日本企業の医療支援がもたらす、アフリカの病院事情の変化
アフリカには医療従事者の不足やインフラの整備など、多くの課題を抱えた病院が存在します。しかし、日本企業の医療支援がもたらす病院事情の変化を含め、アフリカの病院は地域の人々へ必要な医療を提供するために多くの努力をしています。ここではその現状や課題、日本企業による実際の取り組みを紹介します。
アフリカの国民に合わせた診療科目を強化
アフリカの病院は、一般から専門的な診療科目まで、幅広い診療科目を扱っています。たとえば、内科、小児科、産婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、歯科、精神科、外科、整形外科、腫瘍科などがあります。その中でも、特に以下のような診療科目が特徴的な役割を果たしています。
伝染病治療
現在でも、マラリアや結核、エイズなどの感染症が深刻な問題となっています。そのため、アフリカの病院では、これらの伝染病の治療に力を入れており、エイズ治療に必要な抗レトロウイルス薬や、マラリアの治療に使われるアルテミシニンなどの薬剤が海外から輸入されています。
また、こうした感染症治療のために、診断や薬剤投与、予防策、感染拡大防止などの取り組みを進めています。しかし、医療従事者の不足や薬剤の入手難など、課題も依然として残っています。
※参照URL:https://www.juntendo.ac.jp/news/00124.html
産婦人科
アフリカでは、出産時の合併症が多く、母子ともに命を落とすケースも少なくありません。そのため、アフリカの病院では産婦人科の診療に力を入れています。
最近では、妊婦やその家族に対して健康教育を行うことにより、妊娠中や出産後の適切なケアを促す取り組みが行われています。健康教育の内容としては、妊娠中の食事や運動、分娩時の注意点、新生児のケアなどがあります。
とはいえ、文化の違いにより中々浸透しないことも多いのが現状です。そのため、出産後の母子が帰宅後も定期的に訪問し、健康状態の確認やアドバイスを行うフォローアップが行われています。
※参照URL:https://www.jica.go.jp/botswana/office/information/event/20201126_02.html
小児科
アフリカでは、幼児期の感染症や死亡率の高さが深刻な問題となっています。そのため、麻疹、ポリオ、肺炎、下痢などの病気に対して、ワクチン接種が行われています。
これらのワクチンは国際機関やNGOなどが支援して提供され、子どもたちにワクチン接種を受けさせるために、キャンペーンなども行われています。
ワクチン以外にも、子どもたちが罹患する感染症の治療には、適切な薬剤の投与が必要です。アフリカの病院では、子どもの感染症治療に特化した施設も設置されています。また、治療のための医療品や薬剤を提供するために、国際機関やNGOが支援しています。
そのほか、アフリカの子どもたちは発育遅延や栄養不良などの問題を抱えることが多くあります。そのため、栄養指導や栄養補助食品の提供、必要に応じた医療治療などを行い、子どもたちとその家族に対しては、栄養バランスの取り方や感染症予防など、子どもたちの健康管理を促すことにも力を入れています。
※参照URL:https://gooddo.jp/magazine/health/africa_health/
多くの問題を抱える医療設備
アフリカの病院において医療設備には多くの課題があります。アフリカの病院では、それらの課題を解決するために多角的な取り組みが行われています。
医療機器の整備
アフリカの病院では医療機器の整備が不十分なため、検査や治療が遅れたり、正確な診断ができないケースがあります。このため、国際機関やNGO、寄贈団体などが、医療機器の提供や整備、修理などを行っています。
医療機器の提供には、MRI、CT、超音波検査装置、顕微鏡、人工呼吸器、心電図装置、手術用器具などが含まれます。これらの医療機器は設置場所によって異なりますが、地方の病院でも使用できるように、携帯可能な医療機器も提供されることがあります。
また、アフリカの病院では、整備・修理を専門に行う技術者の養成や、医療機器のメンテナンスのためのツール・パーツの提供など、整備・修理、またはリサイクルを行う取り組みが行われています。
そのほか、最近ではアフリカの病院でも医療機器の購入に必要な資金を調達するために医療機器のローンを利用することもあります。
※参照URL:https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/special/2021/0901/c4bc4c3aba95264c.html
電力インフラの整備
アフリカの一部地域では、電力インフラが不十分なため、病院の電力供給が安定していない場合があります。そのため、発電機の導入やソーラーパネルの設置など、独自の電力供給策が取られています。
また、電力供給が不十分であるため、アフリカの病院では電力の節約にも取り組んでいます。たとえば、照明のLED化や、空調設備の省エネ化などが行われているほか、患者の診察や手術を行う場所に限定し、不必要な電力の使用を減らす取り組みも行われています。
※参照URL:https://greenz.jp/2010/01/29/camel_solar_clinic/
