Happy Women's Map 東京都 日本初セクハラ裁判の原告 晴野 まゆみ 女史 / Japan's First Plaintiff in Sexual Harassment Lawsuit , Ms. Mayumi Haruno
「下に置かれている女性は変革を求めて社会を変えていく。
男性は後から追いかけてくる。」
'Women, positioned beneath, seek to bring about change in society. Men, they come trailing behind.'"
晴野 まゆみ
Ms. Mayumi Haruno
1957 -
東京都大田区出身
Born in Ota-ku, Tokyo-to
晴野 まゆみ女史は、日本初セクハラ裁判「福岡セクシュアルハラスメント事件」の原告。日本のすべての企業と公務職場にセクシュアル・ハラスメント対策を求める男女雇用機会均等法の改正を促進しました。現在、株式会社チームふらっと代表取締役社長。
Ms.Mayumi Haruno is the plaintiff in Japan's first sexual harassment lawsuit, known as the "Fukuoka Sexual Harassment Case." This landmark case prompted the amendment of the Equal Employment Opportunity Law, advocating for the implementation of sexual harassment prevention measures in all Japanese companies and public workplaces. Currently, she serves as the President and Representative Director of the company Team 'Furatto'.
「変な噂」
まゆみは福岡市の西南学院大学を卒業後、3度の転職を経てようやく希望する出版社に入社。社員3名の学生向け情報雑誌を発行する会社で、福岡のエンタメ・グルメ情報を取材・編集する仕事に打ち込んで猛烈に働きます。直属上司の男性編集長は家庭優先で取材予定を度々すっぽかしたり、締め切り前の繁忙期でもさっさと帰宅します。まゆみはこの男性編集長をフォローしながら、取引先との付き合いを最優先して男女の別なく食事また飲みに行ったり、深夜遅くまで原稿を執筆したり、男性編集長の1/3の給与で3倍の仕事量をこなします。「編集長ではなく、晴野さんに取材して欲しい!」取引先からの信用が篤くなる一方、男性編集長から性的なからかいを言われるようになります。「結婚もせずに夜遊びか」「お盛んだな」最初は軽い冗談、くだらない冗談として受け流して平気な振りをします。「変な噂を立てられても平然としていればそのうち消えるだろう。」ところが男性編集長の嫌がらせは逆にエスカレートします。ある日、会社に出入りするアルバイトの学生がコーヒーカップをまゆみの机に置きかけて言います。「おっと、汚れた女の机に置いたらいかん。」まゆみの仕事を評価する係長から昇給が言い渡されると、「男女の関係」「できとっちゃろ」男性編集長は外部に吹聴してまわります。まゆみの仕事を評価する専務が男性編集長の給与を削ってまゆみの給料を上げようとすると、「ふしだらな女」「男関係にだらしない」男性編集者は悪評を立ててまゆみの昇給を阻止します。まゆみが婦人病で入院することを伝えた直後、男性編集長は社外に電話を始め「実は晴野が入院するんですよ。男遊びが激しくて、婦人病にかかったんです。」ある時、まゆみがスポンサーの既婚男性と恋愛関係にあったときに、男性編集長が言い放ます。「スポンサーへのギフト代わりに、この女をだれが落とすかゲームしたんだ。」「不倫を黙っておいてやるから会社を辞めて欲しい」
「セクシャルハラスメント(性的嫌がらせ)」
「自分の好きな仕事を失いたくない!」まゆみは、意を決して社長に直訴します。「大人の女なんだから、笑ってやり過ごしなさい」あげくにケンカ両成敗としてまゆみは即日解雇にされる一方、男性編集長は3日間の自宅謹慎。食い下がるまゆみに「女性は仕事を辞めても結婚がある。男はそうはいかない。」「君は優秀だが、男を立てることを知らない。次の就職先では男を立てることを覚えなさい」まゆみは2年半セクハラに耐え、最後の3日間会社に通って残務整理を全うします。まゆみはかつての関係者をまわってフリーライターとして生計を立てながら、「どうして女性だけが仕事を奪われ、存在価値を汚されるのか?」祖父が弁護士で法律が身近にあったまゆみは、労働基準監査局に出向いたり、民事調停に持ち込んだりします。