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東京を歩く#7 王子になれない東十条と、2つの岩淵水門

東京歩きも7回目。都心から郊外へだんだんと歩くエリアを移してきた結果、北方への開拓は埼玉県境にだいぶ近づいてきた。今回は県境に接する北区北部をぶらぶらしてみたい。王子、十条、赤羽といったエリアを経由して、荒川にある岩淵水門を目指す。

前回は本郷通りを起点から終点まで、つまり千代田区の大手町から北区にある飛鳥山公園まで歩き通した。

前回はこちら↓

2024年10月の3連休最終日。今回は、飛鳥山公園のある京浜東北線の王子駅からその先へさらに進んでいく。

王子駅の東側には大きなコンコースがあり、周辺にスーパーや飲食店も多く住みやすそうな雰囲気。線路を挟んで西側は、前回訪れた飛鳥山公園や王子神社といった自然の多いエリアになっていてこれもまた良い。
王子神社の少し先に行くと王子稲荷神社がある。それほど大きくはないが、江戸時代から人気の稲荷神社らしく、「王子の狐」という落語に出てきたり歌川広重の浮世絵に描かれている場所でもあるようだ。

王子稲荷神社

すぐ近くには名主なぬしの滝公園がある。
かつて王子周辺には王子七滝と呼ばれる7つの滝があり、現存する唯一の滝がこの名主の滝公園の中にある男滝である、ということになっている。

名主の滝公園

しかし、今日はメンテナンスにより滝が休止中とのこと。滝なのに休止中とはどういうことかと思うところだが、実はこの滝は自然の滝ではなくポンプで汲み上げている人工の滝。中止でない日も開園直後などは止まっているので見学時間には注意がいる。

気を取り直し、都道460号を通って東十条駅まで歩く。王子駅のとなりに位置する京浜東北線の駅だ。
東十条という地名を見るたびに、2000年にフジテレビで放送していた松嶋菜々子が主演の恋愛コメディドラマ『やまとなでしこ』を思い出す。東幹久が演じる東十条という登場人物がいたからだ。東十条は御曹司なのにお人好しすぎてヒロインとは結ばれないという残念な役回りのキャラクター。東十条という名前は、京浜東北線の駅の並びを踏まえ、王子(様)になれない一歩手前の存在という含みを持たせたものなのだそうだ。

東十条駅 南口

東十条駅は確かに寂しく、隣の王子駅が買い物や憩いの場所に恵まれているのと比べると雲泥の差がある。この雰囲気を踏まえて東十条というキャラクターを捉えると残念さも割増しで醸し出される。

東十条駅から西側に少し行ったところに埼京線の十条駅があるのでそちらの方向に進むこととする。
演芸場通りと呼ばれる少し細めの通りを歩いていくと、その名前どおり演芸場が現れる。これは篠原演芸場という創業70年以上の老舗演芸場。昔は東京にも大衆演芸場がたくさんあったが、今は数えるほどしか残っていないそうだ。

篠原演芸場

しばらく行くと十条駅が見えてくる。駅の北側には踏切があり、それを越えると十条銀座商店街が広がっている。

十条銀座商店街

十条銀座商店街はアーケードが付いている上にかなりの広さのある商店街で、名前の似ている東十条の周囲の様子と比べると充実度がだいぶ違う。商店街を抜けて駅の西口に出ると、なんと大きなタワーマンションも建設中だった。東十条との差よ…

都道455線に出てこれを北西に進む。しばらく行くと姥ヶ橋うばがばし陸橋という陸橋が見え、ここで環状七号線と交差してその外側に出ることになる。

環状七号線(姥ヶ橋陸橋)

その先の左手には絵に描いたような団地が見える。10階ちょっとくらいの高さの建物が6〜7棟くらい並んでいてなかなか圧巻。これは西が丘住宅と呼ばれる建物群のようだ。
西が丘住宅を過ぎると国立スポーツ科学センターが見えてくる。いわゆるJISSという施設で、オリンピアンなどのトップアスリートが科学的な観点から技術力向上を図る場所(らしい)。東京五輪やパリ五輪でもたくさんの選手がここを利用したことだろう。

