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新米論点その1

 皆さん、こんにちは。

 小池精米店・三代目、五ツ星お米マイスター・東京米スターの小池理雄(ただお)です。

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「新米」という「品種」

 この時期になるとやおらテレビや雑誌で取り上げられるのが「新米」の話です。
 ひと昔前までは、新米を都内の米屋がわざわざ高知県や宮崎県から引っ張ってきて販売していましたが、今はあまりそこまでせず、普段販売しているお米の「新米」が出てくるのを待つ、という米屋が多いようです。その理由の一つとして「普段扱っていない産地の新米よりも、古米であってもいつも扱っている『つや姫』やゆ『めぴりかの』方が美味しいから」ということがあります。

 筆者の経験則では、6月の中旬に目新しさではバツグンの「沖縄県石垣島ひとめぼれ」と「ちゅらひかり」を除き、「本当に美味しい新米ラインナップ」は8月中旬に発売される佐賀県コシヒカリ、通称「七夕コシヒカリ」からスタートすると言っても過言ではありません。

2018年10月

 とは言え「新米」という呼称にはまだまだ一般受けする力があります。この時期お客様からは「美味しいお米はありますか?」という質問ではなく「新米ってありますか?」という質問を受けます。この時期、お米は「味」や「品種名」ではなく、一括りで「新米」と呼ばれるのです。いわば「新米」という「品種」がこの時期に現れると思って下さい。

 そして、冒頭に述べたように、毎年この時期になると新米が取り上げられるのですが、毎回毎回話題になること…つまり「論点」は「同じ話」ばかりなのです。いわば「新米あるある」を毎年毎年繰り返して話しているのですが…。

新米論点とは 

 今回と次回の2回に分けて「新米にまつわる論点整理」を行っていきたいと思います。
 是非ご覧頂き、来年以降も繰り返し話題になるであろう論点について、今回ご自分のなかで決着をつけて頂ければ幸いです。

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代表的な論点は以下の5つ。

①新米の炊き方はどうするの?

②もう9月だから新米シーズンでしょ。

③新米よりも多少時間が経過したほうが美味しい。

④新米って北海道が一番遅いんでしょ?

⑤新米っていつまで呼ぶことができるの?

です。

今回は①と②について触れてみます。

① 新米の炊き方はどうするの? 

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 新米は水分が多いと言われますが間違いです。
 お米は収穫した後に保存が効くように乾燥させています。水分は14.5~15%くらいです。この値を守らないと「等級」…いわゆる「玄米の格付け」が落ちるため、生産者からの売り値が下がってしまうのです。
 そのため生産者が意図的にこの範囲を守らない、ということは滅多にありません。そう、水分は変わらないのです。
 いっぽうで新米はお米の組織は古米に比べて硬化していないので、通常の水加減だと柔らかくなることはあります。
 そもそも「炊飯」とは「煮る・蒸す・焼く」の三段階を経て米のでんぷんをβ(ベータ)化からα(アルファー)化させることです。その過程において大事なのが「熱」です。水を介して熱が米粒に伝わることにより、でんぷんが柔らかくなる(α化)するのです。水が多いと熱が伝わる時間が長くなるので、よりでんぷんのα化が進むのです。
 お米に水を浸漬させる工程は、上記にあるように熱伝導の役割を期待するところがあります。しかし同時にお米のでんぷんを糖化させる「アミラーゼ」という酵素を活性化させる目的もあるのです。
 個人的には新米であろうと古米であろうと、米の芯までしっかりと浸漬させることが、そのお米のポテンシャルを引き出す手法だと考えています。そこは省くことは出来ません。
 最近は「『新米だから水の吸水が早い』というのは誤解だ」とも言われています。その原因の一つに毎年の酷暑の影響があります。猛暑になると米粒のでんぷんが充実しないため、お米に弾力が無くなります。そのため新米であってもじっくりと時間をかけて水を米の内部に浸漬させてないと、ふっくらと仕上がらないのです。

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 新米の美味しさを十二分に味わいたいのであればしっかりと浸漬させること。そのうえで柔らかさが気になる人は、しっかり浸漬させたうえで早炊きモードで炊飯するか、通常の炊飯でやや水を少なくするか(3~5%くらい減らす)、です。
 いずれにせよ品種によって出来あがりも様々ですし、絶対的な答えは無いのですが、「新米だから水加減を減らして」という単純な話ではないことは覚えておいてください。もし新米の柔らかさを何とかしたい!という人は試して見て下さい。

② もう9月だから新米シーズンでしょ。

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 テレビや雑誌の取材を8月ごろに受けると「9月放送(もしくは発売)なので、新米のシーズン真っ只中の『旬な話題』なんすよ。ところで、いま(8月に)紹介できる新米ってありますか?」とやや難題を振られることがホントに多いです。
 まず新米シーズンですが、それ自体は6月から始まっています。そして8月中旬から本格的に始まるのですが、とは言え9月の初旬だとまだそれほど種類は出ていません。9月の中旬以降に新潟コシヒカリが、10月になって東北のお米が本格的に出てくるので、美味しい新米があちこちから出てくる「真っ只中」な時期とは10月ごろの方が正しいのです。
 もちろん「早場米」を売りにしている地域もありますので、都内ではこの時期しか目にしないお米もあります(例:宮崎県産コシヒカリ)し、そういった意味では新米シーズン真っ只中…のような気もします。しかしそれは先述したように「新米」という「疑似品種」で販売しているお米が多いだけであって、皆さんが知っている「魚沼コシヒカリ」「つや姫」「ゆめぴりか」などは、9月後半~10月半ばにかけて出てくるのです。
 昔は「11月23日の新嘗祭まで新米を口にしない」という習慣もあり(実際にそのようにしていたかどうかは不明)、また「米穀年度」というお米の暦(今は使われていませんが)では、11月が新年度の最初の月になっています。

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 ここからも皆さんの感覚の新米時期と業界内の新米時期の感覚が若干ずれていることが分かりますね。
 ただこの時期は「新米」というキーワードのおかげでお米業界全体が盛り上がる時期ですし、個人的には単純に楽しめたら良いとは思っています。ただ…「8月中に新米をいくつか揃えてねー」というお話しはやや難儀(相当に難儀)であることをご理解いただきたいです。

 ということで③以降は次回へ続きます。

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有限会社 小池精米店 三代目 小池理雄(ただお)

五ツ星お米マイスター/東京米スター/6次産業化プランナー(中央サポートセンター登録)/社会保険労務士

東京都米穀小売商業組合所属/東京都ごはん区メンバー

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