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生きるってしんどいこともあるけれど、ご褒美のような数時間を与えてもらえることもある
それは神殿で言葉の神の声に包まれたような体験だった。
わたしは言葉が好きで、小説や脚本で素敵な言葉に出合うと、おいしいものを食べて「あぁ……うぅまっ」と目をとじて幸せをかみしめるような、時には快楽に近いものを感じたりすることもある。
音楽も大好きだが、どちらかというと音、声、リズム、曲のほうから惹かれることが多い。
それでも、ときに歌詞に心を掴まれることもある。
夢ならばどれほどよかったでしょう
未だにあなたのことを夢にみる
イントロもなく始まるこの2行だけで、亡くなった人のことを想う歌なのかとその先を想像させる。
わたしのnoteを読んでくださっている方ならご理解いただけるだろうが、わたしは「死」や「別れ」に関することにアンテナが張り、興味が陰陽の陰のほうに矢印が向きやすい。
この『Lemon』という曲は大好きなドラマ『アンナチュラル』の主題歌でもあり、何度も何度も聴いた曲である。
ハチの頃からのファンの方々には「ありがちなにわかファン」だと思われるかもしれないが、わたしが米津玄師という人を認識したのはこの曲からだ。
それから聴き始めて、曲も詩も好きだし、ライブ映像とかを観ていつか生で聴いてみたいなと思うようになった。
それが、どうしてもこの人に会ってみたい!(ライブ行きたい!)という思いに変わったのは、彼のインタビュー映像を観て、彼の言葉の選び方、彼の思考、米津玄師という人に興味をもったからだった。
ファンクラブがないということに驚いたが、アルバムを買えば誰にでもチャンスがあると知り、一縷の望みをかけて東京ドームのライブに応募してみた。
King Gnuならばアリーナ一択!踊り狂いたい!なのだが、天井席の一番後ろでもいいと思った。じっくり彼の声を聴ければどこでもいいと。
しっかりと身分証明書の提示で確認してからの入場、紙チケットで席がわかるシステム、落ち着いたファン層、とてもいい雰囲気だ。
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なんとドーム初のバルコニー席だった。3塁側ラウンジを抜けていくとほぼステージ横の席。ステージがすべては見えないが、肉眼で歌う米津玄師さんは見られる。
しかも1列目、足元も広くて、座り心地の良い椅子、じっくり聴くにはもってこいの席を与えていただいた。
グッズのタオルを肩にかけ、誰も立ち上がらないバルコニー席で、立ち上がり禁止だっけとそわそわしながら1曲目が始まった。3列目あたりの女性たちが立ち始め、横を見ると1列目でも立っている人もちらほら。
2曲目のイントロが流れるとわたしも思わず立ち上がった。『感電』、これまた大好きなドラマ『MIU404』の主題歌だ。
3曲目にはアルバムでアイナ・ジ・エンドと歌っている『マルゲリータ』。歌詞にPJハーヴェイが入っていてアガった曲だ。若い頃ライブに行った女性アーティスト。カッコいいのよ。
そしてファンの歓声が大きく響いた『アイネクライネ』、『LADY』と続いた。
『LADY』はピアノが素敵な曲で、この曲を青空の下で聴いているとステップを踏みたくなる。大好きな曲。原曲はこのピアノをWONKの江崎文武さんが弾いている。江崎さん好きなのです。WONKもいいバンドよ。
MCで着席したあとは最後まで座って観た。じっとしていたわけではないが、ライブ前仕事で2時間歩きっぱなしだったので足腰が悲鳴をあげていたのだ。
そのおかげでじっくり聴けたのでお許しください。
全曲の感想を書いていたら長くなるので、わたしが特に「聴けてよかった」と思った曲を紹介する。
誰も知り得ない傷が癒えずに増える
どうせいつかは 風に溶け消える
ならば今夜くらいは
羽が生えるような身軽さが君に宿り続けますように
むくれ顔の蛇も気づきはしない日々の隙間でおやすみ
君が安らかな夢の中眠り続けられますように
疲れたら言ってよ 話をしよう
この曲はニュース番組『news zero』のテーマ曲だった。この時間のニュースはzero派だったので、毎晩のように眠る前に耳にした。
じっくり聴くと、上の歌詞でもういない大切な人たち、今を生きる大切な人たちのことを想い涙が出るのだ。
生声で聴けて良かった。
大好きで毎日観ていた朝ドラの主題歌『さよーならまたいつか!』、最後にあのピースサインを見られてキュンとした。
そして、映画を観ているときではなく、エンドロールでこの曲を聴き涙したのが『地球儀』。壮大な世界観をドームに作り出していた。
生『Lemon』も感激した。出会わせてくれてありがとうと思いながら聴いた。
『KICK BACK』は常田さまも想い爆アゲ、『がらくた』も嬉しかった。
どの曲も最高レベルで嬉しかったが、その中でも一番圧倒されたのは『海の幽霊』だった。
青くなったドーム内、なんだかこの曲のとき風も感じて体感温度が下がった。海の中に入ったような感覚の中で、響きわたる米津さんの声は身体に密着し鳥肌ものだった。
圧巻な歌唱力。
神がいると思った。
チケットを与えていただき感謝、心から行けて良かったと思ったライブだった。
MCもトークショーまで行けたかのようなボリュームだった。
可愛らしい一面も見られた。とても魅力的な人だと思った。
彼はとても誠実で静かだけど力がある声で語っていた。
「生きててくれてありがとう」
彼のこの言葉がすべてを語っていると思う。
そこにはお別れもあったであろう、生きていてほしかった、生きられなかった命も想い、悲しみ、悔しさ、もちろん喜びも含め、とても誠実な心からの一言だったと思う。
時間が経つと「夢だったのかな」と思うほど、神々しいライブだった。
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