空想彼女毒本 #04
#04 酒々井朱美
酒々井朱美(しすいあけみ)ちゃん。「やっと見つけた!」と、突然ボートレース戸田で声をかけられる。キャンペーンカールをしてる時いつも悔しそうに舟券を握りつぶす姿にキュンとしてたと告白される。新手の美人局だろうと疑っていたが、次第に彼女のペースに。気がついたら同じ朝食を食べていた。
グラビアの子がボートレースのキャンペンガールをしていると聞いて、いつも紙面かネットでしか見たことがなかったので、間近で見てやろうと出かけた。そんなだから、ボートレースの知識はなく、負け続けていたが、そんな時でも笑顔で癒してくれていたのが彼女だった。
最終レースも終わり、ハズレた舟券を握潰した。とはいえ数100円づつしか賭けていなかったので、まぁ楽しんだし、何より間近で朱美ちゃんを見れたことに満足していた。すぐに帰ろうとしたが、今駅に向かっても人も多いし、少しブラブラして帰ろうと場内を歩いていると、前からさっきまでの衣装から着替えた朱美ちゃんが歩いてきた。一瞬にしてボクの目はハートになった。ヤバい、目がハートになっているのがバレたかなと思い、すぐに平静を装ってはみるものの、その緩んだ顔は隠せなかった。
「どうでした?」
「いや、とても可愛かったです。」
思わず、本心がでてしまったが、彼女は競艇の結果を聞きたかったのであろう、キョトンとした顔で一瞬、時が止まった。そしてボクは恥ずかしくなり、グッとまたしてもハズレ舟券を握りしめた。
「あ、ありがとうございます。」
「競艇は初めてで全然でした。でも酒々井さんを近くで見れたんで良かったです。」
「ありがとうございます。また来てくださいね。」
そう言って、社交辞令とは分かりつつも、こうして声をかけてくれた事を嬉しく思い、その場を去ろうとすると、
「あの…明日、明日は来ますか?」
そうか、今日が初日で開催は5日間だったか。
「もちろん、酒々井さんに会いに来ます。」
と声をかけられたことに喜びながら、その日は帰った。
次の日、平日開催にも関わらず、昼間から競艇場に来てるような人はロクな奴いねぇだろと思いつつ、そのロクでもないやつの中に自分も含まれてるのかと少し引け目を感じながらも、朱美ちゃんに会いたいがため、のこのこと出かけた。
レースそっちのけで今日もかわいいなぁなんて思いながら眺めていた。時折視線が合うななんて思いながら、そんな他愛もないことがこんなに幸せに感じられるのなら、今が1番幸せだな。
この日もハズレ舟券を握り締め、まだ人の多い出口を避けてブラブラしていた。昨日のことがあったから、淡い期待をしつつ。
しかし今日は朱美ちゃんに遭遇する事はなく、まぁそうだよなと落胆しながら帰った。
3日目もやっぱり朱美ちゃん見たさに出かけたが、昨日同様、ステージ上の朱美ちゃんを眺めるだけで、初日のような事は起こらなかった。
4日目は流石にこんな毎日行くのもなと思いつつ、それでも朱美ちゃんを見にでかけるが、やはり初日のような奇跡は起きなかった。
最終日、もうここまで来たら全通するしか無いと思い出かけるが、もうあんな奇跡は無いだろうと諦めていた。ステージ上の朱美ちゃんは眩しいくらいに輝いていた。ボクはただそれを眺めるだけで満足だった。余韻に浸りながら、今日で最後かなんて思いながら、初日の奇跡が起こらないかなと時間を潰していると、西日に照らされて彼女が現れた。
「やっと見つけた!」
そう言って小走りで近づくと耳元で、
「今日これから時間ありますか?」
あまりに突然の出来事で言葉を失っていると
「帰りの電車でお話しできますか?」
「も、もちろん!ボクなんかで良ければ」
こんな事があって良いのだろうか!しかしなぜボクなんかがという思いに駆られる。
駅までの道は緊張でなにも話せず、ただ周りばかりを気にしていた。
駅に着き、改札を抜けてホームに立った時には、他のファンへの後ろめたさは幾分か薄れていた。電車が来るまでの時間、それとなく聞いてみた。
「ボクなんかで良かったですか?」
「毎日来てたの知ってましたよ。意外にステージからでもちゃんと見えるんですからね。それに、悔しそうに舟券を握りつぶしている姿に、なぜかキュンとしちゃったんです。」
ぼくは新手の美人局だろうと疑い出した。だって理由がおかしすぎる。しかしそうであるならば、こんなギャンブラーの巣食うような競艇場でそんな事をするか?いや逆に勝った人なら確実に現金を持っているから狙っているのか?そんな考えを巡らせていると、返事に詰まった。
「どうしちゃったんですか?』
「あ、いや、その…。」
彼女の目が潤んでいる。
「ごめん、あまりにも現実離れしていて、どう答えたら良いのか分からなくて。ただ本当にありがとう。」
「私もこんな気持ち初めてで、どう伝えれば良いのかも分からなくて」
恋愛には一般の法則や理論が通じずキュンとしてしまったり、なぜか好きになってしまう、ある種恋愛の特異点が存在する。今が正に彼女にとっての特異点だったのだろう。理由は後からついてくる。そう思った瞬間、ボクも恋に落ちていた。
帰りの電車はお互いの最寄駅も近いことから、1時間ほどゆっくり話した。彼女の最寄り駅に着き、見送ろうと改札まで来るとそのまま手を引かれ改札を出た。
「じゃ、玄関まで送るね」
と、すでに夕暮れも過ぎて暗くなり出した夜道を家まで送り届ける。
はずだったがまたしても彼女は…。
気がつけば朝食を一緒に食べていた。
あとがき
今回もノーコンセプトで書き進めておりましたが、このツイートをした時点で、背景に川なのか海なのか、湖なのか池なのか、とにかく水が映っていたので、なぜか設定がボードレース場になってしまった。空想というウソをつくにもどこかしらリアリティがある方がウソくさいので、だったら一度行ったことのあるボートレース戸田だなと思って書き出した。
物語を書き進めていて、これといったコンセプトもなく、設定自体がかなり現実離れしているので、もっと飛躍したウソ空想を書こうかとも思ったが、帰りの電車一緒になんて現実離れしたことに落ち着いてはいるが、やはり恋愛における特異点というのは存在すると思う。理由なんかない、ただ好きになっちゃったみたいな。で理由はあとから考える。というか自分なりにこじつける。その理由が破綻しない限り恋愛は続くんだと思うが、破綻した途端終わったんだなと思うのだろう。
は?
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