アフリカの救急医療に革新! 輸血用血液等を運ぶ救命ドローンに迫る
日本でも活躍している輸血用救命ドローンは、医療物資の効率的な配送を支援する革新的な取り組みとして、広大な土地を持つアフリカ諸国でも今注目されています。ここでは、救命ドローンとはどのようなものか、その利用状況や利益性、また、そこから生まれたリバースイノベーションについてご紹介します。
救命ドローンとは
ここでは、救命ドローンとはどのようなものなのか、その用途も含めてご紹介します。
救命ドローンは「そらの物流網」を駆使した無人配送機
救命ドローンは、医療用救命機器や医療物資を搭載し、災害や緊急事態で迅速な医療支援を提供する無人飛行機のことです。これらのドローンは、救急車がアクセスしづらい場所や交通が困難な状況で活用され、患者に医療物資や救命処置を届ける役割を果たしています。
典型的な救命ドローンには、自動体外式除細動器(AED)や医薬品などが搭載され、遠隔操作または自動操縦で運用されています。日本でも五島列島などでは日用品や医薬品などのさまざまな物資が定期的に届けられています。
ここで注目したいのは、「無人の物流配送」というポイントです。空輸など今までも活用されてきましたが、無人で大切な物資を運ぶにはさまざまな課題があり、10年前には不可能とされてきました。
しかし、米国の救命ベンチャーであるZiplineが自律走行型電動ドローンを使用してからは、その安全性や利便性の高さから急速にシェアを伸ばし、地理的に配送が困難な地域にも必要な物資を運ぶことができるようになりました。
※参照URL:Zipline
※参照URL:sora-iina
アフリカでも救命ドローンの有用性が高まる
米国の救命ベンチャーであるZiplineは自律走行型電動ドローンを使ってアフリカの病院に輸血用血液パックなどの医療物資を配送することにより、アフリカ各地の病院に安定的に血液製品を供給を可能にしました。
具体的には、ルワンダにて、大型のドローンを使用して約20の病院へ輸血用血液やワクチンを供給できるようになりました。
また、最近のドローンは最高時速130キロで距離にして80キロ先まで物資を運べるようになっているため、2時間かかっていた医療器材の配送時間を15分まで短縮できるようになるなど便利性や時短にも貢献しています。
※参照URL:ドローンで病院に“血液”届ける救命ベンチャー「Zipline」--日本からアフリカへ現地取材 - CNET Japan
※参照URL:※参照URL:Zipline
アフリカでの救急ドローンの普及性や利益性
現在、世界中で救命ドローンの普及、推進が盛んに叫ばれています。ここでは、世界の中でもなぜ特にアフリカで救命ドローンが普及したのか、その背景やメリットをお伝えします。
地形やインフラ不足と密接な関係をもつ救命ドローン
アフリカ大陸は運輸において地理的な課題が多いため、遠隔地域への医療アクセスが制約されています。救命ドローンのサービスはここに焦点を当て、これらの地域のリクエストに応じた医療支援の提供を切り口として徐々に発達していきました。
また、広大な土地を有するアフリカ諸国では、自然災害や人道的危機が頻発しますが、救命ドローンならば、災害時に医療物資や救命処置を迅速に提供でき、被災者の救援にも役立つことからそのシェアを伸ばしています。
そのほか、アフリカ諸国の 一部の地域では交通インフラが依然として不足しており、救急車などのアクセスが難しいことも多いです。しかし、救命ドローンは道路状況に左右されずに医療物資を届けられるため、交通インフラの問題を軽減できることからも利用する地域が増えてきました。
※参照URL:ドローンで病院に“血液”届ける救命ベンチャー「Zipline」--日本からアフリカへ現地取材 - CNET Japan
※参照URL:https://www.wired.com/story/drones-have-transformed-blood-delivery-in-rwanda/
救命ドローンを選ぶメリットは多数
上記の普及性についても述べましたが、救命ドローンを採用するメリットはたくさんあります。まずは時間の短縮です。時速130㎞まで出せる救命ドローンであれば、飛行距離も約80㎞まで可能です。急性疾患や重傷患者にとって時間は生死を左右するため、迅速な医療提供技術は非常に重要となります。
