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少年ジャンプ+『SMOTHER ME』完結
少年ジャンプ+で毎週木曜更新で連載されていた『SMOTHER ME』が完結しました。
作品情報
【タイトル】
SMOTHER ME
【作者】
下元 朗
【出版社】
集英社
あらすじ
母に売られアキオの名前を捨てた13歳の殺し屋・蛇。殺した者達の悪夢が襲う中、盲目の女性・リンと出会う。アキオは、リンの目の治療費を稼ぐため、危険な仕事を受けるが…。
見どころ
魅力① ジャンプっぽくありジャンプっぽくない
私は子どものころジャンプが大好きでしたが、特に好きだったのは巻頭カラーの人気マンガよりも、後半に載っているようなマニアックなマンガ。
独特な絵のタッチや世界観のマンガに出会うとゾクゾクワクワクしたのを大人になった今でも覚えています。
『SMOTHER ME』はそのときのゾクゾクワクワクを思い出すようなマンガです。
独特な絵のタッチや世界観のマンガは同じジャンプ+の中にもあるし、他誌も含めればいろいろありますが、『SMOTHER ME』には、ジャンプっ子の私が少女時代に感じたゾクゾクワクワクを想起させるものがありました。
なぜあのときの感情を想起したのかという要因を考えると、
・個性豊かなキャラクター
・戦い方がかっこいい
・主人公の少年の出した答えが(子ども目線で)かっこいい
・主人公の少年の境遇がつらい
・少年少女にはちょっと難しいけどなんとなくわかるくらいの絶妙な難易度の設定
・アングラの世界観
・ダークな雰囲気
これらが当時私が刺さったものと同じだからだと考えます。
上の3つは『SMOTHER ME』だけでなくジャンプの巻頭カラー人気マンガにもよく見られる要素ですね。「ジャンプ感」とでも言うべき要素で、ジャンプ好きな子はだいたいこういう話が好き。
『SMOTHER ME』はこの「ジャンプ感」に加えてジャンプっぽくないアングラ要素やダークな世界観があり、少女時代の私はこういう話がすごく好きでした。
これらの、ジャンプっぽくありジャンプっぽくない部分がこの作品の魅力です。
魅力② タイトルの意味
主人公の戦闘スタイルがワイヤーを使って喉を締めるということから「smother(窒息させる)」という単語が使われています。(最終話でタイトルの本当の意味がわかりますが、それは後述します)
この馴染みのない英単語「smother」に違和感を持った読者は多いはず。そして、母に売られたところから物語がスタートすることから、「smother」の中に「mother(母)」が含まれていることに意味を感じた読者は私だけではないはず。
母親に対する想いが主人公を突き動かす形で物語が進むのかなと予想したのですが、予想に反して2話以降作中で母親に対して特別強く意識している描写はありませんでした。
まぁ、母親との思い出が少なすぎるし、母親の愛を切望することは叶わないと幼いながら悟って諦めていたのだとしたら強く意識しないのも納得です。
では、「mother(母)」が全く関係ないかと言ったらそんなことはないと私は考えます。主人公アキオがリンに手を握ってもらうことでリンに対して特別な感情を持つようになったのは、恋心というよりも母の影響があるように思います。1話でアキオは、母が手を繋いでくれたことだけでものすごく喜んでいる描写があることから、アキオにとって手を握るという行為はとても特別なのです。このことから、リンがアキオの「mother(母)」的な存在という意味を感じます。
そして、タイトルの本当の意味が判明した最終話。これはゾクッときましたね。
ラストで死にかけているアキオとリンのシーン。
アキオはリンに「smother me(ワイヤーを引っ張ってあなたに殺して欲しい)」とお願いします。
そして、リンはそのお願いに対して、ワイヤーを引っ張らずに抱きしめるかたちで答えたのです。
リンはのちにこのことについて、「smother:(息が詰まりそうなほどに)抱きしめる」と語っています。
うわああああ。やばいタイトルの回収!!!!!
実際「smother」には、「包む」とか「おおいつくす」という意味もあるようなので、リンはそちらの意味として受け取ったのでしょう。
なんという美しいタイトルだと感嘆しかありません。
魅力③ 結末
少女時代の私に確実に刺さったであろう同作ですが、結末に関してはおそらく少女時代に読んでいたら「え?」と思っていたでしょう。
ネタバレになりますが、先ほどタイトルのときにも触れたとおり、アキオはリンに抱きしめられながら死んでしまいます。
小学生の理解力だとただただ悲しい物語でしかなく、「最後はアキオは生きながらえてリンと幸せになればいいのに」と不満に思っていたかもしれません。
大人になった今読むと、なんと幸せな終わり方なのだと感じるのですがね。
今まで奪われてきたもの、与えられなかったものを、願った以上の形で最期に得ることができたのですから。
そういう意味では、少年向けというよりも大人向けの作品かもしれません。
おわりに
はじまりから終わりまでが美しい道になっていて、過剰に書きすぎることがない、むしろ少し足りないくらいに抑えた物語に久しぶりに少女時代に戻った気持ちになってゾクゾクとなりました。
特徴的な力強いタッチも作品の良さと引き立てていて、この作者さんが大好きになりました。
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