未来からの生まれ変わり。 【ショートショート】
だだっ広い芝生の緑地は空ごと夕闇に包まれて、あたり一帯に夏の虫の鳴き声が響く。
寝転がって星空を見上げていると、話に深みが増すのはなぜだろうね。
たとえばね、
輪廻というものがあると仮定して、生まれ変わるのが未来とは限らない。
学生時代を共にした彼女は母親の生まれ変わりかもしれないし、
こうして話している君はぼくの前世かもしれない。
あんまり現実的じゃないかもしれないけど。
なぜって、同時期に同じ魂は存在できないと思うから。
間違って自分のいる時代に転生してしまったら、出会う前に早死にすると思うんだ。
ちょっとしたタイミングの間違いで死ぬ前に会ってしまったら、どちらの魂も消滅してしまう。
二度と生を受けられないで永遠に彷徨うんだよ。
間違ってしまう仕組み?
知るわけないよ、間違ったことがないからね。
だからね、図にするとだよ?
地表を描く、その下につながったひとつの魂の大きなかたまりがある。
地面から突き出す形で魂がにょきっと生えてくる。
これが誕生。
近い魂は出会いを経験するし、遠くてもよく動くやつは出会いが多いよね。
ん?それ生きてる人間と同じじゃない?って?
そりゃそうだよ、魂が人間に宿ってる状態のこと言ってるんだから。
消滅は嫌だなあ、って思ってるんだよね。
君もそう思うだろ?
だからね、消滅の延期っていう説もあるんだ。
説っていうか、ぼくが考えたんだけどね。
死へのモラトリアム。
お、鋭いね!
それって普通に生きてるってことじゃん、って?
うん、正解。
ぼくたちはみんな、致死率100パーセント。
出会ってしまって消滅までのカウントダウンを過ごしている生き物なんだ。
そうすると、さっき描いたやつが実感しやすくなるだろう?
魂はひとつ、集合的無意識っていうのも、そこからきてるんじゃないかなって思ってる。
きみはぼくの前世かもしれないし、ぼくはきみの来世かもしれない。
奇しくも出会ってしまったものだから、
鏡みたいに見えたり、愛でたり、嫌悪したりしてるんだ。
きみに会うとき、ぼくはいつにも増してぼく自身と会っているように感じてる。
ぼくと似ているときみが言ったとき、当たり前だよと返したのは愛とかそういうことじゃない。
いや、それでも全然いいんだけど、もっともっと深く、真実に近いんだ。
こうしてる現在も、ご褒美のボーナストラック、切望するアンコール。
最高なブラボーの夜を、一滴一滴、惜しむみたいに味わってさ。
生まれ変わってもまた会えるけど、こんなふうに説明できるって保証はないからね。
面白い話なのか、蘊蓄なのか、思いつきなのか、オカルトなのか、口説いてるだけなのかわからないって?
なんでもいいよ。
解釈も説明も理解も、どれでも。
ただ目を閉じて。
感じる色を、香りを、手触りをまた聞かせてよ。
堪能しよう、身体があるうちに味わえることを。
そして、眠ろう。
朝が来るまで。
虫の声が少しだけ小さくなって、数を増やす星々はちりちりと光って主張する。
覚醒までのひととき。
つづきは夢でも、なんどでも。