コンサータ服用開始前夜
急に思い立って、浮き沈みの激しい自分の生きづらさに名前をつけたくなり、初めて降りる駅に向かった。
人に電話する約束を忘れ、言われた指示を忘れ、毎回同じ確認事項を忘れ、メモしても忘れ、メモごとどこやったか忘れ、机も部屋も散らかり放題の、ありとあらゆる昔の自分の行動に齟齬がなかったか不安にばかりなる私が、突然行動を起こした。
朝起きて体を起こすのに20分かけ、だらだら身支度をして、家を出れば良いのに別のことをし始め、結局ギリギリに家を出て、凍った道で自転車ごと転んで負傷し、予定の電車に乗れず、仕方なく特急券を買って、着いた。
医師から尋ねられることに、あまり澱みなく答えられた感じはしなかった。
「で、どんなふうに具合悪いの?」と言われ、具合悪い…どんなふうに…てかそもそも具合悪いのか…?と考え込んで黙りこくってしまう。
捻り出した回答から、医師が手を変え品を変え尋ねてきて、やっとゆるゆる答えられるようになる。
感情や考えを言語化しにくく黙ってしまうこと、時間やルールを守るということに対して本当に若干こだわりがあること、じっとしていられないこと、空気が読めないこと、昔孤立していたこと。
マイニングに近い昔の私との対話を経て、あっさり医師が言う。
「ADHDとASDだろうね。薬、飲む?」
クッソ迷った。
酒飲めなくなるから。
みんなのいるところで酒が飲めないとなると、既に酒豪認定された私は確実に無駄な心配をされる。
職場に言うつもりがないので、めちゃ困る。
あと酒は単純に飲みたい。
正直、この生きづらさに、おそらくそうだろうという名前がちゃんと、グレーでなく黒でついただけで安心した自分がいた。
薬を飲むことに不安もあった。でも、30年近くふらふらしたメンタルのまま生きた私に、何かしら変化をもたらすものがあっても良くないか。
体に著しく合わなかったら医師に聞けばいいし。お酒飲まなくたって、まあ、ねえ。
かくして、私はコンサータを手に入れてしまった。
前夜を通り越して、5時間半後くらいには最初の1錠を飲み下すんだろう。
今までの失敗とか、人を傷つけたこととかを全部この診断で名付けたもののせいにするつもりはない。結局私のしたことだから。
でも名付けただけ、さっきも書いたが、やっとほっとした。形のあるものになら対抗できる気がしている。
たとえ薬が合わなくても、辛かった私を変えようとした私のために、寝て起きて、飲もう。
明日からの私は、多分、少しだけ毎日の後悔が減る、はず。