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【短編小説】2回目のスタートライン☆最終話

エピローグ

アキの気持ち

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ああ、驚いた。マサトったらとんでもないことを言い出すんだもん。
詳しく聞いたら、カスミに焚きつけられたようだし、タクミまで賛成したっていうんだから、みんなどうかしてる。

2人きりで話したいって言うから、ちょっとドキっとしたし、チエなんか「恋バナか恋バナか」と大騒ぎだったけど、マサトの話はそんなもんじゃなかった。

まさかの「オレ、独立しようかと思う」発言だった。

で、どうして私に声がかかるかと言うと、私が企業の企画部にいるからだろう。

販促戦略や広告、営業企画など、会社の経営に深く関わる企画部は、会社を立ち上げるマサトにとって良い情報網となると思ったんだろう。
その期待は半分くらい外れている。残念ながら、私はまだまだ未熟だし、大きな会社の企画部なんて数年勤めても企画部の手掛ける仕事の半分も分からない。

でも、まあ友達として相談くらいは乗ってやろうと思う。…友達として? いやいや、余計なことは考えるな、自分。

マサトが私に相談するなんて、きっとよほどのこと。
タクミやチエとは違って、マサトは昔から誰かに相談することなんてなかった。特に私になど絶対に頼りたくないと思っていただろう。

それでも相談してくれたんだから、力になりたいと思う。


マサトはいつも、がんばり過ぎていると思ってた。その責任の一端は自分にあることも知っていた。
高校時代は女子だからって舐められないようにいきがって、社会人になったらまだまだ男性優位の社会で張り合って生きてきた
きっと、友達に対しても同じように尖って接してきたんだろうな。

マサトに対しても(まあお互い様にせよ)気を許して、弱みを見せることができなかった。
つい張り合ってしまって、気楽に付き合えないでいたと思う。

私にはチエのようにユルっと生きることはできないし、だからって「一生独りで生きる!」とまで言い切れない。
尖っている割に優柔不断だよな、と思う。これならむしろ、チエの方が潔い? いや、アレはちょっと別世界の生物だ。

冗談はともかく。

自分がそんなふうなのに、いきがって張り合って、がんばってきた。…あれ? 私もがんばり過ぎだった?

「フフ…」

一人、笑いがこみあげる。なんだ、私たち似たもの同士か。
それでも、マサトは張り合う気持ちを捨てて、私に相談を持ちかけることができるんだ。
友達を頼ることができるんだ。

私ももう少し、肩の力を抜いてみてもいいのかな。

マサトの気持ち

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任されていたプロジェクトもゴールが見えてきた。
自分でも今回は頑張ったと思うが、会社でこのまま働き続けても明るい未来が見えないと思い、このタイミングで新しいことをしようと考えている。

で、行きついた結果がフリーのエンジニアとして独立起業を目指すというものだ。

まずは副業としてスタート、SNSや自分のブログなどでもどんどん発信して、仕事を取っていこうと思う。
独り立ちできるくらいまで稼げるようになったら、会社を辞めるだろう。

そこまで検討した時に、自分のこれまでのSNSやブログでの発信方法を見直したいと思い立った。

で、相談相手として誰がベストかと考えた結果、アキを選んだんだ。
実績ある大手のマーケティング戦略がどんなもんなのか知りたい、そしてプロとしてのアキの力を借りたい。
これまで、さんざん張り合い、意地を通してきたにもかかわらず、今回アキに頭を下げるのに全く抵抗がなかった。

アキは謙遜していたけど。

きっと、今の俺にとって有意義なもの、本気でやりたいこと、将来こうなりたいという希望が明確に見えているからだと思う。
今までは、偉そうなこと言ったくせに理想とは違う自分がいて、そんな自分と他人を比べて卑屈になっていた。

だけど、今は違う。

自分は自分だし、今の俺には目指すべきゴールがある。そのためなら、意地などどうでもいい。

アキの気持ち~過去と未来

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マサトと休日に待ち合わせして会うことなんて、あったかな?
なぜか分からないけど、着ていく服にものすご~く迷った。

どうせ出かける先は、最寄りのターミナル駅。…ああ、そういえば、時間のある時は彼氏とデートの待ち合わせしてたな、あ、元カレか。

彼氏に裏切られた感じで別れたのはショックだったけど、今日までなんだかんだありすぎて、落ち込んでいる場合ではなくなってしまった。

なんと、堅実そうなタクミが勤めていた会社をバッサリと辞めた。
パワハラとかモラハラの多いブラック企業だったみたい。
辞める前のタクミに比べて、辞めた後のタクミはちょっとイキイキというか、パワフルになった気がする。

