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深海より

 かつて陸地だった深海に聳え立つ数千メートルの山の頂。そこにある高さ三十メートルの、巨人たちが建てた日本の神社のような石造りの神殿。沈黙。光の届かぬ世界では見ることはできず、時おり巨大な何かが動いている気配がする。
 目を閉じて視ながら数十メートルの鳥居をくぐり拝殿に立ち、この世界、いや、この宇宙、いや、すべての宇宙の、すべての次元の宇宙の永劫の平和と安寧と調和を祈る。沈黙。再び巨大な何かがやってきては頭上を通り過ぎる。しかし、沈黙。
 その時、拝殿の奥が朦朧と光り人類以前の文字が浮かぶ。それを受け取り、それを受け入れた時、光は強くなり巨大な真白な鯨がやってきて止まった。その慈愛の鯨の背に乗り、途方もないときを超え、海上に向かう。沈黙。
 やがて光が届き、水中に生きるものたちが見える。海流が聞こえる。鯨は海上から出て宙へ向かう。見えるのは私の世界。以前と変わらぬ、以前とまるで違う世界。夜に瞬く星々の光めがけて昇る。
 大気圏を抜けたときに鯨が言った。この世界は三度滅び、お前は五度やってきた。その間シリウスにいたアルデバランにいたカシオペアにいたプレヤデスにいた。お前は詩人だったし作家だった。お前は人々を癒やし場所場所を癒やし浄めた。お前は神官だった。お前は受け入れられ拒絶され必要な時だけ呼ばれた。さあ今のお前の世界に降り立つがよい。
 鯨は降下し海上に身を置き大地に降ろした。
 お前はお前でいればよい。
 そう言って深海に降りた。


 波の音が聴こえる。


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