僕
※この物語はホラー要素・怪談要素が含まれます。苦手な方はご遠慮ください。
世の中には自分に似た人が三人いるという。
どうやら僕に似た人が同じ市内にいるらしいと知ったのは、中学校一年生のときだった。
あの頃はファミコンが出たばかりで、テレビに繋いで遊んでいたのだが、画面も音もゲームセンターのゲームの方が格段に良かったので、小遣いを貯めてはゲームセンターに行ったりしていた。
その日、僕は一人で百貨店の最上階にあるゲームコーナーで1ゲーム50円のゲームで遊んでいた。新台は1ゲーム100円だった時代だ。体感型ゲームというものもあり、コクピットに乗って、空を飛びながら敵を撃っていくものや、車に乗って、本物さながらにアクセルとブレーキを踏みながらハンドルを操るものがあった。また、パイロットが実習で使っているというフライトシュミレーターがあったり、360度回転するものまであった。それらは1ゲーム200円から400円だった。
中学生でなけなしの小遣いで遊んでいた僕は50円のゲームでいかに長く遊ぶかだけを考えて、ゲームを選んでいた。
20分ほど遊べたゲームが終わり、次は何をしようかと立ち上がった時にエレベーターが開いて、友人が、僕が知らない人と2人で降りた。僕を見て怪訝な表情をしている。
「お前、あっちにいたのに、いつの間にここに来たんだ」
そう言った友人に、僕は今日はずっとここにいたと言った。
「いや、あっちでゲームやってたお前に話しかけたんだけど、これが終わったら話してくれって言われたんだよ。けど、今日はこいつと遊んでたから、じゃあ明日学校でなって言って、ここに来たんだ」
たぶんよく似た人だろう。向こうはゲームに集中したかったからお前を見てなかったし、うつむいて画面を見てたから、人違いだって気づかなかったんじゃないか。その場はそれで終わった。
それから1ヶ月くらい過ぎた日、僕は前回、僕に似た人がいたゲームコーナーで、さらに古い機種で1ゲーム20円で遊んでいた。すると前回と違う友人が僕のところにやってきて、今、スクランブル交差点で僕を見たという。人が多く、話しかけるにも僕が早足で歩いていたから、話しかけられなかったらしい。
もちろん僕は、今日はずっとここにいたと言った。世界には自分によく似た人が3人いるって言うし、向こうの人も僕と同じことを言われてるんじゃないか。先月は僕が向こうにいて、その人はここにいたそうだよ。そう言った僕にその友人は言った。
「ドッペルゲンガーって知ってるか」
それは自分によく似た人ではなく、もうひとりの自分で、会うとどちらか、もしくは両方ともこの世界から消えるか、死んでしまうというあれだろ。僕が言うと、友人は真面目な顔で言った。
「あれは間違いなくお前だったぞ。先月のはたしかに、うつむいていたからわからないけど。さっきすれ違ったのは身長も体型も顔もお前だった。小学校からの付き合いの俺が見間違えると思うか」
夏だからって脅かすなよ。
「俺だって作り話だと思ってたけど、今の話を聞いて、もしかしたらと思って。それに、じいちゃんから聞いたことがあるんだ。ドッペルゲンガーかどうかはともかく、自分が違う場所にいるのに、同じ日の同じ時間に自分を見たという人が出てきたら、気をつけなきゃいけない。事故や病気の前兆だからって」
縁起でもないことを言うなと、さすがに怒りながら言った。
「わるい。でも、ほんと気をつけたほうがいいぞ」
それから2週間後、僕は最初に話した百貨店のゲームコーナーで、友人と待ち合わわせをしていた。友人は遅刻していて、待ち合わせの時間から15分過ぎても来ていなかった。
当時は携帯電話もポケベルもない。連絡をするなら家の電話にかけなければいけなかった。30分過ぎても来なかったら電話しようと思い、僕は遅刻したむこうが悪いと、1人でゲームをはじめた。
5分くらい過ぎたろうか。友人が僕を呼ぶ声が聞こえた。僕はゲームから手を離せなかったが、隙を見て右手をあげて手を振った。
「ごめん、親に用事を頼まれて、遅くなっちゃった」
そう言った友人の声は、少し離れたところから聞こえた。
「いや、いいよ。僕もいま来たところだから」
僕は動きを止めた。画面では敵のミサイルにあたって一機失った。
誰だ、あの声は。
もう一人は友人に間違いない。
「じゃあ、はじめようか」
友人が言った。
たしかに、待ち合わせたところで、ゲームはそれぞれやりたいものを一人でやる。時間になったり、調子が悪くて小遣いが底をついたら終わり。友人を待ったり、上手い人のプレイを見たりして時間を潰すしかない。
「あれ、もうやってるの」
友人が僕の隣に来て言った。
僕は怖くて何も言えなかった。
すると誰かが僕の後ろに立つ気配を感じた。
「え、お前、双子だったの。なんで今まで隠してたんだよ。あれ、でも学校同じじゃないよね」
今、集中してるからあとでな。
そう言うのが精一杯だった。
僕は頼むからどこかへ行ってくれという願いと同時に、眼の前のゲームを少しでも長引かせるよう集中した。
自己最高記録を出してゲームが終わった時、僕は周りに誰もいない気配を感じ、ゆっくりとあたりを見回した。
ほっとして立ち上がり、自動販売機でジュースを買ってその場で飲んでいると、友人がやってきた。
「で、どういうことか説明してよ」
僕が返答に困っていると、友人は何かを察したのか、言いたくなければ言わなくてもいいけどさと言った。
その時だ。
「あ、双子がこっちに手を振ってるよ」
友人は僕の後ろに向かって笑顔で手を振った。
友人がどうしたんだよ、お前も手を振ることくらいしろよと言っていたが、僕は振り向くことなく、息を止めたまま黙って立っていた。
終
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