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大仏開眼への道14~“目病み女”に風邪ひき男

雨上がりの公園で

アパートの角を左に曲がって十メートル先にある公園の入口をひょいと覗くと、いたいた。顔なじみの猫氏の姿を見つけました。
「猫氏ったら久しぶりだね、あらあら花粉症かな?それとも結膜炎?」
猫氏は肩を落とし眼をしょぼしょぼさせていました。自慢の毛並みもちょっとバサバサしています。猫風邪かな。
「ずっと雨ばっかりで大変だったね。猫氏も線状降水帯って知ってる?ずっと強い雨が降り続いたら川の近くに行ったらダメだよ。気をつけてね」
会話をしている間もずっと目をシバシバさせて、目の周りは歌舞伎役者の隈取りのように赤く、少し腫れています。『目病み女に風邪ひき男』なんて洒落を言ってる場合じゃあないかもしれません。地域猫としての自由はあるけれど、視力を失ってしまったら外の世界で生き抜くことは難しくなる。私は早く治してねと声をかけて猫氏と別れました。
さて私の眼の具合「黄斑浮腫」ですが、先日の眼球防衛隊N医師の診察は。
N医師「具合どうですか?前回と比べて何か変化感じることはありますか」
私「いや、あまり変わりはないです」
N医師「そうですよね。眼底写真をみると意外と現状維持が出来てますね」
じゃあ見てみましょうと診察台のレンズを覗き込む。
N医師「うん、意外と悪くはない うん、悪くはない」
2回繰り返し確認するようにうなずきました。私はN医師の口から初めて安心できる言葉を聞きました。これまで2~3か月に一回の間隔で注射を打っていましたが、今年1月に眼球注射をしてからすでに5か月が経過しています。どうか病がこれ以上進行しませんように。

メグスリノキと赤い実

眼球に注射をするという治療は何度受けてもやはり緊張しますし恐怖で体が硬直します。当然注射を打つ場所は瞳孔ではなく白目の部分なので谷崎潤一郎著「春琴抄」のような覚悟も必要ないのですが、それでも眼球に針を打つ治療は過剰なストレスになるので可能であれば避けたいのです。注射以外に何か進行を止める方法はないものかしら。眼に良いサプリメントはたくさん販売されているけれど私の肝臓や腎臓も実年齢より衰えが進んでいると医師に言われているので、肝臓腎臓に負担がかかりそうなサプリはやめておこう。じゃあ漢方やお茶は?
インターネットで検索してみると「メグスリノキ茶」というお茶が目に留まりました。あちこちの説明書きを読み総合すると、日本国内だけに自生している木で、昔から木の枝や樹皮が目薬として使われていたらしい。ええっ?葉っぱじゃないんだ。実際にメグスリノキ茶を飲んだ人が書き込んだ感想には「味は木くず」「木っ端だけに割りばしの味」などと書かれていて決しておいしい飲み物ではないようです。
しかし♪この木なんの木気になる木~メグスリノキがどうにも気になってネット通販で即購入してしまいました。
3日後。届いたメグスリノキ茶をワクワクしながらすぐに開封。三角形のティーバッグに入った木くずの匂いは特に香ばしくもありません。耐熱ガラスのコーヒーサーバーに入れて煮出すと、白く細かい泡が立ってわずかに薄く木の色が染み出しました。その味はおいしいとは言えないまでも「割りばし」と酷評するほどまでではないかな。実際に体感できる効果はあるのかしら。目に意識を集中してみる。熱いメグスリノキ茶を飲んで15分ほど経過した頃に目薬をさしたようなすっきりした感じ、これは確かに効果を感じる。目のぐじゅぐじゅ痒いのが治まっている気がする。
糖尿病黄斑浮腫は老朽化した毛細血管から液漏れして黄斑部が浮腫んでしまう病気です。例えるならば古い団地の老朽化した水道管が水漏れして、コングリートの壁が溶けて凸凹になるみたいな感じでしょうか。腐食した壁は修復できないけれどコンクリート壁の崩壊を遅らせることはできるのかもしれません。
前にN医師が言っていた「緩やかに失明に向かってはいくけれど、人間の寿命が尽きるのが先だからね」という言葉を思い出しました。
よし。次の診察までメグスリノキ茶を飲んで効果があるか試してみよう。
にわかに健康食品に目覚めてしまった私はインターネットでいろいろ情報を読み漁り、生活の木というハーブの専門店で「蒼のメグスリノキブレンド」というお茶を見つけました。ペパーミントが爽やかで飲みやすい。そして“蒼の”というように日が沈んだあとの夕闇のようなちょっと悲しげなブルーをしています。
良薬口に苦しではなくティータイムを楽しみたいので、メグスリノキだけのお茶には最近クコの実を入れてアレンジしています。ちょっと甘酸っぱいクコの実は動脈硬化や高血圧にいいスーパーフードと称されているようです。
余談ですが宮崎駿監督の映画「風の谷のナウシカ」で子どもたちが“ひめ姉さま”のために集めてきた赤い「チコの実」は架空の木の実らしいです。映画のチコの実はどんな味がするのかしらと想像をしながらティーカップの底にへばりついたクコの実を指でつまんでみる。ぷっくり膨らんだ鮮やかな赤が、ちょっと色っぽい。あしたはもっと元気になあれ。




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