き出すもの。ジャーナリスティックな視線が入ったストーリーマンガやコミックエッセイ。
これは、他国より日本に多いんじゃないかな?と推測しているもの。何しろマンガ王国、日本だもの。
物語になっているがゆえに、当事者の心情を深く知ることができて、ドラマ化や映画化もされやすく、その社会問題の認知が広がりやすいという側面もあります。制作サイドとしては、ジャーナリズムとしてより、まずはマンガとしての面白さが大事という面もあるではないでしょうか。
これにあてはまると私が思うのは、産科医療を描いた鈴ノ木ユウ著「コウノドリ」。これって医療ジャーナリズム的な内容ですよね。産科への知識が広まるのにかなり貢献したんじゃないかと思う名作です。あと、ワンオペ育児問題とかにも踏み込んでますよね。専門家の医療監修も入っています。
医療といえば、最近読んだおかざき真里著「胚培養士ミズイロ」もすごかった!不妊治療の胚培養士を主人公にしたマンガで、日本の不妊治療事情がとてもよくわかります。そして絵がとても美しい…!婦人科診察台に乗る姿をあの画角で表現されているのもさすが!と唸りました。
生活保護のリアルな姿を描いた柏木ハルコ著「健康で文化的な最低限度の生活」。作者さんはかなり取材を重ねて描かれているそうだし、依存症問題もしっかり扱っているし、もう視点は完全にジャーナリズムです。
そうだ、ヤングケアラーをテーマにした水谷緑著「私だけ年を取ってるみたいだ」もとってもよかった!水谷緑さんは精神科医療を描いたシリーズもとても面白いです。
そうそう、「はだしのゲン」は、海外のコミックジャーナリズム展でも紹介されている作品です。たまに閲覧制限が話題になりますが、それほどに、戦争の恐ろしさがしっかり視覚化された、言わずと知れた名作です。
私が描いたものだと、これはノンフィクションですが「ほしいのはつかれない家族」のプロローグマンガがあてはまると思います。ワンオペ育児問題に焦点をあてたコミックエッセイです。
つまり、フィクションだろうがノンフィクションだろうが、ストーリー展開がある程度あって、登場人物に感情移入しつつ、社会問題について深く知ることができるのがこのジャンルです。
ここに関してはまだまだ紹介したい作品がたくさんあるよ〜!
④「学習」のコミックジャーナリズム
社会問題に関わる制度や仕組みや政策や知識などを、わかりやすくかみくだいて説明するマンガ。詳しく紹介することで、社会にその意義を問うものも含まれる。たいていは有識者や専門家への取材によって作られる。
私が描いたものでは、今年から始まった「両立支援等助成金「育休中等業務代替支援コース」という支援制度を厚労省に取材して描いたこの記事。
書籍で紹介していくと、ニコ・ニコルソンさんがマンガを担当した「マンガ認知症」。ノンフィクションのコミックエッセイ形式で、認知症の基本の仕組みやケアを学習できるものです。認知症とか、文章で読んでいるとわりと暗い気持ちになったりするんだけど、コミックエッセイ形式だと、時に笑ったりしながら学習できるんですよね。
フクチマミさんがマンガを担当している「おうち性教育はじめます」も、学習マンガでありつつ、ジャーナリズム的視点も入っている作品だと私は思っています。フクチさんも編集担当者もつながりがあるのですが、実際に「日本をもっと性教育が身近な国にする!」と強い意志で制作されたそう。その後、この本の大ヒットにより、性教育本はかなり増えて、SNSで話題にされることも増えました。
そうだ、ベルギー発、トマ・マチュー著「クロコダイル」もこのジャンルかも。セクシャル・ハラスメント問題をわかりやすく紹介しつつ、対処法までしっかり紹介しています。内容はもちろん、色の使い方、イラストの使い方がかなり面白いです。
私の描いた「誰でもみんなうつになる」もこのジャンルです。私の体験談コミックエッセイでもありますが、3人の精神科医の意見をたっぷり入れて、「初心者向きうつガイド」を目指して作りました。
このジャンルの作品も多数あり、ヒット作も数多く生まれていますよね。
⑤「主張」のコミックジャーナリズム
社会問題や政治に対する自分の主張をマンガにしたもの
筆者の思想、分析、考え方をマンガで表現し、読者を啓蒙しようとするもの。これはたとえば、
こばやしよしのり著「ゴーマニズム宣言」シリーズとかでしょうか。
実は私もたまにこのジャンルを描きます。これは「夫をほめて伸ばす」ってどうなのよ?という私の考えをコラム的に描いた記事です。
それから、たとえばインボイス制度の導入をめぐっては、プロアマ問わずたくさんの人が「インボイスの仕組みマンガ」をSNSにアップして、反対運動を後押ししていましたよね。これも主張ジャンルなのかも。
このジャンルは、あくまで「主張」なので、公正な情報ではない、思想が偏ったものもかなり含まれるのが特徴だと思います。
⑥「風刺」のコミックジャーナリズム
政治や国際情勢などをイラストやマンガで嘲笑したり批判するもの
これは私は描いてないですが、昔からたくさん、世界中で描かれているものです。古くは江戸時代のかわら版とかにもそういうのは載っていたと思うし、新聞に載る風刺マンガもそう。SNSで短いマンガやイラストが拡散されることもあります。
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この上のも有名ですよね。日本に長く住んだフランス人漫画家、ジョルジュ・ビゴーの魚釣り遊び(1887)。魚(朝鮮)を釣り上げようとする日本と中国、そしてそれを横から狙うロシア。一枚絵とか短いセリフで表現されるものも多くあり、言語が通じない海外でも拡散されやすいものが多いという特徴があります。
最近、上のこんな本も買いました。歴代総理大臣を新聞マンガがどのように描いてきたかというもの。まだ読み途中ですが興味深い内容です。
というわけで、以上が「私が独断と偏見でまとめたコミックジャーナリズムの分類」でした。
名作と拙著を同列に並べて図々しいな!と我ながら思いましたが😂、あくまで分類分けのためなのでご理解いただけると嬉しいです。
あと、複数のジャンルがミックスされた作品もあると思ってます。
教えて!オススメのコミックジャーナリズム作品
以上を読んで、「ああ、こういうのもコミックジャーナリズムなんだ!それなら自分はこの作品がオススメ!」っていうの、きっとあるんじゃないでしょうか。
今後、研究を本格的に進めるにあたり、なるべくたくさんの作品を読んでみたいので、ぜひコメント欄とかSNSのリプとかでオススメ作品を教えていただけると嬉しいです。
あと、大学院いくよnoteに詳しく書きましたが、大学院の学費をどうやって工面していくかってのが大問題なので😂、このnoteのサポートも大歓迎!この記事の下のほうにサポートボタンがあります。
そうそう、来週にはこんなオンラインイベントも開催します。GWまっただなかですが、録画配信チケットもあるので、よかったらぜひに😊
このnoteのメンバーシップ機能を使った「バル・ハラユキ」でも大学院裏話マンガ描いてます。
ではでは、研究と勉強、引き続きがんばりまーす🔥
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