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パワー! ケケケッ

職場の施設のラウンジにある52インチのテレビ。
90代の女性お二人が車椅子をテレビの前につけ、昼食の準備が終わるのを待っていた。
画面にはゴーグルをつけた男性たちが映っている。北京オリンピック、スノーボード男子ハーフパイプ決勝が始まっていた。

平野歩夢選手の2回目の素晴らしい滑りが終わり、1位が確実だと喜んでいた。得点が出て思わず声が出た。
「うそー!!!」1位の選手より低い得点が出た。
金メダル確実かと思われた平野選手、最後の滑りで逆転できるのか? 緊張の観戦になる。

90代のお二人でも、ハーフパイプは観ていて楽しいようだ。
青空に舞い、くるくる回る選手を、にこにこ笑顔で見つめている。

「次に出てくる日本人選手が金メダルをとれるように、パワー送ってください!」
手のひらを画面に向けて「パワー!」と振っていると、ケケケッと笑って「パワー」と言ってくれる。
同じ時間にどれだけの人が祈っただろう。
北京まで届いていると思う。

さぁ、平野選手、始まるぞ!というタイミングで画面が切り替わり、サブチャンネルへの切り替えのご案内が流れる。
今でしょ! ではない!
今じゃないでしょ!
慌ててリモコンのボタンを押すと、違う局になってしまった。
あぁ、平野選手!
落ち着いて、NHKに合わせる。
もう半分滑り終わっている!
実況アナウンサーの声のテンションで、今のところ上手くいっているのだと分かる。
お願い! 転倒しないで!

彼は最高の滑りを見せてくれた。
ドキドキしながら得点を待つ。

金メダルダァー!
90代のお二人は最後の金メダルの瞬間かもしれない。
興奮している私を見て、ケケケッとまた笑う。

金メダルをお祝いするとともに、素敵な思い出を作ってくれた平野歩夢選手に、ありがとうございます!

歩夢っていい名前だなぁ。

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小笠原ゆき
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