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春の雨



新しい季節の始まり。    


わくわくとした希望に溢れた胸の裏側に、
見えない未来への不安と、
もう会えなくなったあの人の姿。



はやく消してしまいたいはずなのに、
何度も何度も思い出してはそこに留まろうとしていることに気づく。  


窓の外から見上げた空は
どこまでも灰色だった。  

そのことに僕はなぜかひどく安心して、
しばらくの間おなじ景色を見ていた。



本当は、いつだって何処へでも行けることを僕は知っている。


玄関のドアを開ければ、この足で、知らない街にも行ける。行ったことのない国にだって行ける。働く所もきっといくらだってあるし、お金もたぶんどうにかなる。  

本当は、君にだって会いに行けることも
僕は知っている。







だけど僕は行かない。

行かないということを僕は選んで、決めて、今ここにいる。




新しい季節はもう始まっている。

だけどもう少しだけ、まだここにいたい



この雨を言い訳にして。





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