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(本の裏側④)アップルパイからワジャピまで『アメリカ菓子図鑑』

昨年秋に上梓した『アメリカ菓子図鑑』(誠文堂新光社)。シリーズ化している世界の『菓子図鑑』のアメリカ版をつくれないかとの依頼を受けて執筆した本です。執筆や菓子製作、撮影に加えて予算のやりくりにも苦心しましたが、なんとか書き上げ、おかげさまで重版し安堵しているところです。

菓子とともに、菓子を通して見えてくるアメリカの地域性や歴史もお楽しみいただけるよう選んだ6地域50州の菓子115品を載せています。今回はそんな『アメリカ菓子図鑑』の裏側をご紹介します。まだご覧いただいていない方も、この機会にぜひご興味をお持ちいただけましたら嬉しいです。


◇クッキー本の次は菓子図鑑

アメリカ菓子図鑑

アメリカンクッキー』を執筆中だった2019年。版元の誠文堂新光社さんから菓子図鑑の打診を受けたのですが、当時はジャカルタへ引っ越しする直前だったため一旦保留に。帰国後に改めてお話をいただきました。

内容としては「菓子図鑑」シリーズのアメリカ版で中身は自由。ただしページ数や菓子数は同シリーズの既刊本にある程度ならう必要がありました。

アメリカ郷土菓子』(PARCO出版)の続編的なものをイメージして書きためてきた原稿とレシピがあったので前向きな気持ちはあったものの、ネックは予算でした。一般的なレシピ本と比べるとやや高額なこのシリーズは、大量に購入していただける可能性は高くないので予算が付きにくかったのです。

◇予算が厳しい・・・・・・

アメリカ菓子図鑑』より。どこの州のデザートでしょう?

とにかく予算が厳しい・・・・・・通常であれば引き受けられない条件でしたが、『アメリカ菓子図鑑』なんてタイトルからして面白そう。そんな本があれば私が読みたい。それ以上に自分で書きたい。

とはいえ予算がなければ本が作れないので、なんとかしないといけません。そこで撮影は、要のカバーや章扉、基本のレシピと材料、道具、ポートレイトだけはカメラマンの公文美和さんとスタイリストの池水陽子さんにお願いし、残りの菓子115品はすべて自分で撮ることにしました。

そして材料は、ありがたいことに粉類は江別製粉さんに、バターはよつ葉乳業さんに、生もの以外の製菓材料は富澤商店さんにご協賛いただけることになり、どうにか目処が立ちました。

ひとえにご協力いただいた関係者の皆さまのおかげで実現した本です。本当にありがたく思っています。

◇6地域50州の菓子を掲載!

「バナナプディング」
(クッキーは手作り。トッピングなし版)

予算の目処がついたところで構成です。どんな切り口がいいだろう。最初に考えたのは、「パイ」や「ケーキ」、「クッキー」といった、「菓子のカテゴリー別」に紹介するというもの。アメリカのクックブックで一般的な手法ですが、アメリカ菓子の全体像を把握する図鑑としては物足りません。

一方で分かりやすい分類ではあるので、この案も生かし、巻末に菓子のカテゴリー別の索引を載せることにしました。

次に考えたのは「時代別」。おもしろい切り口ですが、誕生した時代がはっきりしない菓子が多く、掲載できる菓子が極端に少なくなります。

そしておちついたのが「地域別、さらに細かく州ごとに紹介する(6地域50州)」という形です。この形でもすべてがすっきり収まったわけではないのですが、それはできる限り本文中で補填することにしました。

◇115品に絞る

次に菓子の選定です。地域が偏りすぎないこと。そして、できるだけアメリカ生まれ、もしくはアメリカ独自の形で定着した菓子であること。
150品程度の候補の中から下記の地域115品まで絞りました。

1.北東部1・・・16品
2.北東部2・・・13品
3.中西部・・・25品
4.南部・・・41品
5.西部1・・・8品
6.西部2・・・12品
このほか、基本のパイ生地、ケーキ生地2種類、カスタードクリームのレシピを載せています。

これでもかなり絞ったのですが、南部が多いですね。
よく知られているアップルパイから、ワジャピのようなあまり知られていないであろうものまで、いろいろな菓子を載せています。
さまざまな理由から今回はずした菓子は、原稿もレシピもあるので、また別の機会にご紹介できたらと思います。

◇年代物の器での撮影と資料の読み込み

「バナナプディング」
(クッキーは市販。トッピングあり版)

あとはひたすら作って撮って書く作業の繰り返しです。せっかくなのでスタイリングには、長年集めてきた年代物のアメリカの器をたっぷり使いました。

上記のバナナプディングの器はファイヤーキングです。ファイヤーキングは翡翠色のジェダイが知られますが、ほかにも実用的かつデザインも魅力的な器がたくさんあります。そんなところもお楽しみいただけたらと思います。

執筆に際しては、自分で集めた資料に加えて、現在もお世話になっている大学時代の恩師に譲っていただいた貴重な資料なども参考に、大半は調べる作業でした。アメリカを訪ねてまとめた自分の考えが間違えていないか、歴史的な認識が合っているかの確認も時間をかけて行いました。

点と点で探しているときは苦しいのですが、それが線でつながったときの爽快感はたまりません。本書は、その爽快感の部分ばかりなので、ぜひお楽しみいただけたらと思います。

アメリカ菓子図鑑を元に、『cafe-sweets』vol.223の特集「アメリカ菓子の魅力とは?」で4ページの記事にしていただいたり、昨年ベーカリーで商品開発のご協力をしていたDEAN&DELUCAさんでペイストリー講座の講師を担当したりと、アメリカ菓子を知っていただく機会が増えて嬉しく思っています。さらにこのnoteの文章をきっかけに、本書を手に取ってくださる方が増えることを願っています。

アメリカ菓子図鑑】(誠文堂新光社)
撮影:公文美和さん(カバー、章扉、基本のレシピ、材料、道具、ポートレイト)
スタイリング:池水陽子さん(カバー、章扉、基本のレシピ、材料、道具)
撮影・スタイリング(上記以外):原亜樹子
装丁・デザイン:望月昭秀さん、境田真奈美さん(NILSON)
構成:高柳涼子さん
編集:宮脇灯子さん


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