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持続可能な開発に向けたインクルーシブ・リーダーシップ:論文レビュー

こんにちは、原田です。
今回は、持続可能な開発に向けたインクルーシブ・リーダーシップに関する論文です。

インクルーシブ・リーダーシップとは:
リーダーが多様な背景や視点を持つメンバーを積極的に受け入れ、彼らの声や知識を意思決定プロセスに取り入れることで、すべての人が自己の価値を感じ、組織や社会において平等かつ意義ある貢献ができる環境を創出するリーダーシップスタイル

今日の論文

Inclusive Leadership Toward Reshaping Corporate Purpose for Sustainable Development
持続可能な開発のための企業目的再構築に向けたインクルーシブ・リーダーシップ
Leadership, 2024
Yuka Fujimoto, Fara Azmat, Jasim Uddin

サマリ

  • ビジネスリーダーシップ、持続可能性、包摂性の複雑な関係性を探り、持続可能な開発のためのよりインクルーシブ・リーダーシップアプローチの開発に向けたステップを示す

  • 従来の利益最大化モデルから脱却し、全てのステークホルダーを包括的に含める必要性を提唱

  • リーダーの人格的特徴(多様性への信念、持続可能性への認知的複雑性、社会的共感)を活用して、社会的な権力の不均衡を緩和する枠組みを提案

方法

  • 象徴的相互作用主義(自己や個人の内側に中心を置いて、社会状況における意味の創造を強調する研究と考え方の領域)に基づき、インクルーシブ・リーダーシップの特徴を理論化

  • 具体的には、1) 人口および生物多様性への信念、2) 持続可能性に向けた認知的複雑性、3) 社会的共感を基盤とする特性を提唱し、それがどのようにしてミクロレベルからマクロレベルへの影響を生み出すかを議論

わかったこと①:持続可能な開発(SD)に向けたインクルーシブ・リーダーシップの基盤モデル

  • ミクロからマクロへの影響の連動性

    • インクルーシブ・リーダーシップ特性(プロダイバーシティ信念、認知的複雑性、社会的共感)は、ミクロ(個人)レベルの変革を通じて、マクロ(社会全体)レベルに影響を及ぼす

  • 権力の共有と再分配

    • リーダーシップ特性が、企業リーダーとマージナルグループ間のパワーバランスを調整し、より公平な権力の共有を促進する

  • 社会心理学的および社会学的発展の融合

    • 心理的変革(個人の信念や行動の変化)と社会的変革(集団や組織レベルでのパワーダイナミクスの変化)が統合されて持続可能な開発が促進される

  • 協力的意思決定の重要性

    • マージナルグループとの共同意思決定を通じて、持続可能性課題に対応するための包摂的で実用的な解決策が導き出される

  • リーダーの特性が社会的変革を触発

    • リーダーのプロダイバーシティ信念は、多様性のある視点の受容を促進し、認知的複雑性は複雑な問題を多角的に捉える能力を強化する。さらに、社会的共感は、マージナルグループとの感情的なつながりを構築し、共同問題解決を支える

  • 持続可能性のための包括的フレームワークの基盤

    • このモデルは、社会心理学と社会学の視点を組み合わせたインクルーシブ・リーダーシップの基礎を提供し、持続可能な開発目標の達成を支援する

わかったこと②:持続可能な開発に向けたインクルーシブ・リーダーシップのフレームワーク

  • ミクロからマクロへのスケールアップ

    • インクルーシブ・リーダーシップ特性が、個人(ミクロレベル)での心理的変化を通じて、地域や地球規模(マクロレベル)の持続可能性の課題に拡大される

  • 3つのリーダーシップ特性の統合

    • プロダイバーシティ信念、認知的複雑性、社会的共感の3つの特性が連動して、持続可能性を促進するための包摂的な意思決定を支える

  • 持続可能な開発への心理的・社会的貢献

    • リーダーの特性が、マージナルグループの心理的(個々の自尊心や所属意識)および社会的(集団としての役割や価値の認識)変革を促す

  • 包摂的な意思決定プロセスの強調

    • マージナルグループと共に問題を解決することで、パワーバランスの調整と革新的なソリューションの創出を目指す

  • 企業、地域、地球規模での適用可能性

    • このフレームワークは、企業内のダイバーシティ推進だけでなく、地域の課題解決や地球規模の環境・社会問題への取り組みにも応用可能

  • 包摂性の心理学的・社会学的変容の連携

    • 心理的(個人の内面的成長)および社会的(グループ間の力学の変化)の両面で、持続可能な社会の構築に寄与する

  • 持続可能性課題への協力的アプローチ

    • インクルーシブ・リーダーシップが、多様な視点や意見を融合することで、長期的な持続可能性に寄与するフレームワークとして機能する

わかったこと③:
持続可能な開発のためのグローバルな帰属意識と地域の独自性を統合するインクルージョンマトリックス

「グローバルな帰属意識」と「地域の独自性」の2軸で構成され、4つの象限(除外、同化、差別化、包括)に分類

  • 「包括」象限の重要性

    • グローバルな帰属意識を高めると同時に、地域独自の視点や価値を維持する「包括」の象限が、持続可能な開発を実現するための理想的な状態として強調されている

  • 「除外」象限

    • 個人や自然環境がグローバルまたは地域のシステム内で受け入れられず、独自性や帰属意識がともに欠如している状態を表す

  • 「同化」象限

    • 個人や自然環境がグローバルなシステムの一員として認められるが、その独自性は尊重されず、外部の規範に適応することを強いられる状態を示す

  • 「差別化」象限

    • 地域の独自性は認められるものの、グローバルな経済システムや意思決定プロセスには参加できない状況を表す

  • マージナルグループのグローバル統合

    • 包括的リーダーシップが、マージナルグループをグローバルな意思決定に参加させ、地球規模の課題解決に貢献するための場を提供することを提案している

  • 地域の独自性の維持

    • ローカルな資源管理や文化的視点を活用することで、地域の課題に対応しながらグローバルな持続可能性の目標を達成する

  • インクルージョンの重要性

    • グローバルな課題に対処するため、経済的に強力な主体とマージナルグループが対等に協力し、互いの知識と視点を活用する必要性を強調している

  • システムの持続可能性向上

    • インクルージョンによる共同作業が、環境、経済、社会システム全体の持続可能性を強化する

論文から得た学び

インクルーシブ・リーダーシップ特性は、権力の共有を促進し、企業および社会における持続可能性の課題に対応するための協力的意思決定を可能にすると主張されています。また、このアプローチが企業目的を利益中心からステークホルダー中心へ再定義する可能性が示されています。

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