※参照URL:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000011.000044874.html
医療情報システムの整備
アフリカの病院では、医療情報システムの整備が不十分なため、患者情報の管理や医療現場での情報共有が困難という理由から、国際機関やNGOが医療情報システムの導入や整備を支援しています。
医療情報システムが整備されていないと、患者情報の管理や医療現場での情報共有が困難となり、医療の質の向上にも繋がりません。このため、アフリカの病院では電子カルテの導入が進んでいます。
電子カルテ以外にも、検査結果のデータベースや、医療現場での情報共有システムなどが含まれます。これにより、医療従事者間で情報共有がスムーズになり、患者の診療の質を向上させることができます。
また、医療機器の導入だけでなく、それを扱う医療従事者のトレーニングも同時に行われています。医療情報システムの操作方法や、患者情報の適切な管理方法などをトレーニングすることで、医療現場での情報共有の効率化や、医療従事者の業務効率の向上が期待できるからです。
※参照URL:https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kenkouiryou/siryou/pdf/r04_stake_holde
医師や看護師などの人材
病院を運営するには、医師や看護師、薬剤師、臨床検査技師、管理職など、多くの人材が必要です。特に、アフリカのような開発途上国では、特に以下のようなさまざまな原因により、医療従事者の不足が深刻な問題となっています。
大都市に経験のある医師が集中
経験豊富な医師は賃金の高い大都市に移住するため、地方の病院は経験の浅い医療従事者で対応せざるを得なくなっています。そのため、地方では若く経験の浅い医師が一人だけ常駐し全ての村の患者たちを診療するような事態も起きています。
また、アフリカの国々の医師数の具体的なデータは提供されていませんが、日本の医師数が2018年時点で人口あたり2.3人であり、ヨーロッパの国々が4.0人を超えています。しかし、これらに比べ、アフリカの医師数は低い水準であると考えられます。
※参照URL:https://www.jmari.med.or.jp/download/RE077.pdf
※参照URL:https://alj.com/ja/perspective/improving-healthcare-access-in-developing-markets/
待遇面の低さ
日本の医師の収入は他の職種と比べると多く、福利厚生も充実しています。しかし、アフリカでは高い学費を払い医師になれたとしても、病院の雇用率は低く、さらに病院に入れたとしても、収入が低いため他の職種に移る医師も多いです。
また、各市町村によっては医師や看護師に割り当てられる医療人件費も削られることから、離職してしまう医師もかなりおり、中々若い医師が育たない現状にあります。
情勢不安でのターゲットにされやすい
アフリカの国によっては、情勢的に不安定であり、内乱が激しい地域もあります。そのような地域では、クリニックなどが襲撃されるなど、医師などの医療スタッフがターゲットとなるケースも起こっています。
狙われやすい存在のため、医師たちは地方に行きたがらず、給与面でも情勢が不安定のため、結果的に医師になったとしても辞めてしまうことが多いのがアフリカの医師たちです。
日本からアフリカの病院への支援とその取り組み
日本は、アフリカの現状をふまえ、医療施設に対する支援を行っています。具体的には、医療機器や医薬品の供給や、医療従事者の派遣や育成などが挙げられます。ここでは、具体的に日本の企業や団体がどのような支援をしているのか見ていきます。
アフリカ健康・医療分野の人材育成プログラム
日本政府は、アフリカ健康・医療分野の人材育成プログラムを推進しています。このプログラムは、アフリカの医師や看護師の教育や研修を通じて、医療従事者の質の向上を目指すものであり、日本国内の大学や研究機関と協力して実施されています。
具体的には、日本の医療機関での臨床研修や技術研修、大学院での修士課程や博士課程の受け入れ、短期間の研修プログラムの提供などが行われています。
このプログラムにより、アフリカの医療現場の人材不足を解消し、医療の質の向上を図ることにより、医療システムの発展に貢献すると考えられています。また、アフリカとの連携によって、日本の医療技術の海外展開やグローバルヘルス人材育成の推進にもつながると期待されています。
※参照URL:https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kenkouiryou/torikumi/index.html
※参照URL:https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kenkouiryou/suisin/ketteisiryou/dai24/siryou6.pdf
※参照URL:http://global.nagasaki-u.ac.jp/2017/03/02/nl08-03/
AA Health Dynamics株式会社の「メディサイト(Medisight)」,「メディスキャン(MedicScan)」
