非道亭はらいそ

南無三畜生奴

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【雑記】トンネル

オチも哀愁もないよ。 物心つくかつかないかの頃から高校進学の前くらいまで、絵画教室に通っていた。 そこの初老の先生は、人が画家に対して期待する天才肌のかんじも変態性もなく、きわめて平凡な人であったように思う。 小二くらいの頃、私は「トンネル」の写真をアトリエに持って来て、それを描くことにした。 基本的には動物ばかり描く子供だったから、その時はおそらく風景画が課題だったのだろう。 トンネルに惹かれた理由は覚えていない。 緑色の山の腹に真っ黒く、大きなかまぼこ型のトンネ

    • 牧神おどり

      牧神の綺麗な孤独 馬鹿の角笛とうたらり 天文遊具にまたがって 睨んで回る空の穴 ヤアあれはホログラムの扇 西に血反吐 東は夜鷹のりぃたらり 牧神の 牧神の 右の蹄のちりゃたらり 葡萄みず たたえた河を渡るとき 巻き毛を撫でる淫楽の風 サア花々のおびえ愛おし みつけたみつけた うれしやなあ くちづけ発作のたらりゃがり

      • 月の光

        奇妙な露の二三滴 重く湿った電線を 巨きな鼠が伝っていった 街は丸ごと蒸し上がる 月光に鑢をかけて 肺に染み込む不可視の濁酒 神さまを知らない おおねずよ お前どこにいくのか

        • 青鷺

          兵と奔る鏑矢やら何やら 盆水ひた震え震える 菜と穀との霊気のかおり 胸に出入るは勝手放題 追い巡り 追い巡り 星ノコトワリ見ルナフレルナ 緊と抱く幣やら何やら 雨覆借りて駆け出す ご承知わらべの指先が ほらさ稲妻に触った! 分け登る 分け登る 星ノコトワリ青イ火赤イ火 ケェェーコォー 入れ子人形つれだって 星の汚穢を浄めにゆくか ケェェーコォー どうすんだい?

          【雑記】キミに献撰

          私はぬいぐるみの口に、ほんとうに食べ物を擦り付ける子供だった。 食べ物をぬいぐるみの口の近くにかざして、モグモグなどと声をあてることを以て「食べている」とは信じられなかった。 だって減っていないんだもの。 食物を目の前にして一口も食べられないのだから辛かろうと思ったし、なんなら瞬きもできずに目も痛かろうと思っていた。 ぬいぐるみ達は完全断食の苦痛な時間を過ごしているのではと不安で仕方なかった。 親の目を盗んでは、ボタンの目を水で湿らせたり、食べ物をちょこちょこと口に触れさ

          【雑記】キミに献撰

          汗にぬれて おきるくらいの夢をみて 歌だけに なってしまった女のために 買いたや 買いたや  雨には傘を買いたやな 買いたや 買いたや 買いたやな 雨には傘を買いたやな

          【雑記】大根思う

          この後メシどう? と夕食に誘われて、 自炊のために買ってある大根のことを考える。 すでに一週間も、半切れのままで冷蔵庫に置いてある大根だ。 うっすらと断面を茶ばませて、短冊になる日を待っている。 そんなときの私は、本当に一瞬だけ瞑目して (一瞬の瞑目は瞬きにひとしい)、 努めて明るく応じ、駅前中華に向かうのだ。 安中華の安餃子付き安ネギラーメンの湯気を掠めて飛び交う、実のない、長いだけの語らいの間、 大根は自宅でひとり眠っている。 (だいたい、初っ端、大根なんてよぎる

          【雑記】大根思う

          天狗笑い

          雲を掬って 重くひらめく八手の葉。 白黒の墓石を渡る とんぼの下駄。 竹ばやし がちゃがちゃと合い鳴り、 円満無比の岩転がして 瀬に吹く風は冷たい。 梢より降る あの声をさあ聞けよお前 今まだ眠ってしまわぬように。

          味覚

          寂しい蔦が小指に絡んで 振り向けば 小ぃさなお花ちゃん 笑いなよ 笑え 私はどこにもいかない まずは花弁を少し齧って 両手を擦って その手で顔を擦るさ 体は温かく鋭敏になる やがて 私の肺に足をかけ 私の下顎を掴んで 私の中から 這い出すぞ 私が 私自身が 何度も孵化をする そうして今度は 足を擦ってみて 花弁をまた齧って もっとおぞましい 遺伝を受けた私が そう胸一杯に 産みつけられた私が 何度も孵化をする

          害獣と踊る

          引力、青黛の葬列、赤熱した6枚の銀貨、石臼、よく知っている高い音いろ、竈、妄執、羽虫のうなり、せせらぎ、蜜菓子の湿り、縄、土にめり込んだ独楽、あのとき、炎、湿った香り、鉄の門、肉がある、魔術、熱病、がちゃがちゃ揺れる針葉樹林、赤毛のつむじ、枯れた声の祈り、泥濘、肉もあるし骨もあるだろさ、布片、鳥の糞、粉挽の機械、錆びて開くのに何分もかかる鉄の門、なあ、充血した六つの眼球、塩、歯列の間から細く吹き出す炎、今更の祈り、縄にさげた角笛、とかげ、肉と骨はあるが臓腑はない、さえずり、巨

          錆だらけの錨上げれば ついてくる (さぱん) 人間を脱ぎ捨てた 灰色のがらくたどもが 塩っかれえ雫ぱたぱた つかまっている (ぞぼん) コバルトの 波絨毯には黄昏まだ来 ローレライの眠りまだ来 平衡器官ほんなげた 天使が (しやぷん) うえした間違えたかよ あんな感じで そんな感じで

          いぬ

          胸いっぱいの財産を持て余し 激しく芝生と抱擁するふわころの魂 ずっと笑ったようすの口は 褐色の田舎の景色ふるわせて吠え 金色の蝶の影をしつように舐め 死にたいなんて絶対に言わない

          くちどけ

          山神の世話をうけてならんだ かわゆらしくなめらかなくさびら。 なにぞなにぞと戸惑うひづめの ふみつける干し草のあじ。

          詩を書く人へ

          なにがそんなに 悲しいのか

          スケッチ

          釣り船はもう微睡の中 日光は湖面に弾け 子供らのように並んで 体操ちらちら 白い星ちらちらちらちら 風うれしさに 思わずふるえる 巨きな手鏡だ 浮き葉のような反射の中に きっと浄土を隠している

          朝の窓は銀紙に包まれて 自分に目玉があったのを思い出す 朝の体は野望に満ち ただ金平糖ほどの腹痛をもつ 電気ポットの湯気を見つめて 蛾のようにじっとしている恋人 勤行の鐘せわしなく打ち ぼろふふう 屋根の何羽かの鳩が呻いた 気高き二杯の白湯 どんな酒よりいい