これは、ドイツの田舎に伝わるおはなし
くじらちゃん主催の書き始める前のライティング講座に参加する
ここではいつも実験的なことを繰り返しながら自分の中にあるものを少し取り出してみることをする
今回は3つの文章を黙って読む10数分間、その文章も見ないでじ〜っとする数分間を経て20分で書き上げるというもの
取り上げられた文章はいずれも興味深い、しかし書きたいことは見当たらない
ところが
何もみない数分間を過ごすうちに、ある言葉が降りてきた
それをもとに20分間息もつかずに書いた文章がこれだ
「大切なものを大切にしすぎると、それは入っては来れない」
ヘレンにはお気に入りの靴がある
その靴はデザインといい色といい材質といい彼女がまさに追い求めていたそれだった
履くとまるで履いてないようにフィットしてそれは羽のように軽かった
いくら歩いても足の箇所はどこも痛まずにどんどん歩けた
ずいぶん歩いてもマメの一つもできなかった
これをもし履き潰してしまったら
そう思うので何とか同じ靴を買い求めたかったが
どこで買ったか覚えていなかった
街中をずいぶんと探してみたが、旅先で買ったものかもしれない
それは見つかりそうもなかった
その靴との別れが来るのが本当に嫌で
別の靴を履くことにした
他の靴はそれなりに足にフィットしたけれど
やっぱりあの靴ではないので数点の不満がすぐ見つかる
それでもあの靴をなくすのが嫌でヘレンはそのことには目をつぶりながら違う靴を履き続ける
マメもできた
皮も剥けた
それでもその靴との別れの怖さから違う靴を選び続けた
ある時ねんざをした
見た目はいい靴だった
でも今までで一番足に合っていない靴だった
痛む脚をさすりながらヘレンは考え始める
あの靴と別れたくないばかりに
足に無理をさせるなんて本末転倒だった
靴は履かれてこそ靴なのに
次の日からあの靴をまた履き始めた
その靴を履くとやっぱり足に馴染んでいくらでも遠くに行けた
今まで見たこともないところまで散歩に行きたくなった
その靴でなければ見れない景色があった
靴はとうとう履き潰された
ヘレンが生きている間はもう2度と同じ靴には巡り合わなかった
でもヘレンは考える
あのまま靴との別れを惜しんで
棚に飾ったままのヘレンと
履き潰した今のヘレンは
見た目は同じだがもうずいぶんと違った場所にいる
まさか、こんな風に終わるとは思わなかった
どこかで読んだ昔話のような気がする
みんなから感想をもらう
まるでイギリスの民話みたいだと言われる
うん
これはねドイツの田舎に伝わるお話です うそ
くじらちゃんのライティング講座は9月にも行われます