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Vol.217 言葉に血を通わせよう(2013/4/11)

新入生、新入社員、新入部員、転勤、異動。4月は、組織に新しい人材を迎え、新しい風が吹く季節である。
新入社員を迎えたなら彼らに早速、社是・社訓や、理念を伝えた上司の方もおられるだろう。学校では担任教師が「私はこんな学級を作りたい」という思いを、様々な言葉で伝えただろう。

自立した人と組織を育成する教育手法「原田メソッド」には、理念をシステマチックに作る方法がある。理念とは、その人の思考や行動の軸となるものだ。経営理念は経営方針や戦略の軸であり、教育理念とは人材育成に対するその人の思いが詰まった行動と思考の根っことなるものである。
企業研修でも、学校の先生が学ぶ教師塾でも、皆さんにこの「理念」を作っていただくプログラムがある。

理念を作る時に、私が皆さんに伝えることは「言葉に逃げない」ということだ。例えば、私はインパクトのあるシンプルな表現が好きだ。自分のクレドにも「仕事と思うな、人生と思え」「主体変容」「タイミング・イズ・マネー」などを使っている。また原田メソッドのキーワードは「自立」であり、自立した人と組織を増やしていくことが私のライフワークであるから、自ずと自立という言葉を使い、私の目指すところを伝えることが多くなる。

そうすると、例えば教師塾生が作る理念には「自立」「主体変容」などの言葉が多く見られるようになる。それは、私の理念や理想に共感し、自分も自立したい、自立した児童生徒を育成したいと感じたからこそ、その言葉を使って自分の思考や行動の軸としたいという思いからである。それは分かっているのだが、それでも注意が必要だ。
つまり「自立とは何ぞや」という問いには、私の言葉を借りるのではなく、自分の言葉で語れることが大切だ、ということである。

主体変容とは何ですか、と生徒に聞かれた時に、教師が「まずは自分を変えなさい、それで初めて周囲を変えられる、という意味です」と説明したところで、生徒はピンと来ないだろう。それは、「借りてきた言葉」であるからだ。その人なりの言葉で語ることこそが重要であり、だから伝わるのだと私は考えている。教師が、自分の体験や教室での場面を例えに出して伝えようと思って伝えることこそが重要であり、言葉の意味だけを伝えても、そのスピリットは伝わらないのである。

世に多くの名言があるが、その名言が「腑に落ちる」瞬間がある。
それは、「ああ、私も同じ経験をした」とか「私も全く同じこと考えていた」とか、或いは「なるほど、そういう考え方をすれば私の課題の答えが見えそうだ」など感じるから
である。つまり、自分の体験や経験と名言をすりあわせ、共感を覚え、心が共鳴するからである。

私は、新しい言葉や、使ってみたい言葉、表現に出合うと、まずは、その言葉の持っている本来の意味を調べる。辞書やインターネット、人に聞くなど、様々な方法を使って調べる。調べるうちに、自分の人生の一場面と、その言葉がリンクする。それはつまり、言葉が腹に落ちたということだ。私はそうやって、言葉に血を通わせる作業をしているのだ。

新入社員に対して、新人選手に対して、目の前の新しい学級の児童生徒に対して。あなたはどんな理念、夢、希望、期待を語りますか。
その言葉は、誰かの借り物ではない、自分の血の温かさが感じられる言葉でしょうか。あなたが使う言葉に血を通わせることができるのは、あなただけである。

最後までお読み頂き、ありがとうございました。

(感謝・原田隆史)2013年4月11日発行
*発行当時の文章から一部を変更している場合があります。

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