あと、お調子者で「セレブ掴まえて、寿退社!」がモットーだったチエが、なぜか仕事に燃え始めた。
派遣先で他の人から頼られて、頑張って、感謝されたのがうれしかったらしい。単純なヤツめ。

もともと、コミュニケーション能力高くて、柔軟性や対応力はあると見てた。私もおちおちしているとチエに抜かれたりして。

改札横にあるベンチでマサトを待とうか、改札を出て立ち止まった瞬間、後から「アキ?」と声がかかった。嫌な予感。
ちょっと前までは、頻繁に聞いていた声。

なんという偶然、元カレとの遭遇だ。

ゆっくりと振り返り、時間をかけて愛想笑いを作った。
「久しぶりね。…って言うのもおかしいけど」
「元気?…って言うのもおかしいか」

付き合っていた期間は1年以上あったけど、会えた時間だけを換算すればきっとかなり少ない。それでも、ふと記憶のページをめくりそうになる自分がいる。

「実はさ。連絡しようと思ってたんだよ。会いたくて」
彼は上機嫌で話し出す。

「結局、例の彼女とは別れちゃってさ。やっぱり、俺にはアキのような…「アキ! 待たせたな

彼が何かを言いかけた瞬間、割って入った馬鹿みたいに大きな声。うん、今度こそマサトだ。でも…

「おまたせ。悪かったな、こっちから呼び出しといて。…あ、こんにちは。こちらはどなた?」
こちらに向かって、大股で歩み寄ったかと思うと、すぐさま彼に目を向けにこやかに挨拶する。どことなく演技くさい。

「あ…私はアキさんの友人で…」勢いに押されて、なぜかかしこまる元カレ。

並んだ二人を見比べると、マサトの方が背が高いせいか、元カレが頼りなく、小さく見えた。

「そうでしたか! 私はアキさんとお付き合いさせていただいております…あ、よろしければ名刺をどうぞ」
颯爽と名刺を取り出し、元カレに押し付けるマサト。え、何言ってんの、コイツ!

「ああ、はい、ありがとうございます。え、CEO?」
「もしご用命の際は、ご連絡ください。サービスしますよ、友達価格で。では失礼しようか、アキ」

言いたいことは全て言い切った、とばかり晴れやかな顔をこちらに向けたと思ったら、次の瞬間、私の手を力強く引いて、歩き出した。

「ちょっと、マサト! 今の何なのよ!」
「あれ、元カレだろ? ちょっと話聞こえてさ。ああいうの相手にしてるとロクなことないぞ」
「そうかも知れないけど…。あ、もう名刺まで作ったの? 何よ、CEOって!」
「いろいろとハッタリかましちゃったな。でも全部が全部、ウソってわけじゃないよ」

振り返り、おかしそうに笑うマサト。
屈託なく笑う彼の横顔にこれまでとは少し違った気持ちを見た。

マサトの気持ち~2回目のスタートライン

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これからアキに会う。もちろん、デートじゃないけど。

アキはきっと、謙遜しながらも、今の彼女にできる限りの力を使い、今の俺に必要な情報をくれるだろう。
自分で事業を興して、成功させるために何ができるか、一緒に考えてもらおう。
彼女がそばにいてくれたら、心強い。…もちろん友達として、だけど。

待ち合わせ場所へ行くと、アキが変な男と話してた。

慌てて近づくと、男の方の言葉が聞こえた。

「実はさ。連絡しようと思ってたんだよ。会いたくて…
結局、例の彼女とは別れちゃってさ。やっぱり、俺にはアキのような…」

ああ、元カレに偶然会っちゃったか。言い寄られてるな。

そう思った瞬間、体が勝手に動いていた。
男を煙に巻き、呆然としているアキの手を引いて、歩き出す。

初めて触れたアキの小さな手。
怒ったような声で文句を言っているようだが、目が呆れて笑っているし手は引かれたままだ。

「いろいろとハッタリかましちゃったな、でも全部が全部、ウソってわけじゃないよ」

今言える精いっぱいの言葉で、アキはどれくらい俺の気持ちを察することができるだろうか。

まあ、それもこれからだ。

とりあえずは、これから俺がどれくらい成長できるか、見ていてもらえればいい。

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高校を卒業してから一体何年経っただろう。

社会人として全力で走りだし、でもまっすぐは走れなくて、つまずくし邪魔は入るし、さんざんな時もあった。

そんな日々があって、今の自分がいる。

20代なかば、人生もキャリアももう始まってしまって、ゼロから始めることはできない。

でも、もう一度自分でスタートラインを決めて、そこから始めることはできるんだ。

「…人生の伴走者になってくれてもいいんだけどな」本人にはまだ言わないけど。

今、仕事も恋愛も、希望も挫折も抱えながら、2回目のスタートラインに立った。(完)

執筆:chewy編集部 みや (@miya11122258


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