国立スポーツ科学センター

周囲には広大なフィールドの運動場が点在しており、さらにその先には赤羽自然観察公園がある。その名の通り自然豊かな公園で、木々に包まれた小道を歩くと23区内とは思えない雰囲気がする。数多くの野鳥の鳴き声や虫の声が聞こえるが、あいにくその辺はあまり詳しくないので種類の特定はできない。

赤羽自然観察公園

同じ公園内に農家体験館というエリアもあって、大きな農家が建っている。これは江戸時代に建てられた農家をここに移築したものなのだそうだ。土間にあるかまどには本物の火が焚かれていて、煙の匂いもうっすら漂っていた。

北区ふるさと農家体験館

公園を出たところに細い路地のような階段があるのでこれを上る。赤羽台というエリアに向かう階段のようで、上り切った場所は高台になっている。23区内だがここはもうだいぶ端の方なので周囲にはそれほど高い建物もなく、高台からはかなり遠くまで見渡すことができる。

中央奥には小さくスカイツリー

赤羽台には真新しい団地が広がっている。周囲の道もきれいなので一帯をまとめて開発したのだろうと予想できる。ここは、もともと日本住宅機構が造成した赤羽台団地という場所だったが、建物の老朽化もあって後継組織であるUR都市機構がヌーヴェル赤羽台として建て替えを進めている模様。最近の建物だけあってオシャレな外観のものが多く、バリエーションにも富んでおり画一的な感じはしない。

その先の階段を下って赤羽駅前に出る。
赤羽駅は都会だ。駅前には大きなスーパーやショッピングセンターがいくつもあるほか、駅直結の駐車場からはホームセンターも利用できて便利。
赤羽も王子も住みやすそうで、それらに挟まれた東十条はやっぱり寂しい立ち位置だ。

大都会 赤羽

赤羽駅から徒歩5分ほどの赤羽八幡神社に参拝する。参拝している時には知らなかったが、この神社はSUPER EIGHT(関ジャニ∞)のファンeighterにとって聖地なのだそうだ。ここで売っているお守りや絵馬に、グループのロゴである∞マークに似た模様があるから、というのがその理由らしい。

赤羽八幡神社

ここまできたら埼玉県境まで行こうと荒川に向かう。途中で東京メトロ南北線の最後の駅である赤羽岩淵駅を通り過ぎる。これもまた東京の端まで来たことを象徴するもののひとつと言える。

東京メトロ南北線 赤羽岩淵駅

新荒川大橋を渡った先が埼玉県。そこそこ長い橋だが意外と歩いて渡っている人がいる。橋を少し歩いたところに都県境があるはずだが、「ここから埼玉県」みたいな印は見つけられなかった。

新荒川大橋

橋からは広大な荒川を見渡すことができ、大きな2つの岩淵水門も近くに見える。
手前の赤い水門は古いかつての岩淵水門で、赤水門と呼ばれる。荒川はこの地点で分岐しており、ここから先の支流が隅田川になる。岩淵水門は河川の水量が急増した際にこれを閉め切ることで隅田川が溢れてしまわないようにするためのもの。ただし、赤水門は老朽化などの理由から水門としての役目は終えている。

旧岩淵水門(赤水門)と荒川の水位記録

赤水門の近くには過去の荒川の水位の記載があり、川の中には実際の高さをマークした柱も立っている。最近のものだと2019年の台風19号が第5位の記録。これを見ると、赤水門の高さではギリギリの感じがありやや心もとない。
一方、その先にある現役の岩淵水門、通称青水門は赤水門と比べるとかなり大きく頑丈に見え、確かにこれだったら過去の水位記録にも余裕を持って対応できそうな印象がある。まあ、こういう施設の出番がないのが一番よいわけですが。

岩淵水門(青水門)

川幅が広く雄大な姿の荒川だが、そもそも、墨田川が分岐しているポイントから下流部分はすべて治水のために作った人工河川で、この部分は荒川放水路とも呼ばれる。2024年は荒川放水路が稼働してからちょうど100年目にあたるようで、近くにある荒川知水資料館 amoaでは、こういった荒川の歴史についても学ぶことができる。先人の功績の積み重ねの上に今の安全はあるわけだ。

帰りは南北線の志茂しもから。2023年度乗降客数は東京メトロでワースト3位ということで、ここもなかなかマイナーな駅と言える。

志茂駅

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