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原宿サン・アドの 次の時代をブランディングする

原宿サン・アドは2024年6月にWebサイトをリニューアルしました。より多様化し複雑になるクライアント課題の解決に向け、ここ数年をかけて提供価値をコーポレートアイデンティティ(CI)として構築し、自社のケイパビリティを強化。そんな取り組みと地続きとなる今回のサイトリニューアルは、デジタル領域の精鋭SHIFTBRAINさんと原宿サン・アドの有志がチームになって取り組んだプロジェクトでした。半年以上にわたって根気強く伴走していただいたSHIFTBRAINのメンバーと今回のリニューアルを振り返ってみました。

参加者:
宮本浩規さん(SHIFTBRAIN)/アートディレクター、デザイナー
小林徹哉さん(BACON)/プロジェクトマネージャー、Webディレクター
安藤郁さん(SHIFTBRAIN)/プロデューサー
後藤真也(原宿サン・アド)/クリエイティブディレクター、アートディレクター
吉田桃子(原宿サン・アド)/コピーライター


はじめに:「僕たち、似てるんじゃないかと思ったんです」 

後藤/HSA:原宿サン・アド(以下HSA)は今年で創業50年目を迎えるいわゆる老舗のクリエイティブエージェンシーです。(自分で老舗って言っちゃって恥ずかしいですね。)現在70名ほどの会社なのですが、ここ5~6年でぐっと若い社員も増えて事業領域も拡張しました。こういった変化を背景に去年CIをつくったこともあり、それを内外に発信するためにWebサイトリニューアルのプロジェクトが始まりました。

後藤真也(原宿サン・アド)/クリエイティブディレクター、アートディレクター

安藤/SB:HSAも広告制作全般をおこなうクリエイティブの会社ですが、外部パートナーと進めることにしたのはなぜでしょうか?

後藤/HSA:外部パートナーとの連携は大前提でした。社内スタッフの稼働の問題ももちろんありますが、デジタル領域での体験設計についてはその領域のプロと一緒に進めたかったんです。それにCIは社内のメンバーで議論して策定したので、そのアウトプットのプロセスでは客観的な視点を入れるということも意識していました。自分たちで考えたものを、ある意味で答え合わせしながら外に出ていく形にしていくというか。

安藤/SB:そんな中でSHIFTBRAIN(以下SB)にお声がけいただいた理由は?

後藤/HSA:シンプルに僕がファンだったからです(笑)パートナー選びがこのプロジェクトの運命を握るので、ぜひ声をかけたいと思っていました。いろんな事例を拝見しましたが、その会社のいいところを丁寧に表現しつつも、デザインの見せ方にはオリジナリティや新しさが感じられて素晴らしいなと。クライアントの深いところまで潜って、時間をかけて寄り添う姿勢や、人となりがちょっと僕らに似てるんじゃないかと思ったんです。まずは徹底的にクライアントのことを知って、その中から大切なものを取り出して強くするみたいなやり方も含めて、同じスタンスで一緒にできるんじゃないかと期待していました。

安藤/SB:ありがとうございます。お問い合わせいただきたときは、宮本さんが「やりたい!」と最初に反応していたのを覚えています。他にもやりたいと声を上げてくれるスタッフがたくさんいましたよ。

安藤郁さん(SHIFTBRAIN)/プロデューサー

役割:クリエイティブの共同作業 

後藤/HSA:今回は同じクリエイティブの会社同士の共同作業ということで、アウトプットに関してはSBの宮本さん(AD/D)にデザインをいただきつつ、HSAの後藤(CD/AD)を中心にフィードバックをおこない、コピーは吉田さん(CW)が書くという形でした。

吉田/HSA:ワイヤーが「ここにいい感じのコピーが入ります」みたいなダミーコピーの状態で上がってきて、それも「こんな場所に?」みたいなところだったりして(笑)普段はこういうやり方はあんまりしないので新鮮でした。TOPに「こんにちは、原宿サン・アドです。」という言葉が入っているのですが、ここにコピーが入るということ自体がアイデアだったなと思っていて。あとは地図の上ですね。コピーくださいって言われなかったら何も入れなかったと思うんですが。ナイスパス(キラーパス?)だったと思います。

吉田桃子(原宿サン・アド)/コピーライター

宮本/SB:TOPのコピー、最初は英語にしてたんだけど、吉田さんから絶対に日本語で言ったほうが良さそうという意見があって、リライトしてもらったんですよね。クリエイター同士じゃなかったら、ああいう会話ってあまりないと思います。

後藤/HSA:やっぱりクリエイティブの会社がクライアントだと違いましたか? 