簡易裁判所で男女の調停員は言います。「相手は優しそうで大人しそうな男性で、ひどいことを言うようには見えない。」「女は浮いた噂のひとつやふたつ流されるうちが華ですよ」「そんなことで名誉棄損で訴えるなんて前代未聞」女性弁護士に相談しても物的証拠がないと難しいと断られます。途方に暮れたころ、福岡市に「女性の女性による女性のための法律事務所」が開設されたことを知り訪ねます。代表の辻本育子弁護士は言います。「会社があなたを性差別している。訴えましょう。」「女性差別を禁じる民法の規定はないけれども、日本国憲法第14条「全ての国民は性別により差別されない」に反する不法行為にあたる」まゆみは裁判を起こす決意をします。そして、電車の中で「もう許せない!実態セクシャル・ハラスメント」という女性雑誌『MORE』の特集広告を目にします。早速雑誌を読んで、アメリカでの「雇用における性差別を禁止する」裁判判決を知ります。続いて福岡アメリカセンターで文献を調べて「セクシャルハラスメント(性的嫌がらせ)」に焦点をあて、フェミニストグループにコンタクトを取ります。
「クリーンな裁判」
まゆみのもとに女性だけの弁護士事務所とフェミニズム団体が結集、「職場での性的嫌がらせと戦う裁判を支援する会」を結成されます。支持者を集めるために女性の知人40人からアンケートを集めると、「まだ結婚しないの?」「次の生理はいつ?」「あいさつ代わりに胸をお尻を触られる」など、全ての回答用紙に性的嫌がらせの体験が書かれています。まゆみは性的嫌がらせは全ての女性の問題として確信します。会報を刊行したり裁判資金を募ったりしながら、ようやく解雇から1年3か月後の1988年8月5日、まゆみは「原告A子」として、「元上司」と「会社」を相手に360万円を請求して福岡地方裁判所に提訴、日本初のセクハラ裁判を起こします。匿名裁判にマスコミから野次が飛び交います。「やましいことがあるんだろ?」「男関係が派手な女性らしい」「ブスでもてない女が騒ぐんだ」出版社で働いていた学生アルバイトの女性たちが勇気を振り絞って証言台に立ってくれる中、まゆみも意見陳述を代理人に任せず自分で行います。公判の席で被告側弁護士は飲酒についてしつこく聞きます。「週に何回、何時まで飲みに行っていましたか?」「あなたは、女性がお酒を飲むことに罪悪感はありませんか?世間的に恥ずかしいとは思いませんか?」。弁護団が反論します。「どうしてそれがいけないのか?」すると被告側証人が言い立てます。「原告は男関係にだらしのない女だ」「性的な話題が好きな女だ」。まゆみが性的中傷を繰り返し受ける中、原告団から「意義あり」の声が上がらないことにまゆみはさらに苦しみ、ついにこの被告側証人を裁判所の廊下で平手打ちします。支援者はまゆみに詰め寄ります。「あなたひとりの裁判じゃない!」係争2年8カ月目の1992年4月16日、川本隆裁判長は判決文を読み上げます。「主文。被告および、被告株式会社は、原告に対し、連帯して金165万円を支払え」裁判所は元上司による性的中傷を違法と認定、会社も使用者責任としてセクハラに対応する責任があると判決を下します。
「さらば、原告A子」
まゆみは裁判を通じて、そして男性の思い描く女性像と実際の女性との間に大きな乖離があることを痛感します。さらに数年を経て、元上司は「女に負けるな」「男が上に立たなければならない」という男社会の被害者であると考えるようになります。裁判はマスコミの注目を集め社会問題として広く取り上げられる一方、バラエティ番組で「色物」として扱われたり、アダルトビデオに「セクハラもの」が制作されたり、興味本位で扱われます。まゆみが男性週刊誌から手記の執筆依頼を受けると支援団は猛反対します。「クリーンな裁判を汚さないで。」ライターであるまゆみは仮名で自分の率直な気持ちを綴りはじめ、本名で取材に応じるようになり、勝訴10年目には本名で『さらば、原告A子』を出版します。「男女を対立させるのではなく互いに理解し合って差を埋めたい。」しばらくしてまゆみが福岡の屋台で飲んでいると、「そういう言葉はセクハラになりますよ」若い男性が年配の男性に注意するのを耳にします。1997年10月改正男女雇用機会均等法21条に事業主に対してセクシュアル・ハラスメントの防止配慮義務が規定(1999年4月施行)、同年11月13日人事院規則10-10で管理者に対しセクシュアル・ハラスメントを防止する責務を定められ、すべての企業と公務職場にセクシュアル・ハラスメント対策が求められています。
-『さらば、原告A子 : 福岡セクシュアル・ハラスメント裁判手記』(晴野まゆみ 著 / 海鳥社2001年)
-弁護士法人女性協同法律事務所
-西南学院大学
-福岡アメリカセンター
-株式会社チームふらっと
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