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避けられるものなら避けたい

やたらと靴下ばかり買ってしまう。変わった柄や珍しい生地の靴下を見つけると買わずにはいられない。すぐに破れて暖かくもないストッキングは履かないと決めている。

不妊治療のためクリニックで内診を受けるとき、下半身の着衣は脱ぐのだが、靴下は履いたままである。たいていの場合、変な柄の靴下を履いているので、おかしな靴下を履く人として覚えられているかもしれない。
昨日もやけに派手な幾何学模様の靴下を履いていた。内診台に乗りながら、ああまた派手な靴下で来ちゃったな、と思った。内診の結果は肩透かしな内容だった。
同時に不育症の検査を行ったが、その検査費だけで2万5千円。高いなあ。
検査結果を知りたくはないが、また流産するのも嫌だ。避けられるなら避けたい。実を結ばないことよりも、流産するほうが嫌だ。

二度目の流産は職場のトイレだった。その日は年に数度ある作業日で、その日ばかりは重いものを持ったり、高いところに登ったりするのを避けられない。胎嚢が正常に育っておらず、流産するだろうことはわかっていた。責任を放り投げ迷惑をかけてでも流産しなくて済むなら休んだ。でも、休んでも流産はするのだ。耐えるほかなかった。
午前中、お腹の痛みをごまかすためにやたらと立ったりしゃがんだりを繰り返し、不注意からくるミスを繰り返した。早めのお昼休みにしてトイレに飛び込むと、たらたらと血が流れ、胎嚢と思われるものが体から流れ出た。じっと見つめていると誰かがトイレに入ってくる音がしたので、すこしためらった後、水を流した。誰が流産を流した音だなんて思うだろう、私以外何を流したかなんて誰も知らなかった。

お昼休み後には腹痛もすっかりやわらぎ、体が軽く、午前中の不調が嘘のようだった。
軽くなった体も、腹痛に耐えて作業しなければいけない環境にいることも、職場のトイレで流産したことも、ミスで手間が何重にも増えたことも、何事も無かったように仕事を続けることも、その全てが悲しかった。


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