宮本/SB:ぜんぜん違うと思います。視点がガラッと変わります。経営目線とか広報目線、採用目線とかでのフィードバックはあるけど、デザイナー目線、特にコピーライター目線でのコメントって普段はないので。クライアント側からのクリエイター目線のフィードバックが相乗効果を生んでアウトプットがブラッシュアップされていくという経験はこれまでにあまりなく、楽しかったです。

宮本浩規さん(SHIFTBRAIN)/アートディレクター、デザイナー

後藤/HSA:僕はこのプロジェクトがはじまるときに、SBさんには自由にやって欲しいなと思っていて。クリエイターを信頼して、最大限その人のいいと思うアイデアを発揮できる状況をつくりたいし、それがカタチになればいいなと思っていました。普段のクライアントワークではなかなか叶えられない遊びみたいなものとかを盛り込める機会になればいいなと。

小林/SB:ありがとうございます。こちらから攻めた提案をする箇所も多々あったんですが、それに対してポジティブな返事をいただけることが多かったように思います。却下だとしても僕らが納得できるようにご説明いただけたのでマイナスな印象はなかったです。フロントもバックエンドも、それぞれのメンバーがプロジェクト内での担当領域を持って役割を果たせたのがよかったです。

視点:「カルチャー視点」って何だったの? 

吉田/HSA:第三者目線で見ていただけたからこそスッキリと整理できた部分もあるのかなと思います。特にHSAがブランドの独自価値として打ち出している「カルチャー視点」がそうではないでしょうか。これはCIを決めるときに、ユーザーをより深く理解するためのいわば決意のようなものとして掲げた言葉です。ただ我々の言う「カルチャー」という概念は、辞書に載っているいわゆるカルチャーとはやや違う意味のもので、ここをどう伝えるのかが今回リニューアルするサイトのミッションのひとつでした。HSAが伝えたい「カルチャー」をサイトで体現するために、どのように捉えていったのでしょうか。

小林/SB:最初は原宿カルチャーみたいなイメージもあったので、企業の価値観や信念、文化といったものだと思っていました。ヒアリングを進めていく中で、このカルチャーという言葉の捉え方は個々人で違っていることがわかってきました。

小林徹哉さん(BACON)/プロジェクトマネージャー、Webディレクター

後藤/HSA:自分たち自身もまだうまく言語化できていなかったので、第三者の視点が欲しかったんです。最初は他の会社がやっていないような、リサーチやクリエイティブの「手法」としてカルチャーの説明をしようとしていて、ワイヤーでどう伝えるのかずいぶん悩みました。僕らはユーザーの価値観に目を向けることで、マーケティング視点だけでは見えてこないようなものを見ようとしているんです。でもカルチャーという言葉そのものを説明することはそんなに大切ではなくて、我々は生活している人たちの大切にしていることが何かを突き詰めていくんだっていう「姿勢」をきちんと打ち出していけばいいって気づいたんです。

小林/SB:手法というよりスタンスの話ですね。

宮本/SB:僕は概念としては理解できていたので大きな方向性は悩まなかったですが、コンテンツや表現の中にどう落とし込んでいくのかが悩ましかったですね。ガッツリどこかで説明しきるというよりも、スタンスとしてその意義が感じられるサイトにする方がいいと思ったんです。

後藤/HSA:プロジェクトメンバーと議論をする中で少しずつ理解が深まっていって、最終的なアウトプットの形が社内での共通認識になったと思います。カルチャーの概念についていろいろと考えはあるけど、説明しすぎるものでもないなということに気がつけたのは大きかった。同じクリエイターの客観的な視点があったからこそですね。

吉田/HSA:答えはひとつではないから、社員数名からコメントをもらって載せるというコンテンツもよかったですね。

安藤/SB:実はSB内のメンバーに共有したときも、ぱっと見でカルチャー感があるという感想が聞かれました。初見のリアクションでそのキーワードが出るのは、ちゃんと感じてもらえるサイトにできた証拠ではないかと思います。

HSAの仕事の進め方や手法を紹介する“Workflow”
社員がそれぞれが思うカルチャーについてコメントするコンテンツ“Keywords of Culture”