AA Health Dynamics株式会社は、アフリカにおける医療サービスや医療ビジネスに関するコンサルティングサービスを提供しています。その中でも、「メディサイト(※1)」は同社が提供するインタビューサービスの名称であり、アフリカを中心とした医療専門家に1時間対面・オンラインミーティングツールでインタビューできる仕組みとなっています。
最近では、ルワンダでAI搭載の分娩監視装置分析ソフト Alert-Monitorの開発をしている「株式会社spiker」がメディサイトを通じて、医師レベルのデータ判読を行う、自動診断AIを搭載した分娩監視装置(CTG※)データ解析ソフト、通称「Alert-Monitor」のテストを行いました。
メディカルKOLとは、医療分野において特定の疾患や治療方法についての専門的な知見を持ち、同業者や患者、政策立案者に影響力を持っている医師・看護師・薬剤師などの専門家のことを指します。
AA Health Dynamics株式会社では、企業の規模を問わずケニアのメディカルKOLに効率よくインタビューを実施したい企業の支援をしています。また、アフリカの医師たちの知識や技術不足を補う「MedicScan(※2)」はアフリカの医療従事者への医療教育/情報を提供するプラットフォームとしてケニアを中心に医療スタッフの人材教育のサポートを続けています。
※CTG(Cardiotocogram):「胎児の心拍」「子宮の収縮」から胎児の状態を観測する医療機
※1参照URL:https://www.aa-healthdynamics.com/spiker_casestudy
※2参照URL:https://www.aa-healthdynamics.com/ja/blog/article_7
日本の医療企業や医療機器メーカーのアフリカ進出
日本政府や企業の間でも、アフリカ諸国の医療市場への進出に対する関心が高まっています。日本貿易振興機構(ジェトロ・JETRO)の報告書によると、日本はこれまで、超音波診断装置やMRI装置、心電計など、さまざまな医療機器をアフリカ諸国に輸出してきました。
2021年6月には、日本企業とアフリカのバイヤーによる医療機器のオンラインビジネスマッチングイベントが開催され、アフリカ市場への輸出を目指す日本の医療機器企業に対して、調査や相談などの支援サービスを提供していることが報告されています。
※参照URL:https://www.jetro.go.jp/world/reports/2020/02/9b33dc8a948ba799.html
※参照URL:https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/special/2021/0901/
※参照URL:https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/special/2021/0901/c4bc4c3aba95264c.html
まとめ
アフリカの病院は、多くの課題を抱えながらも、地域の人々に必要な医療を提供するために様々な努力をしています。アフリカの診療科目は日本と同じように幅広く対応していますが、その中でも、マラリアや結核、エイズなどの感染症が深刻な問題となっているため、これらの治療には力を入れて取り組んでいます。
治療以外では、医療機器の整備や電力インフラの改善、医療情報システムの導入も課題の1つとなっています。そのため、国際機関やNGOなどが医療機器の提供や整備、電力供給策の導入、医療情報システムの整備の支援や医療従事者のトレーニングを行い、医療の質向上が期待されています。
そのほか、アフリカでは医療従事者不足も深刻な問題となっています。原因としては、大都市への医師集中、待遇面の低さ、情勢不安などが挙げられます。
そのような状況の中、日本はアフリカの病院への支援を続けています。例えば、アフリカ健康・医療分野の人材育成プログラムでは、日本の医療機関や大学院での研修や教育を通じて、アフリカの医療従事者の質を向上させることを目指しています。
また、個人企業であるAA Health Dynamics社では、アフリカにおける医療サービスや医療ビジネスのコンサルティングを行っており、「メディサイト(Medisight)」や「MedicScan」などのプラットフォームを通じて、アフリカの医療従事者への教育や情報提供を支援しています。
さらに、日本はアフリカ諸国に医療機器を輸出しており、オンラインビジネスマッチングイベントなどを通じて、アフリカ市場への輸出を促進し、アフリカの医療に貢献しています。
ライター紹介
増田さなえ
米国ピッツバーグ州立大学卒業後、セントマシュー医科大学とウィンザー医科大学に進み医学博士取得、救急医師として、米国やカリブ海の医療に従事する。2014年に出産のため休職し、ウェブライターを始める。2014年からカリブ海の救急医として2019年まで働く。2020年からは米国に戻りウェブライター専門で活動中。
お問い合わせ
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AA Health Dynamics株式会社
Email info@aa-healthdynamics.com
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