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感情知能の変化が上司と部下の関係性に与える影響:論文レビュー

こんにちは、原田です。
今回は、感情知能の変化が上司と部下の関係性に与える影響に関する論文です。

感情知能(Emotional Intelligence)とは:
自己および他者の感情を正確に認識し、適切に表現し、状況に応じて感情を制御しながら有効に活用する能力

  1. 自己感情の識別(SEA: Self Emotional Appraisal)
    自分の感情状態を認識し、どのような感情に支配されているかを理解する能力

  2. 他者感情の知覚(OEA: Others' Emotional Appraisal)
    他者の感情状態を推測し、その背景や要因を理解する能力

  3. 感情の調整(ROE: Regulation of Emotion)
    感情を適切に制御し、好ましい状態に導く能力

  4. 感情の利用(UOE: Use of Emotion)
    感情を積極的に活用して良い結果を生む思考や態度に結びつける能力

参考論文:

  • Salovey, P. and Mayer, J. D. (1990). "Emotional Intelligence." Imagination, Cognition and Personality, Vol. 9, pp. 185-211.

    • 感情知能という概念を初めて提唱した論文

  • Mayer, J. D. and Salovey, P. (1997). "What is Emotional Intelligence?" In P. Salovey and D. J. Sluyter (Eds.), Emotional Development and Emotional Intelligence: Educational Implications. New York: Basic Books, pp. 3-31.

    • 感情知能を4つの要素で具体化した理論

  • Goleman, D. (1995). Emotional Intelligence: Why It Can Matter More Than IQ. New York: Bantam Books.

    • 感情知能が一般的に広まるきっかけとなった書籍

  • Wong, C.-S. and Law, K. S. (2002). "The Effects of Leader and Follower Emotional Intelligence on Performance and Attitude: An Exploratory Study." The Leadership Quarterly, Vol. 13, pp. 243-274.

    • 感情知能の測定に使われる尺度の開発

今日の論文

The Impact of Emotional Intelligence Changes on Supervisor-Subordinate Relationships
感情知能の変化が上司と部下の関係性に与える影響
組織科学 Vol.46 No.1 (2012年)
Hiroshi Tada

サマリ

  • 本研究は、感情知能が生得的な特性ではなく、研修等の施策を通じて後天的に向上できる能力であると同時に、その向上が上司と部下の相互作用を促進し、関係性の改善に寄与することを示した

  • 感情情報を処理するプロセスがこの関係において重要な役割を果たしていることも示唆された

方法

  • 大手製造業の従業員50名を対象に感情知能向上を目的とした1日間の研修を実施

  • 研修前後で感情知能および上司と部下の関係性を測定(リカートの5段階評価)

  • 測定にはWong and Law (2002)による感情知能尺度およびGraen and Uhl-Bien (1995)のLMX-7を使用

研修の概要:

  • 形式と構成:

    • 1日間の参加型研修として実施

    • ファシリテーターの指導のもとで進行

  • 学習ステップ:
    以下のプロセスを繰り返す形式で進められた:

    1. ファシリテーターによる教示(説明や話し合いを含む)

    2. 実際に体験する(例: モデリング、ロールプレイ)

    3. 体験を内省・観察する

    4. 経験内容を考察する

    5. 学習したことを再試行する

  • 具体的手法:

    • 教示: 感情知能に関連する理論や実践を説明

    • モデリング: 実践的な手本を提示

    • ロールプレイ: 参加者が具体的な状況を演じ、感情知能スキルを適用

    • フィードバック: ロールプレイや議論を基に、ファシリテーターから参加者へ助言や改善案を提供

  • 参加者層:

    • 平均年齢: 33.9歳(最年少: 24歳、最年長: 59歳)

    • 勤続年数の平均: 12.3年

    • 主に30歳前後の比較的若い層が中心

わかったこと:

研修前の段階では「感情の利用」と「LMX」の関係が限定的だったが、研修後に明確な相関が生じ、感情知能の向上が上司-部下の関係性改善に繋がったことが示唆されている。

  • 感情知能の向上

    • 研修後、「自己感情の識別(SEA)」、「感情の調整(ROE)」、「感情の利用(UOE)」の間に有意な影響が観測された(p < .01)

    • 「感情の利用(UOE)」は、「自己感情の識別(SEA)」と「感情の調整(ROE)」を介して影響を受ける形で向上

  • 感情知能と上司-部下の関係性の向上

    • 研修前(図3)では「感情の利用」と「上司と部下の関係性(LMX)」の間には弱い正の傾向(p < .10)が見られたのみ

    • 研修後(図4)では、「感情の利用(UOE)」が「上司と部下の関係性(LMX)」に対して強い正の影響(p < .01)を示した

  • 研修全体の影響

    • 「自己感情の識別(SEA)」が、「感情の調整(ROE)」を介して「感情の利用(UOE)」に結びつき、これが「上司と部下の関係性(LMX)」を向上させる重要なメカニズムであることが確認された

論文から得た学びと活用場面

感情知能が単なる先天的特性でなく、HR施策で後天的に向上可能であることが示唆されました。感情調整を通じた感情利用プロセスが、上司と部下の関係性向上に重要な役割を果たすと主張されています。

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