プロセス1:ブランディングの「はじまりの点」 

吉田/HSA:我々も企業のブランディングを手掛ける会社だからこそ、自分たちのブランディングを外部のパートナーと一緒に進めるのは新鮮な経験でした。進め方も勉強になりましたね。
SBさんの具体的な手法でいうと、「デザイン・プリンシプル」を言葉で始めるところが独特だったなと思います。コピーライターが言葉を使ってコンセプトをつくっていくことはよくあるんですが、アートディレクターが言葉でプリンシプルをつくるのは新鮮でした。

後藤/HSA:HSAは基本的にチーム全員でアイデア出しをするのですが、言語化はコピーライターで絵はアートディレクターで、みたいな棲み分けをしていることが多いです。

吉田/HSA:チームの中で言葉が先に見えたか、絵が先に見えたか、早いもの勝ちみたいな企画の仕方が多いですね。(CWに絵が見えることだってあるし、ADがコピー書いちゃうこともありますよね。こういう越権行為、私はすごく好きなんですけど。)クリエイティブの「はじまり方」にルールはないです。

小林/SB:広告だと媒体とかタレントとか何かが決まっていて、そこに肉付けしていくみたいな流れが多いかもしれないですね。コーポレートサイトのリニューアルでは、その最初の点がないことが多いので、「点づくり」を誰がどうやるのかが大きな問題になります。SBの場合はフロントに出ている人の中で得意な人がやっていくのが基本です。今回は宮本さんがデザインの考え方と、そこに言葉を紐づけていくことまでできちゃうADなのでやってもらいました。もちろんこのステップできちんとCWが入ることもありますよ。
宮本/SB:今回はHSAからCWがチームに入ると聞いていたので、それだったら一緒にやっていけるなと思って。SBから出したのはチーム内で認識を合わせるためです。

後藤/HSA:はじまりの点が我々の認識とピッタリはまったからデザインのアウトプットまでスムーズに議論が進められたと思います。HSAでもクライアントの思いに共感するところから思考をはじめますが、このプロジェクトもまさにそうだったと思います。

プロセス2:「ブランド・アーキテクチャー」

吉田/HSA:SBさんのメソッドのひとつである「ブランド・アーキテクチャー」は、徹底的な社員へのヒアリングとリサーチを経た上で、そこからキーワードを抽出し、ブランドのDNAを3つのワードに落とし込んで、それをもとに「デザイン・プリンシプル」を構築するというプロセスを踏むものでした。
最初のヒアリングがすばらしかったですね。あれだけたくさんの人の話を聞くのってすごく労力がかかるし、誰がどんな人なのかまったくわからない状態で、みんな好き勝手なこと言うし。でもSBさんにお願いすることによって、ある意味潔く捨てる部分は捨ててもらえたように思います。身内だとノイズも多いじゃないですか。3つのキーワード(Timeless/Smooth/Twist)へとシンプルに削ぎ落としていただけたのが見事でした。このプロセスで印象的だったことはありますか?
※プロジェクトの初期、5回にわたって4-5名ほどでのグループインタビューをおこなった。

宮本/SB:社長やCI策定メンバーのヒアリングからはじめて、こんな感じの会社か~と思っていたところに、新しい意見を持った人たちの回があったりして。HSAさんの中で、新旧それぞれの考えや思想が混在している印象を受けました。

後藤/HSA:社内でもわりと異分子的な社員を意図的に送り込んだ回がありましたね(笑)対局にある意見をまとめるのは大変じゃなかったですか?

宮本/SB:どっちもあっていいよねというのが基本的なスタンスでした。3つのワードでつくったブランドDNAは、めちゃくちゃ抽象化するとこうだよね、という考え方です。そういう意味では極端にイレギュラーなものは出てこなかったというのが正直な感想ですね。これまで受け継がれてきたものを「Timeless」が包摂して、新しい意見は「Smooth」とか「Twist」に託すような形です。いろんな意見があることから「Cameleon(カメレオン)※」的なニュアンスの言葉も出てきました。
※DNA規定ワードの候補として挙がっていたもので、これを気に入っている社員もたくさんいた。

