父性
父が作った味噌汁を飲んだ時、出汁の味がしなかった。味噌だけをお湯に溶いた汁を飲みながら、バラエティー番組でとんちんかんな料理を作るアイドルを思い出していた。
私は父性が分からない。父は仕事が忙しくいつも不在で、甘えた記憶がない。そのまま父が嫌いになり、思春期突入。嫌いが大嫌いに変化する。理由なんてない。そしてパパだろうが、おやじだろうが呼ばないまま、今に至ってしまった。
父が嫌いだったからか、10代の頃は自分をファザコンだと思っていた。ファザコンと言っても心理学的にではない。付き合うなら、絶対年上の男性がいい! と言うくらいのファザコン。子供だったので「右脳派なのか、左脳派なのか」など、非日常なカテゴライズに自分を当てはめ、友達とはしゃいでいたのだ。
当時「年上」と言っていた年齢は、多分20代後半から30代前半ぐらいを想定していたと思う。素敵なおにいさんとか、落ち着いたおじさまとか、そんなのを想像して勝手に憧れていた。多分少女漫画に影響されていたのだろう。『ないしょのハーフムーン』とか。年上の恋人なら、多少のわがままを許してくれたり、何も言わなくても甘えさせてくれたりするんじゃないかと期待していたのだ。
しかし、実際に自分が20代後半から30代前半になってみると、とてもじゃないが10代の子を甘えさせるような精神的な余裕も、金銭的な余裕も全くない。マジで無理。じゃぁ、私が想定していた素敵なおにいさんやおじさまは30代後半とか、40代だったのかな~と年齢をしれっと更新させてみた。
そして30代後半、40代になった。無理無理無理無理無理。精神にも金銭にも余裕なし! 包容力?そんなものはない! 落ち着き?それもない! 頼りがい?なんだそれは! 老後2000万問題とか迫ってるんだ、それどこじゃねぇ!
周りの男性を見てみても子供の頃憧れていたような、おにいさんやおじさまなんて、どこにもいない。私も年齢だけ重ねたけれど、それに沿った中身には全くなっていない。いまだに自分の幼さに気づき、「こんな大人になるはずでは…」と何度愕然としたかわからないし、多分これからもする。
ブラウンのツイードのジャケットを着て、コーