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Vol.300 部活動教育(2014/12/18)
まずは、この「カリスマの目線」がついに300号を迎えたことについて、
読者の皆様に深く御礼申しあげます。本当にありがとうございます。
足掛け7年。400号、そして500号を目指し、読者の方々に喜んでいただける
コラムを心がけ、これからも新鮮な気持ちで真摯に取り組んでいきたいと考えています。改めて今後も引き続き、どうぞ宜しくお願い致します。
今日は部活動教育について。
あの悲しい出来事から、間もなく2年である。大阪の公立高等学校の運動部活動で、生徒が亡くなったあの出来事である。2年前のクリスマスの直前。報道されたニュースに、年末ムードも一気に吹き飛んでしまったのを昨日のことのように覚えている。
顧問教員の判決も終わり、当該高等学校の改革も着手され、その流れの中で、学校現場における部活動教育にも新しい潮流が生まれたように見えている。私は、学校現場における部活動教育においては、まずは当然「体罰根絶」が最も緊急重要課題だと考えている。皆さん、異論はないのではないだろうか。これは、教員の意識改革の問題である。
*ただし、ここで是非とも一般の皆さんに知っておいていただきたい事実は、大変厳しい学校現場では「殴れるもんやったら殴ってみろや」「かかってこいや」などの生徒からの挑発行為や、実際に教員が暴行を受ける事案が起きているということである。明らかに体罰であるものと、教員が一人間として生徒や自分の命・安全を守るための行動とには、どこで線引きがされるべきなのだろうか。ここに難しい問題がまだ残っている。
話を戻して、体罰を根絶した暁に、部活動教育が取り組むべきことは何なのだろうか。ここまで私が、部活動「教育」という言葉を使っていることにお気付きの方もおられるだろう。そう、学校現場にて行われる活動は、全てが学習・教育活動なのである。それは、休み時間の生徒との何気ない会話や、昼食時間の過ごし方、掃除のやり方、そして放課後の活動である部活動にも、例外なく当てはまることなのである。
また、ここで重要なことは、教師にとって「教育活動」であるなら、それは生徒にとっては「学習活動」であるということだ。教師が教え、生徒は学ぶ。
部活動が教育活動として存在するのなら、指導担当である教員・顧問は、いったい何を教えるのであろうか。そして、生徒は何を学ぶのだろうか。
同じく教育活動としての「国語」や「英語」の授業に置き換えて考えてみれば、教育活動・学習活動としての部活動の、目指すべきところが見えてくる。国語が国語力を、英語が英語力を高めるのと同様に、部活動もその「専門的な力」を伸ばすことに大きな目的があることには疑いの余地がない。
陸上競技部なら走る、跳ぶ、投げる、の専門性を高める。記録を伸ばす。そのために練習する。吹奏楽部なら、楽器の演奏の技術を高める。演劇部なら、演技力や舞台構成についての知識を体験的に身につける。
しかし、同じ教育・学習活動でありながら、国語・英語と部活動とには、大きな違いがある。それは、国語や英語には「学習指導要領」という、教科ごとに国が定めた「目当て」があるのに対して、部活動には指導要領がない、ということなのである。
だから、部活動は、「教える教員の力量次第、さじ加減」で活動が行われてしまうのだ。学校で行われる教育・学習活動であり、しかも平日には毎日、2時間ほどの時間を費やす活動であるにも関わらず(特に運動部)、その目指すべきゴールは大変漠然としており、また学校という枠組みの中においての細やかな共通の指針もない。本当にこれでいいのだろうか。
いやこれではいけない、という思いが最初にあり(大きな事件の以前から)同じ思いを持つ方々と一緒に研究開発に取り組み、誕生したのが、部活動の目標設定と観点別評価に役立つアンケート「BUKATSU」である。
観点別評価に役立つということは、教える教員にとっては、教育活動の目当てがつくということであり、教えられる生徒にとっては、学習活動としての取り組みが可能だ、ということである。
私は、部活動教育は当然、その専門性を伸ばすことに大きな目的があると考えている。陸上競技なら、1秒でも早く、1センチでも遠く高く。生徒が「まだ強くなりたい」と考えるのなら、そのように育成してやりたいと考えて、指導にあたっていた。
と同時に、部活動は教育活動である。私の好きな言葉「教科書で教える」が示すように、陸上競技の専門的なノウハウを教えるだけではなく、陸上競技を通して教育活動をするのであるから、個人の自己実現(専門性の向上から生まれる競技力向上)と、社会的存在としての人間的成長・人間力向上の、この2つを同時に育てたいと考えていた。
その同時育成のための、具体的な行動を示すのが、BUKATSUアンケートなのである。45の質問が、10の観点別評価を表しており、また45の質問がそのまま観点を伸ばすための具体的な行動にもなっている。つまり、競技力を高めながら、同時に人間的な成長を目指すことができるのだ。
年末は、部活動にまつわる大きなお仕事を2つお受けしている。1つは、講師を担当して9年目を迎える関西学院大学・体育会のリーダーズキャンプだ。大学のクラブのリーダーたち約200名が一堂に会し、体育会のあるべき姿や自チームの課題解決に向けて取り組む、3日間の宿泊キャンプである。その1日目のトップバッターとして5時間の時間を頂戴し、学生たちとともに学生スポーツ活動のあるべき姿について討議を重ね、彼らを導いていくのだ。
そしてもう1つが、私の地元・大阪市の「がんばる先生事業」という活動の一環としての、部活動講演会である。「これからの部活動教育のあり方について」と題し、2時間のお話をさせていただく予定である。大阪市内の数百人の先生方がお集りくださると聞いており、今から非常に気合が入っている。
部活動に対する考え方は様々であり、皆が一概に競技力向上を目指しているわけではない、というご意見も耳にする。確かにそうだ。大阪市で話が進んでいる外部指導者の登用についても、スポーツを「真剣に」やりたい生徒はいいが、そうでない生徒(少し体を動かしたい生徒、ということだろうか)には却って負担になるのではないか、という意見もあるそうだ。
私がしたいのは、「これだ」という唯一の正解を示すことではない。こんなやり方もある、これはやってみたけれど相当良いものだと思う、というものを、自信を持って、一つの提案としてお示ししたいのである。その中で様々な意見が生まれ、異論を交わしながら、皆が真剣に、そして継続的に、より良い部活動教育について考え続けること。これが、私が願っていることなのである。
最後までお読みいただいて、ありがとうございました。
(感謝・原田隆史)2014年12月18日発行
*発行当時の文章から一部を変更している場合があります。