小林/SB:例えば、社員さんが忖度して代表の方の意見と同じようなことを言う会社さんもあるんですけど、HSAの場合は会社の方針に従う人もいれば、新しく入社された方でも自分なりの意見があったりとか、個人でしっかり立って意見を言う方が多いような印象がありました。僕も代表の言葉だけだと本当にこれでいいのかなと思ってしまいますね。たくさんいろんな人から意見を聞いたほうがカタチが見えやすいということはあって、今回はまさにそのパターンでした。もちろんすべての意見を拾えるわけではないですが、仮にプリンシプルのワーディングからは漏れても、設計やデザインで実は巻き取れる箇所があります。

吉田/HSA:確かにひとつの方向性の意見しかない会社はちょっと不安になっちゃいますよね。いろんな人がいろんな意見を持っているのは当然なので、それらが組織の中でどんな力学を生んでいるのかを立体的に見極めることが大切だと思います。

後藤/HSA:どこまで声を反映するかはいつも難しく感じます。自分たちはお客さんの要望を聞く方だなと思っていて、できるだけ取り入れようとする意識が強いです。SBさんはどうですか?

宮本/SB:会社の目指す先にその意見が向かってないと感じたら、外すことはありますよ。会社ってひとつの船でどこかを目指しているわけだけど、違うルートで同じ場所を目指そうとしている意見なのか、まったく違うところを目指しちゃってる意見なのか、の見極めはいつも気をつけています。今はズレて見えるけど、もっと先に向かいたい未来には必要な意見だったり、ということもありますね。

後藤/HSA:インタビューでは少し先の未来に向かっている言葉もうまく引き出したいですよね。ブランディングは現在の姿だけでなく、少し未来の姿を見せるという役割もあると思っています。

プロセス3:インプットをアウトプットする

吉田/HSA:デザインの方向性が見えたのっていつですか? 本当は最初から見えてたとか?

宮本/SB:今回は本当に段階を追って徐々に見えてきました。DNAを表す3つのキーワードのボリューム感(比重)について吉田さんから意見をもらったくらいから大きな方向性、サイトの佇まいが見えてきたように思います。手触り感というか、柔らかい質感の骨格が見えたんです。それまではもう少し落ち着いた雰囲気になるんじゃないかなと思っていたけど、会話を経て変わっていきましたね。

吉田/HSA:宮本さんが考えた「Timeless」「Smooth」「Twist」の3つのワードが、それぞれ時間の概念、触覚の概念、運動の概念になっているのに気がついたんです。大きな時間の流れが洗練された佇まいを表しつつ、その中には滑らかで柔らかな手触り感があって、そして両者を小さくて動的な要素が刺激している。三者は絶妙なバランスで均衡を保っているイメージでした。

DNAを表す3つのキーワードのボリューム感やバランスを規定

宮本/SB:僕の場合は最初にイメージがあって、会話の中で答え合わせをしていくことが多いですが、最初のイメージから変化するのはレアケースですね。歴史あるクリエイティブエージェンシーに対する漠然としたイメージとして「Timeless」とか落ち着きみたいなのが最初にあったのですが、それが会話によって崩されていきました。「Smooth」や「Twist」がじわじわ効いてくる感覚です。

後藤/HSA:「Twist」具合のレファレンスをいくつも出してもらいましたけど、もっと遊びたいとかあったんですか?

宮本/SB:動きで遊びたいという思いはもちろんありますが、今回はHSAの実績を見せることがメインなので、それを邪魔しないようにという考えは常にありました。なるべく邪魔しないで遊びの要素を入れることを考えていまの形になっています。

後藤/HSA:個人的にはできるだけ遊んじゃったほうがいいなと思っていました。HSAはクライアントのことを素直に表現することを得意としますが、もっと今のソーシャルっぽい、ユーザーの共感をくすぐるような要素も取り入れていきたいと思っていて。今回つくるサイトが無理やりにでも意識をスイッチさせるきっかけになればいいなと。あんまりオーセンティックなところにとどまらないようにしてくれたのが、会社をいい方向に引っ張っていってくれそうです。

考え方:「ブランドの意志」はどこにある?

