パラサイトの奇妙な後味(ネタバレ無し)
パラサイトをようやく観ました。
暗い話はあまり得意ではないのですが、コメディだと思っていたら想像以上に悲しい描写の連続でした、観た感想としては「相対する意見が芽生えた来て複雑」という言葉が適切なように思います。
以下、ネタバレ無しの感想です。観た人にはどのシーンかわかると思います。
講談社現代新書から出ている「韓国 行き過ぎた資本主義無限競争社会の苦悩」を読み、韓国の社会背景を頭に入れてから鑑賞に臨みました。
最近の韓国の流行語に「スプーン階級論」というものがあるらしく、生まれてきた家のスプーンが金なら一生裕福に暮らせる、しかし貧しい家に生まれると一生貧困から逃れられない、という意味の言葉のようです。大学進学率70%と超学歴社会ですが高学歴プアも多く2017年で青年の失業率は10%程度、数%の大手企業以外は年収200-300万と収入格差も激しく、また有名校に入るための有名塾の入塾テスト対策で「セキ塾」という「進学塾に入るための塾」が存在するようです。小学生のうちから塾を一日2、3件ハシゴすることも珍しくないとのことで、過酷な受験戦争に打ち勝つために(バーンアウトしないために)児童用のメンタルクリニックも流行中とのこと。小学校の夏休みは海外に「英語キャンプ」に行くなど、韓国で受験戦争教育に打ち勝つには子供のうちから教育に高額投資しなくてはならない、つまり一代で何かを成し遂げる、階級を登ることが日本よりも非常に難しい社会だという前提があります。
また賃貸物件にも数百万単位の保証金がかかるので、貧困層は初期費用も家賃も安い半地下物件に住む、そしてそこから上昇することは相当厳しいという現状があるようです。
半地下家族の父親も事業に失敗してきたという背景があるようで、作中で度々キーワードとなる「貧困の臭い」を自身が放っているという屈辱を突きつけられる父親の姿は、人間の尊厳を踏みにじられる他者経験、しかしそれを受容するしかない社会背景、それでも同じ人間であるという「恥を背負わなくていけない理由が見当たらない不条理」が潜んでいるように感じました。その際の父親の表情は人間として根源的な悲しさを物語っており、ただ漠然といたたまれない気持ちになりました。
しかし半地下家族たちの言動に引っかかるところも一部ありました。「豪雨の際にソファーにお酒がこぼれそうな体勢で気を抜くシーン」「《無計画》に託す希望」など随所に危機管理の甘さが観られるのです。社会背景があるので、こうした危機管理の甘さがどこまで生活と関係しているのかはわかりませんが、そこに感じた因果律と、可哀想であるという感情が自分の中でせめぎ合ってしまい、観測する視点がふらついてきたのです。どちらの視点から見るか、という二つの間で揺らいだのではなく高次元の図形を前に、どこを軸とすればいいのかという中心点が見つけられなかったという表現が適切なように思います。
可哀想ではあるのですがもっとやれることもあったのではないか?という考えと、もっとやれることはあったかもしれないが可哀想であるという事実が拮抗し、ひたすらに複雑な感情を解こうとしてはもて余してしまったまま映画館を後にしました。考えさせられる作品とはこういうことを指すのだと勉強になりました。面白かったのですが、面白さよりも後味の奇妙さが強烈でそちらに意識を持って行かれる作品だったと思います。
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