けやき通り
土曜日の朝食はバタートーストと、オリゴ糖をかけたヨーグルト。
海外産のシトラスジュースを飲み干す。
朝一番、図書館に向かう。
駐車場が混み合う前に。
雑誌のコーナーには20ほどのソファが並び、人々が寛げる空間設計になっている。
最新版にくわえて、バックナンバーの在庫が豊富なのもいい。
インターネットが普及して、という言葉もすでに古くなってきた昨今、
雑誌を含む書籍が売れにくくなっているという。
紙の手触りと、質感を物語とともに味わう至福の時間は失いたくないが、
書架のスペースが圧迫されていくストレスから解放されるデジタル化の恩恵も十分に受けている。
この街の、大きくはない図書館は居心地がいい。
奇妙な建築構造の、天窓から入る柔らかい陽射し。
言語や文化や世界観、価値観のチャンプルー。
ライフスタイル誌に分類されるお気に入りの月刊誌。
今月の特集、和食と食器。
和様を問わずに使えるアイボリーカラーの平皿と、渋い色味の小鉢、etc...
少ない食器を使いまわす今の生活とはほど遠い。
それでも、食器を見るのは随分と楽しい。
器の形状と色と、その佇まいから料理を直感する。
和食はビビッドな色彩の上に盛り付けてもわりと粋な感じがする。
この後に予定している訪問先の北東方面に1kmほど、町外れのこじんまりとした焼き物店を想起する。
手土産に醤油皿でも買っていこうか。
自分用に甘夏色のパスタプレートを購入しようか。
夕飯はその上に載せた牛肉と春雨と牛蒡の甘辛煮にしよう、と思いながら雑誌を返却。
まずはランチだ。
「もうすぐ着くよ」のフォントはゴシック。
文字の流れる速度が心地よく、制止することなくそのままに自由にさせる。
なんの脈絡もなく、ただ浮かんだことだけを確実に捉えてことばにする。
文章の生成を、循環する大気のように意識せず意図せず介入せず。
白紙の上に殴り書きするように、鼻歌を口ずさむように。
しかし、整然と。
どこか、静謐に。
具体と抽象を行き来する魔法を散りばめて、飛んで泳いで走り回る。
音もなく。
意味も追わず。
思い出して急に食べたくなる味に似て、
考えていたらかかってくる電話にも似て、
奇遇な出来事が、週ごとに訪れる。
自由連想の端々に、隠喩が溢れる。
浄化のような、瞑想のような、養生のような、生還のような。
食事よりも複雑で、呼吸よりも文化的で、鼓動よりも不定のリズムで。
芽のふくらんだ欅の樹々、
片側一車線をスローな速度で走る。
BGMは異国のテンポ。
車内のアロマはレモンバーベナ。
水平線は見えないけれど、
盆地を超えると海がある。
スコールは南からやってきて、
雪と混じって虹の粒を作る。
その飴はラムネとソーダの味がして、
こどもの高さで空を見上げる。
時間みたいに無限で、
ミルクみたいに濃厚で、
息苦しいくらいに安心する。
知覚はどこまでも幻想的で、
哀しいかな痛覚は現実的で、
すくなくとも両足で歩く生き物。
橋を架け、船を建て、月を望む。