長良川の真の源流?吉田川源流を小嶋智先生とジオツアー
学会続き・出張続きの9月もいよいよ最終週に突入.長良川カンパニーのみなさんからのリクエストにお応えして,この地域の地質研究の第一人者である小嶋智先生をお招きして,長良川支流の吉田川の源流域を一緒に歩いていただきました.
タイミング的に,長良川カンパニーが中心となって開催している,今年第3回となる源流遊行祭(9/25-26)のプレイベント的な位置付けとなりました.
吉田川の源流は,鷲ヶ岳・烏帽子岳火山の山麓から始まっています.ちなみに長良川の源流は,鷲ヶ岳の西側にある大日ヶ岳から始まっていますが,どちらかというと吉田川の源流のほうが地形的に,より”源流っぽい”と感じており,長良川の2つある源流の片方だと思える場所です.
遊行祭の場となる水沢上(みぞれ)の森はちょうど烏帽子岳火山の東麓の末端あたりにあり,地質が非常に入り組んでいるエリアでもあって,地質が専門ではない私にはなかなか地形の読み解きが難しいエリアでした.
小嶋先生の解説によると,日本列島を形作る地質帯でいえば,このへんはプレート境界の付加作用でできた付加体である『美濃帯』(主な岩石は,砂岩,泥岩,チャート,礫岩,混在岩,いずれも海底由来の堆積岩),北に行くと大陸の一部であった『飛騨帯』,美濃帯と飛騨帯の間に挟まっている『飛騨外縁帯』があり,これらが土台になっていること.
みぞれの森あたりの美濃帯は,美濃帯の中でも一番北にあたり,泥岩砂岩がぐちゃぐちゃになった混在岩に,これもまたバラバラになった石灰岩(元はサンゴ礁)が取り込まれた形になっていること.(サンゴ礁の土台になっていた玄武岩もちょっとだけ分布している)
さらに,これらの土台を上書きするような形で,東側には広大なカルデラ噴火が繰り返された跡でもある『濃飛流紋岩』があり,かなり最近になって活動した鷲ヶ岳・烏帽子岳,大日岳から噴き出した安山岩が覆っているエリアであるとのこと.
2億年前(美濃帯の形成),1億年~6千万年前(濃飛流紋岩の形成),100万年前(火山活動)…ととんでもない時間スケールの事象の重なり合いでこの土地の基盤が形成されています.
そこに加わる地震活動(断層活動)や雨風による侵食などによって山と谷が形成され,現在みている風景が出来上がっている.
実際に明宝スキー場より奥の鷲ヶ岳の林道に入っていくと,板状節理の入った安山岩や,安山岩の礫を含む火砕流堆積物のようなものが多くみられました.安山岩の塊,というよりも,安山岩の基盤岩が出てるところもあれば,火砕流や火山堆積物が二次的に崩れて堆積した堆積物が主な場所もあり,単純な岩の塊ではありませんでした.
みぞれの森の東側には,どうやら濃飛流紋岩が形成されたのと同時期に形成された花崗岩が地表まで露出していますが,みぞれの森の下の吉田川を歩くと,基盤岩として,5万分の1地質図にはのっていない花崗岩や,流紋岩質の花崗岩なども小嶋先生により確認されており,地質図はどうも間違っているとのことでした.
ちなみに,流紋岩と花崗岩の成分はほぼ一緒であり,大雑把に言えば冷え固まる過程でゆっくり冷えて結晶が発達すれば花崗岩,さっさと冷えると流紋岩になるということで,冷え方によって中間的なものもできるようです.
一方,吉田川の川原はほぼほぼ安山岩の巨石がゴロゴロしており,花崗岩質あるいは流紋岩質の基盤岩の上に,鷲ヶ岳由来の安山岩の巨石がごろごろ堆積している状態のようでした.
なお,明宝スキー場あたりは,大きな山体崩壊(山体地滑り)地形があり,天正地震(1586年1月18日)の際に山体崩壊を起こしたとされていますが,小嶋先生の知り合いの専修大学の研究者の調査によれば,複数回にわたって崩れていること,山体崩壊によって形成された天然ダムの湖底堆積物の分析によれば,1580年代前後であり,伝承と一致していることなどが確かめられているそうです.
天正地震では,鷲ヶ岳火山から北北西に30kmほどにある帰雲城も山体崩壊によって城・集落ともに滅んでおり,天正地震がいかに激しい揺れであったかを想像させます.(天正地震の震源は未だ諸説あるようです)
…などなど,私たちが生きている土地のなりたちの壮大な物語はまだまだ沢山聞かせていただいたのですが,咀嚼してしばらくするとまた新しく分かることもあるかと思います.小嶋先生,ありがとうございました.
もっと詳しく知りたい人は…「ジオランドぎふ」をおすすめします.
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第3回源流遊行祭のあらましはこちら.私は長良川カンパニーの準構成員という立場をとっており,よく混ぜてもらっています.