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Vol.101 スポーツ活動で自立した人を育てる1 (2010/11/18)

2010年11月14日の日曜日、神奈川県立厚木高等学校のグランドと体育館をお借りして、「教員・企業人材教育担当者向け体育科実技研修」を開催しました。全国の先生方や学生さん、また一般企業の方々がご参加くださり、総勢60名で授業を進めました。
会場の厚木高等学校は、東京教師塾で学んでおられる先生の勤務校であり、この度、快く会場提供してくださいました。ありがとうございました。

参加の皆さんの平均年齢は35歳ぐらいだったでしょうか。しかしその年齢構成は、最年長は私と同世代の50代体育教師、そして最年少は、参加者のお子さんである小学校6年生の男の子。高校生や家族ぐるみでなど、大変バリエーション豊かな参加者の方々でした。

午前中はバスケットボール、午後はグランドに出てペースランニングの授業をすすめました。
私の保健体育授業(実技)の特徴は、「書くそして考える」活動と「ペアや班」活動が必ず含まれていることです。私は、陸上競技で日本一13回といった経歴から、スポーツが得意で運動能力が高い選手を好んで指導しているように誤解されることもあります。しかし私の保健体育授業の目的は『わかる、できる、教え合う』の喜びを、全ての生徒に感じさせ、成功体験を積ませることにあります。
その主体的な成功体験を通して自立型人間を育成すること。これが唯一無二の、私の体育授業の一貫した目的です。

私は授業では必ず「一人一役」を徹底します。バスケットボールの授業では、心理学の「エゴグラム」の考え方を用いて、班活動を展開します。
自分がやりたい役割を、班の中で話し合って決めていきます。班長とは別に、バランスのよい「理想の班」を作るために、以下のような役割を決めます。
1.頑固おやじ・・・厳しさ発揮でルール、約束の徹底
2.マザーテレサ・・・優しさ発揮でメンバーに関わる
3.お茶目な子ども・・・楽しさ発揮で盛り上げる
4.科学者・・・冷静さ発揮で分析・研究
5.ディレクター・・・素直さ発揮で関係調整

授業に参加すれば、自分には必ず役割がある。バスケットがうまい下手に関わらず、より良い班活動のために自分が果たすべき役割がある。これは生徒の積極的な授業参加の姿勢を促進するものになります。

中学校でのバスケットボールの授業では次のような場面が多くみられます。バスケットクラブに所属している生徒が、ドリブルでどんどんクラスメイトを抜いていき、あっという間にドリブルシュートを何本も決める。
バスケットをしたことのない生徒や、おとなしいタイプの生徒は、試合をしても一度もボールにさわらないことがある。結局、バスケの得意な生徒の独壇場といった雰囲気になってしまい、バスケットが苦手な生徒ができるようになったことと言えば、相手にボールを渡すチェストパスとお世辞にも上手とは言えないドリブルだけ。「バスケ面白くない」といった声が出てしまう。
皆さんどうですか、このような授業を実際に受けた覚えがある方もおられるのではないでしょうか。

私の授業の目的は、参加する生徒が『できた、分かった、教え合った』の喜び・達成感を得ることにあります。それは、「全ての生徒がドリブルシュートをできるようになる」ことでもなく、「スリーポイントのシュート率を上げる」ことでもありません。
それぞれの生徒が、自分で決めた目標を、自分が今できる最大限の努力を通して達成することにあるのです。つまり、授業を通しての「自立」です。
これこそが、私の描く「理想の授業」です。

現実問題として、中学校体育授業の限られた授業数の中で、全員にドリブルシュートを修得させることはとても難しいことです。時間があればできるかもしれません。しかし結局、授業のほとんどをドリブルシュートの練習に費やすことになるでしょう。

ここでもう一つ大切なこと、それは「本質を伝えようとしているか」という、指導者側の姿勢です。
バスケットボールの本質的な楽しさはどこにあるでしょうか。
それはやはり、ゲームです。チームワークを発揮し、協力して一つのボールをゴールにいれる喜び、楽しさ。これこそが、バスケットボールの本質ではないでしょうか。
私はそう考え、ドリブルシュートの練習は、体育授業では一切行いません。ドリブルの練習もしません。
これについては賛否両論あるかもしれませんが、私がバスケットボールクラブの顧問であれば、全員にドリブルシュートを練習させることもあるでしょう。しかし、体育の授業です。時間は有限、時間がかかることよりも、「短時間でも練習し、チームで協力すればできるようになること」に優先して取組ませたいのです。

上記のような様々な条件から総合的に判断し、私のバスケットボール授業は、以下のようなコンセプトで成り立っています。

1.必ずミーティングを行う
→イメージトレーニング。計画性や状況把握力の育成。
 挨拶や声だし練習による「態度教育」の実施。すさみの除去。

2.班活動。リーダーを中心にまとまり、一人一役で自分の役割に責任を持つこと
→責任感や主体性の育成。意志決定力や主体性の発揮。

3.授業を通して生徒一人一人が「達成感」を得たかどうかを診断的に測定する。
→見えない心を数字で見る。
 生徒のやる気を調査したり、感性、自己理解を高め促進したりする観点を
指導者が持つこと。
  
4.体育館での班活動(狭い場所での大人数の活動)により工夫する姿勢を身につける。
→協調性や課題発見・解決力の育成、人間関係形成や円滑なコミュニケーションを育成する前向きな姿勢を育てる。

5.目標タイムを設定し、ドリブルを使わない速攻練習を班で行う。
→ 協調性や改善力の育成、目標設定を通じて、柔軟性、実行力の促進。

上記は全てではありませんが、こういったことをそれぞれの活動に目的として設定し、それに向けて授業を作り上げています。
授業で育てたい力がある、その目標を達成するための手段が、バスケットボールである。この考え方が基盤にあれば、全ての授業は必ず、もっと工夫できるはずです。

このバスケットボール授業のコンセプトは、企業の皆さまにも大変共感していただいており、内定者研修や新入社員研修といった場面で、新入社員の主体性やコミュニケーション力、課題発見・解決力への気付きを与えるものとして導入されています。

次回も、スポーツ活動と自立型人間について、お話を進めていきます。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

(感謝・原田 隆史)2010年11月18日発行
*発行当時の文章から一部を変更している場合があります。

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