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空想彼女毒本 #03

#03  山本彩華

山本彩華

山本彩華ちゃん。海上自衛隊の音楽隊にいた時、彼女はクラリネット奏者として隣に座っていたのが縁で、どちらからともなく、自然に付き合い出した。パパから貰ったクラリネットを大切にしているしたたかさに、ボクもメロメロだった。休みの日にはよく昭和記念公園に出かけてたっけ。
お互い楽隊に入ったばかりで、右も左も分からずだったけど、どちらからともなく、
「初めまして、入ったばかりで…」
なんて話し出したと思う。それぐらい2人は自然に出会った。
ボクは大学時代からジャズ研で、サックスを吹いていた。本当はスカパラみたいなバンドに憧れてたんだけど、バンド活動は中々上手くいかず、就職も考えなくちゃいけないなと思ってた時に、海上自衛隊の音楽隊の存在を知った。競馬場でオークスでのファンファーレを奏でている姿に感動したのだ。あの短い時間で観衆の気持ちを鷲掴みにし、レースの緊張感も高め、最高潮で送り出す。そんな演奏がしたいと入隊を決めたのだ。
彼女はというと、父親も楽隊で、幼い頃から憧れていたそうだ。しかも彼女の手にしているのは、父からもらったクラリネットなのだ。とても大事にしているのは、その手入れの良さを見れば一目瞭然だ。まだ壊れてはいないらしい。当然、本当によく聞かれるそうだ。まだ音出るんですねとか、ドと、レと、ミは出ますか?とか、パキャマラドってどういう意味?とか。
僕はそれを知った時にそれを聞かなかったが、彼女にしてみたらそれが嬉しかったらしい。
難しいもので、「AC/DC好きなんですか?」と聞いてくださいとばかりにAC/DCのTシャツを着ているにもかかわらず、聞くと「まぁ」みたいな、言わずもがなのことを言うなみたいな。でも内心「訊かねぇのかよ!」と思っていたり、そんな微妙な心境を察していたわけでもないのだが、僕はまぁよく言われてるだろうし、答えるのもめんどくさいだろうなと聞かなかったわけでもなく、単にそこまで考えが及ばなかっただけなんだが、それが彼女からしてみたら、毎回言われるこのウザがらみをしてこなかったことに、好感を持ったみたいだ。
不思議とそういう些細なことが共有できるということが男女には必要なんだと思う。朝はご飯かパンかみたいな。別段こだわりのない僕はどちらでもいいのだが、そこが譲れないという人もいるだろう。目玉焼きに何かけるじゃないけれど。そんなことでケンカしたり、論破するつもりもないのだが、相手の意見をきけないとか、自分の気持ちの押し売りをお互いしないことがとても居心地がいい。
休みの日にはよくあちこち出かけた。お互いが気になってた映画を見に行ったり、美術館に行ったり、よく昭和記念公園に行った。天気のいい日には富士山が見えるからと、日が沈むまで広い園内を散歩してた。
しかしそんななにげない日常が幸せと感じていた2人の間を割く事件が起きたのだ!そのパパからもらった大事なクラリネットを、僕が誤って壊してしまったのだ!ドとレとミとファの音が出なくなってしまった。とっても大事にしていたのに、壊れてでないよどうしよう。さすがに焦った。彼女が気づく前に、楽器屋に持ち込んでみたけれど、古いものだからパーツも無く、直らないと。それがいけなかった。彼女は
「素直に、壊してしまったと言ってくれればよかったのに」
と。これまで隠し事もなく、察しと思いやりによって二人の関係は続いていたのだが、壊したことよりも、隠し事をしたことに対して彼女は怒っていた。
「壊したことを怒ってるんじゃないの、それを隠そうと修理に出したことが嫌なの。」
「悪かったよ、ゴメン。でも大事にしてるのは知ってたから。」
「だからそれが嫌なの。形のあるものはいずれ壊れるから、別に構わないの。それを隠そうとした態度が気に入らないの。」
「隠そうとしてたんじゃないよ。」
「最初に言ってくれればよかったじゃない。」
もうこれ以上何を言ってもダメだと思った。たった一つのボタンの掛け違いが修復不可能なほどのズレを産んでしまった。それでしばらく僕は距離をおくことにするのだが、彼女はその態度すら気に入らないと。
「なんで、そうなるの!」
四面楚歌だった。お互い少し冷静になる時間が欲しかったのだが、お互いがすでに冷静さを欠いていた。チグハグな気持ちは次第にその溝を大きくし、これまで気にも留めなかったことすらも気になってしまう。そういえば、いつも目玉焼きにソースかけてたなとか。絶対醤油の方が旨いのに。生卵は醤油なのに、なんで目玉焼きにしたらソースなんだろうとか、本当にどうでもいいことすら許せなくなってしまう。
お互いが視野狭窄で、周りも見えず、自分の立ち位置さえも見失ってしまった。
僕は時々思い出す。あの日パパからもらったクラリネットの事を聞いていたら、また違った運命だったのかなと。歌通り壊れちゃったねなんて笑えた未来があったのではないかと。


あとがき

制服を作ろうとプロンプトにセーラーと入れたら、水兵さんの帽子を被ったのが出てきて、あれ、これはこれでアリだなと思って、その設定を空想彼女毒本に落とし込んだ。しかしクラリネット奏者で、そのクラリネットを父から譲り受けてるっていうなんていい子なんだろうね。
書き進める時は特にテーマも何も考えてはいないんだけれど、どういうオチにしようかと進めてる内に、この画像が秘めているテーマ性を見出すことになるのだが、今回は言わなきゃ伝わらないことってあるよね。お互いが察していると思っていたら、いつの間にかズレが生じちゃうことってあるよねって話になりましたね。


空想彼女毒本

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