我が家のエールの送り方〜腹が満ちたら戦もできる〜
「人を良くすると書いて、『食』です。」
小学生の食育の時間、栄養士さんがそう話をしていた。
「食」の成り立ちはただ食器に食べ物を盛って、蓋をした状況を表しただけ。だが、本当に「食」には感謝してもしきれない。
思い出すだけでよだれが出てくるが、家族と私を「良く」してもらった大好きな、アイツとの戦いを語らせてほしい。
はじめの一歩を踏み出させた 〜出会い〜
ジャンキなー食べ物、甘いお菓子が大好きだった祖父とは、家族の手から互いのお菓子を守り合う仲だ。
「おいにも ちーっとくれんね。(訳:俺にもすこーしちょうだい)」が口癖で、少しといいつつ、がっつり食べていた祖父が、
私が大学2年生の夏、体調が悪くなり何も食べなくなっていた。
・・・・・・・
東京に住んでいる叔母に相談したところ、自分も食べたことないが、と言って、教えてくれたのがエシレバターの「ガトー・エシレ ナチュール」である。
叔母に指定された集合時間は、開店時間 1時間前のAM 9:00。連絡がきたとき、TDLでさえ開園時間を過ぎてから行く私の顔は、いくら祖父のためとはいえ、引きつっていたと思う。
当日、AM 9:00頃、お店に着くと、すでにお店の前には30人弱くらい並んでいた。
開店時間になり、ショーケースから1つ、また1つとなくなっていくのを凝視していた。ガトー・エシレ ナチュールは1日わずか15台しか販売されていない。運よく、私はその日分の13台目を見事買うことができたのである。
叔母にお礼を言い、ガトー・エシレ ナチュールを慎重に持って、飛行機に飛び乗った。
実家へ着くと、祖父は見るからに元気がなかった。
お土産を買ってきたと言っても、事前情報通り、食べてくれる素振りがなかった。
「東京でやっちゃ美味しかげなよ、ちーっとでよかけん食べんね(訳:東京でとても美味しいと評判らしい、少しでいいから食べてみて)」
祖父にガトー・エシレ ナチュールを一口食べさせた。
「うん、こりゃ、うまか(訳:これは美味しい!)」
と言い、ニヤリと笑った。
クリームの半量がエシレという、世にも恐ろしいバターケーキ。
どんどんとフォークが進んでいく。ついには、
「もちーっとくれんね(訳:もう少しほしい)。」
なんと、おかわりまでしたのである。
その様子に家族全員が驚いた。それ以上にあまりの美味しさに驚いたのはいうまでもない。
バターケーキというと、重いケーキを想像しがちだが「ガトー・エシレ ナチュール」は違う。
口に入れると一瞬で無くなるのに、後味がさっぱりしているのだ。
切り分けた関係上、偶然にも1切れ余ってしまったので
翌日、こっそり祖父と半分ずつ食べた。
これを境に、少しずつご飯も食べるようになり、祖父はすっかり元気になった。
これがエシレと私との出会いである。
欲するものに手を差し伸べる 〜戦い、再び。〜
エシレとの出会いから、5年が経った2020年。
今度は叔母の誕生日のためにあの列に並んでいた。
某会社の事務アシスタントの仕事をしていた叔母は、ご時世の波に抗えず、突然、契約を切られることになってしまった。先行きの見えない状況もありショックを受けていた。上京してから母の代わりに面倒をみてくれた、良き叔母だ。少しでも元気を出してほしいと思った私が向かったのは、もちろんエシレ・メゾン デュ ブール〈丸の内〉である。
渋谷スクランブルスクエアの中に新しい店舗ができ、認知度、人気度に拍車がかかっていることは間違いない。(嬉しい)
出会いの時よりも激戦になることは容易に想像がつく。
決戦当日。開店の1時間半前AM 8:30。スッピンのまま、眠い目を擦りながら、私は列に並んだ。(マスクがあってよかった)
開店30分前になると、数量限定の商品については事前に商品のカードをもらうシステムになっていた。ここでカードをもらえなければ、私がAM 8:30に並んだ意味はない。
しかし、私の前には40人近くの人がすでに並んでいたのである。
戦況は絶望的。
そして、私の2人前に並んでいた人に15台目のカードが渡され、
私の戦いは終わった。
ガトー・エシレ ナチュールが買えないことが分かると、私の前の人はそそくさと帰ってしまった。私の後ろに並んでいた人も、ぱらぱらと帰っていく。
「せっかく並んだから、フィナンシェとマドレーヌ買って帰るか」と思い、絶望を抱えてそのまま並んでいると
店員さん「ガトー・エシレ ナチュール、購入されますか?」
なんと、帰っていく人の中に、ガトー・エシレ ナチュールをキャンセルした人がいたのである。
一度は諦めかけた希望(ガトー・エシレ ナチュール)が、手を差し伸べてくれたのである。
この手をガッチリホールドしないなんて、そんな失礼なことがあってはならない。
「はい、ぜひ購入させてください!!!!!!」
こうして、無事に希望(ガトー・エシレ ナチュール)を購入することができたのである。
初めてガトー・エシレ ナチュールを食べた叔母は、「美味しすぎて一瞬でなくなる」と感動していた。並ぶ理由がわかった、このためなら並んでも悔いはない(叔母は並んでいないのに)と言いながら、満面の笑みで食べていた。
もう一度走り出す力をくれる、ガトー・エシレ ナチュール
エシレにはガトー・エシレ ナチュールだけでなく、フィナンシェやマドレーヌなどお手頃価格かつ並ばずに購入できるお菓子もある。ほっぺが落ちてコンクリートに穴が開くくらい、どれも本当に美味しい。
でも、少し早起きをして、あの列に並んでみてほしい。
道は険しいかもしれないけれど、心から欲せばエシレバターは見捨てない。
ガトー・エシレ ナチュールに姿を変えて、向こうから歩いてきてくれます。
無事に手に入れたら、みんなで一緒にガトー・エシレ ナチュールを囲みましょう。
きっと、明日から頑張るためのエネルギーも満たしてくれるはず。