吉田/HSA:そういえばデザイン全体の色味を決めるとき、大井さん(HSA代表)がこれがいいって言ったあとに自分が違うことをいってそれに決まっちゃったことがあって。「ブランドの意志」ってどこにあるんだろうって思っています。単純に従業員全員で多数決をとってということでもないし、社長が言ったからそうしますということでもなくて。

宮本/SB:多数決は良くないですよね。実は意見を聞きすぎるのが自分の弱みだと思っているんですが、なぜかというと、聞きすぎると本当にいいものが選ばれない可能性があるからです。方法論として有効だと思っているのは、メリット・デメリットを全部クリアにした上で、最終的に向かいたい方向性と照らし合わせて、それに一番効率的に行けるのはどれだろうかという議論をすることです。

吉田/HSA:決定のプロセスをブラックボックスにせずに、全部透明にするというのはいいですね。議論しやすく納得度も上がる方法は、私たちも常に意識しています。

宮本/SB:ただクライアント側ではまだイメージできてないけど、絶対こっちのほうがいい!って確信しているときはゴリ推ししますよ。

小林/SB:ブランドの意志って難しい問題ですよね。僕が思うのは、基本的にはブランドの意志はユーザーにあるということです。ユーザーがそのブランドにどういうふうになって欲しいのか、あって欲しいのかを体現するのがブランドだから。Appleなんかは特殊で、ブランドの意志が企業やそのアイコンになっている人物が持っている場合もありますが、基本的にはユーザーですね。

吉田/HSA:ブランドの意志ってどこか一点にあるというよりかは、ユーザーと企業と従業員と、いろんなファクターの関係性の中にありそうだと言えますね。いろんなもののバランスの中で最適解が定まる、みたいな。

後藤/HSA:これはまさに我々が「カルチャー」で考えていることに似ていますね。かつてはブランドへの憧れの醸成がブランディングの仕事で、それはブランドからユーザーへの一方通行のコミュニケーションでした。今はユーザーから発信されるカルチャーの力が強くて、人を動かす力のある価値観がユーザーサイドで生成されている状況があります。ユーザーがいる場所にブランドが足を運んで、共感しながら一緒につくっていく必要があるんだと思っています。ちなみに今回宮本さんがゴリ押ししたかったのはどの部分ですか?

宮本/SB:天気のコンテンツですね。HSAらしいコミュニケーションを感じるサイトにしたいなと思っていて、その一環で天気を提案しました。あれがなかったら弱い感じがしたんです。ゴリ押しするまでもなく通っちゃいましたが。

TOPページの右上に原宿のリアルタイムの天気が表示される仕組みになっている。マウスオーバーすると大きくなるのがかわいい。

吉田/HSA:天気はいい意味でめちゃくちゃビックリしました。文句のつけようがない、いい提案だったと思います。天気の話ってまさに「Timeless(普遍的)」で誰とでもできる話ですよね。それに会ったときに「今日いい天気ね」とか「午後雨降るみたいよ」とか言ってくれる人って絶対いい人じゃないですか。機械的じゃない人の良さが出ていて、HSAらしい人柄「Smooth(滑らかで柔らか)」が表現されている。マウスオーバーで大きくなる仕様は「Twist(捻り)」だし。自分たちだけではなかなか表現できなかった「らしさ」を掬い取ってうまくカタチにしていただけたと思います。

後藤/HSA:サイトのどっかに絶対必要じゃない要素を入れたいと思ってたんだけど、天気はめっちゃいいなと思いました。全社員の前で共有したときも、誰からも異論なかったです。あとお問い合わせの握手とかもいい。デジタルの設計としていいアイデアをうまく盛り込んでもらえました。

宮本/SB:天気については「スペクトル」っていうキーワードが吉田さんから出てきて、「変化する」っていうデザインのコンセプトが固まったので、「よくわからないけど変化するもの」っていう発想で入れました。

吉田/HSA:もともとスペクトルっていう考え方自体が原宿サン・アドのサン(SUN)、太陽の光っていうところから出てきているんです。七色を内包した白い光。いろんな解釈を私と宮本さんの間でパスしてるうちにコンテンツに辿り着いたっていうことですね。めっちゃおもしろい。

宮本/SB:よくわからないものを入れたかったのは、大井さんが言ってた『洋酒天国』※を見たときに、よくわからないコンテンツがところどころ差し込まれているのが印象的だったんです。これなんの意味があるんだろう?みたいな。特に説明はしなかったけど、提案が受け入れられたっていうのは何かしらそういう土壌やイズムがHSAの中にあるんだろうと思いますね。
※サントリーの広報誌(1956-63年)。知的で粋な誌面が人気となり、日本のバー文化を切り拓いたとも言われる。