次のメリットはコスト削減です。救命ドローンは無人であり、スマホで操作できますので、従来の医療輸送のコストをかなり削減できます。また、1回のフライトでは、複数の患者さんであっても一律の費用ですので、費用の面についても効率的な医療支援が可能になります。
さらに、救命ドローンであれば低温保存も可能になります。実際に、Ziplineはファイザー、BioNtechからの支援を受け、コロナのワクチンを−90℃から−60℃の間に保ったまま遠隔地までワクチンを届けることに成功しています。
さらに、ドローンにはセンサーやカメラを搭載でき、遠隔地域の医療スタッフが患者をモニタリングできます。これにより、遠隔診療や適切な医療判断が可能になりますので、医薬品や血液などだけでなく、将来的には無人のドローンを使った遠隔診療やネットワークの構築などにも期待が持てます。
※参照URL:https://www.wired.com/story/drones-have-transformed-blood-delivery-in-rwanda/
※参照URL:Zipline, Pfizer and BioNTech Collaboration Paves the Way for Automated, On-Demand Delivery of First mRNA COVID-19 Vaccines in Ghana
実際に救命ドローンが採用されている事例
アフリカとヘルスケア分野でのドローンビジネスは急速に発展しており、今後の成長が期待されています。ここでは、Ziplineやその他の企業に焦点をあて、それらがどのように救命ドローンを活用しているのかをご紹介します。
Zipline
Ziplineは2016年にルワンダでドローンを使用した輸血用血液や薬物の輸送事業を開始しました。その後、5年間で13,000回以上の輸送を行い、最近ではファイザーやBioNtechと提携してガーナでコロナワクチンを提供し、既に100万人分の配布に成功しています。
また、Ziplineの救命ドローンによるルワンダでの血液輸送時間は、従来に比べ大幅に短縮され、ドローン輸送の半分が41分以内に目的地に到着できています。
さらに現在では、ドローンはルワンダ全体の80%の範囲に物資を迅速に供給できるようになり、物資不足地域にも支援が届きやすくなりました。
今後はルワンダの他にも、ナイジェリア、ケニア、ガーナなどにもそのシェアを拡大していくと期待されています。
※参照URL:アフリカで医薬品をドローン配送 日本では豊田通商に技術提供 Zipline – TECHBLITZ
※参照URL:アフリカ:ドローンでヘルスケアに革命を起こしている企業【Pick-Up! アフリカ Vol. 30:2022年5月10日配信】
※参照URL:アフリカEC最大手と米国ドローン配達スタートアップが協業開始(米国、ナイジェリア、ガーナ) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース
※参照URL:ユニフライなど、医療用ドローンの無線接続による医療品長距離輸送に成功
Swoop Aero
Swoop Aeroは、近年、モザンビーク、コンゴ民主共和国、マラウイなどでの事業を拡大しているオーストラリアの企業です。
特にマラウイでは、アメリカのUPS社(世界最大の宅配業者で、1日あたり平均2,470万個の荷物を世界220の国や地域に配送している)とVillageReach(低所得国の農村地域における医療システムの改善と拡張に取り組む非営利団体で、アフリカのサブサハラ地域における医療システムを向上させるために活動している)と提携し、300万人に医療物資やワクチンの輸送サービスを提供する計画が進行中です。また、UPSとの協力により、緊急災害管理および捜索救助活動のためのドローンの実用化も目指しています。
Swoop Aeroは2025年までにアフリカの1億人に対してサービスを提供する目標を掲げており、アフリカでの成功が先進国への事業展開につながる流れも期待されています。
※参照URL:Kite™ - Swoop Aero
リバースイノベーション
アフリカでのドローンの活躍とともに頻繁に語られる「リバースイノベーション」とは一体どのようなものなのでしょうか。ここでは、その意味や有用性をお伝えします。
