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私が音楽を聞かない理由

 AKB48、ももいろクローバーZ、THEE MICHELLE GUN ELEPHANT、BLANKEY JET CITY、BUMP OF CHICKEN。これは音楽にすがって生きていた頃、ウォークマンに入っていたメンバーだ。

 同僚と上手くいかず、眠れない食べられない日々。それでも年齢を考えると、ここを辞めたら後が無いと必死になっていた。通勤約2時間。私は彼らの音楽に身を浸して、何とか職場にたどり着いていた。
 「ヘビーローテーション」「真夏のSounds good ! 」「フライングゲット」。気分を上げて、タイムカードを押す。昼休みは職場を脱出し当時の推し、大島優子のセンター曲「ギンガムチェック」を聞く。今でもこの曲と共に歩いた近くの路地を思い出す。その映像は何故か、白く光ってぼやけている。夏の強い日差しに目がくらんでいたからだろうか。
 BUMP OF CHICKENの「オンリーロンリーグローリー」は何度も何度も繰り返し聞いた。二番のサビは一生忘れない。

ロンリーグローリー
大丈夫 どうやら歩ける
一人分の幅の道で 涙目がつかまえた合図

 このフレーズだけを握りしめて、家に帰っていた。

 結局その職場は1年で辞めた。その後のウォークマンには、スキャンダルやゴールデンボンバーなど様々なメンバーが加わった。しかしコンドーム自販機巡りをきっかけに、音楽を聞かなくなる。
 私は気に入ると、1曲をリピートして数時間聞く癖がある。そのせいか頭の中に音楽が残り、サビだけが脳内で延々と再生される。その時は小嶋陽菜が卒業を迎えていた。センターでの最後のシングル「シュートサイン」がリリースされると繰り返し聞き、サビがずっと鳴っていた。

 仕事終わりに自販機を巡る。この日は草加市内を歩いていた。遮るものがない土手沿いの道、突如現れる巨大な鉄塔。私にとって印象的な街だった。その間も流れ続ける音楽に「邪魔だな」と思ったのだ。
 音楽が流れていると、歩きながら引きこもっている状態になる。初めての街を歩いているのに、それがもったいない気がした。何よりその街だけに吹く風が感じられないのが嫌だった。
 低い住宅に高い鉄塔。のしかかるように広がる曇り空。吹く風は生暖かかい。だけど不快ではなく、異世界にいるように感じさせた。私はこの街を余すことなく摂取したかったのだ。

 以来、音楽は聞かない。だけど嫌いになった訳ではない。今でも好きだ。あの頃を支えてくれた曲とアーティストは、特別な存在になっている。でも聞かない。
 彼らといつも一緒にいなくても大丈夫。私はもう、一人で歩けるようになったのだ。

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