後藤/HSA:今のHSAの中で、自分がワクワクするものを手放さないとか、よくわからんけどおもしろいものに向き合うとか、そういうのって大事だよねって方向に気持ちがシフトしてきているのもあると思うな。会社の人数が増えて、仕事の幅も増えて、まあ正直大変な仕事も多いなという気分がある中で、みんな必要だと感じていた時期だと思うんです。そういうことを思い出させてくれるサイトになりました。

吉田/HSA:社内外からの評判もいいですよね。「ブランドらしさ」は明文化されてないし、明確に誰かが持ってるものじゃないんだけど、アウトプットされたものにみんなが賛成したってことは、みんなで共有しているビジョンがきっとあって、それを表現してもらえたということですよね。

ページ下部をスクロールすると次のコンテンツにシームレスに遷移する仕掛けも。

おわりに:共創の手応えと、これからのブランディング

安藤/SB:最後に、一緒にやってみた率直な感想をみなさんから聞きたいです。私は、いいものを一緒につくっていきたいというグルーヴ感はプロジェクトを通して常に感じていました。あとはリスペクトしあえる関係性。SB社内でも「餅は餅屋」って言うんですけど、お任せできるところはして、得意なところは信頼してもらって、制作のプロだからこそ分かち合えるものづくりの醍醐味があったなと感じています。

小林/SB:会社同士のコラボレーションで、他の会社のやり方を知れるのはいいところですよね。秘伝のタレをちょっとずつもらえるみたいな。

吉田/HSA:餅は餅屋って言っても、みなさん餅屋以上ですよね。それぞれのクリエイターが専門領域を超えてわずかににじみ出てるものってやっぱりおもしろいなと思います。この人ここまでやるのか、とか、専門じゃないのにセンスいいじゃん、みたいな発見があるのって他のクリエイターと共創することのおもしろさのひとつなのかなと思います。

後藤/HSA:今聞くことじゃないんですけど…小林さんって何者ですか?(笑)ブランディングへの知見もあり、エンジニアとの技術的な連携もして、全体のことをバランス良く見てくれていて。おかげで非常にスムーズに進められたと思います。

小林/SB:一応役職としてはWebディレクターなんですけど、過去に広告制作会社にいた経験があって、昔はサイト構築とかもやってたので、予算感や工数も感覚的にわかる部分があります。今はフリーでやってて、SBの外部パートナー的な存在です。他の会社とやることもありますが、SBはブランディングのワードチョイスや、ストラテジーにかける時間が圧倒的に長いですよ。HSAとは相性がよかったと思います。伴走しながらチーム全体で制作を進められたのはSB×HSAの共創ならではなのかなと思っています。

後藤/HSA:メンバーそれぞれに学びもあり、本当にありがたかったです。今回は自分の中でのブランディングに対する考え方の変化を感じるきっかけになりました。僕は特にグラフィック出身なので、どこかでブランディングを、「身なりを整える」静的なものとして捉えていたんですが、今はブランディングをユーザーと一緒につくる、動的なものとして考えていて。そういう意味でデジタル領域で、実際に触ってもらえるものをつくるのは今後もとても重要になってくると思います。HSAはブランドの根幹をきちんと整えていく仕事もするし、ユーザーが触れるコンテンツをつくる仕事もしているので、ブランドのあるべき姿を、佇まいからその振る舞いに至るまでコントロールして行き渡らせることができるんじゃないかと思っています。

宮本/SB:ユーザー体験の中でブランドの「らしさ」を感じてもらうことは、今回かなり意識していますね。

後藤/HSA:まさにそうなんです。例えば僕らはSNSの運用なんかもやっていますが、ユーザーに近い場所だからこそ、ブランドとしてどういう行動を取るべきなのかいつも考えてます。今回デジタル領域を通してブランディングに向き合う中で、新たなHSAの強みが見えてきたように思います。SBさんとは今後、コンテンツなんかも一緒につくれたらいいですね。

宮本/SB:それ絶対楽しいですよね。僕も今回が成功体験になって、今後もいろんなチームとやってみたいなと思うようになりました。ストラテジーから一緒に組むこともあまりないので、また一緒にやれたらおもしろそうです。


▼ SHIFTBRAINさんのnoteでも今回のリニューアルを振り返っています

インタビューにも出ていただいた宮本さん、安藤さんと、クリエイティブの視点でプロセスを振り返るnote記事です。
本記事とあわせて是非ご覧ください!


▼ リニューアルしたWebサイトはこちらから

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