リバースイノベーションとは
新興国や発展途上国で、先進国が開発した技術や製品を独自の方法でアレンジ・改良し、現地のニーズやリソースに合わせて再利用・展開するプロセスを指します。これは、高度な技術を低コストで提供し、新たな市場や社会的課題に対処する方法の1つとして用いられています。
新興国や発展途上国において、医療物資や農産物の輸送、緊急医療サービス、農業の効率化などにドローン技術を応用、発展させることにより、ドローンを開発した米国やその他の国々で再注目され、そのシェアを広げつつあることがまさしくリバースリノベーションの典型的な事例です。
現在、ドローンのみならず新たな技術や製品がアフリカを発信源にして、欧米諸国や日本などにもたらされ、その地域のニーズに即した救命ドローンのソリューションが提供され、社会的・経済的なインパクトを生み出すことに成功しています。
※参照URL:アフリカ発のリバースイノベーションとは?事例と参入時の注意点もご紹介
※参照URL:https://getnavi.jp/nbi/795780/
リバースイノベーションの利益性
リバースイノベーションを採用することにより、国内では生まれない新しい技術や製品、サービスが開発できるようになります。これにより、独自性を持ち、他社との大きな差別化が可能となることが1つ目のメリットです。
2つ目のメリットは、リバースイノベーションを通じて、途上国や新興国の社会課題やニーズに対応できるようになります。直接シェアを拡大したい地域でのニーズが把握できるため、効率的な経営が可能となります。そのため、新たな雇用機会を生み出し、経済市場の活性化と資金の有効な利用が生まれやすくなります。
最後のメリットは、多国籍企業向けの成長戦略ができるということです。リバースイノベーションは多国籍企業にとって有用な成長戦略です。国内で生産し、輸出する場合と比べて、より質の高い低価格の商品を提供できます。
また、新たな技術や発想を取り入れ、途上国や新興国のニーズに適合することで、イノベーションを促進し、グローバル市場での企業価値向上を図ることができます。以上のように、今後もアフリカ諸国を通じてさまざまなリバースイノベーションが起こると期待されています。
※参照URL:「スタートアップの経営戦略」リバースイノベーションの意味とは?メリットや成功例も紹介 EXPACT
まとめ
日本でも活躍する輸血用救命ドローンは、アフリカ諸国でも注目を浴びています。これらのドローンにより、特にアクセスが難しい場所で医療支援も可能になりました。
米国のZiplineなどは、アフリカの病院に医療物資を供給するために救命ドローンを使用し、血液製品などの医療物資の供給を行っています。ルワンダなどでは大型のドローンを活用し、病院への医療物資供給が向上し、配送時間も短縮されるようになりました。
また、Ziplineだけでなく、Swoop Aeroなどの新しい企業などもアフリカのスタートアップ企業に参入し始め、再びアフリカの市場に注目が集まっています。
これらのドローン技術の医療分野への応用は、リバースイノベーションの代表例であり、それらを通じて、アフリカは独自のニーズに合わせたドローンテクノロジーを開発し、地域社会に多くの利益をもたらしています。
アフリカのドローン技術は、今後も新たなビジネスモデルやイノベーションの機会を提供し、地域経済の発展に貢献してくれると期待されています。
ライター紹介
増田さなえ |AA Health Dynamics株式会社 グローバルサウスにおける事業開発支援集団 (aa-healthdynamics.com)
米国ピッツバーグ州立大学卒業後、セントマシュー医科大学とウィンザー医科大学に進み医学博士取得、救急医師として、米国やカリブ海の医療に従事する。2014年に出産のため休職し、ウェブライターを始める。2014年からカリブ海の救急医として2019年まで働く。2020年からは米国に戻りウェブライター専門で活動中。
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AA Health Dynamics株式会社
Email info@aa-healthdynamics.com
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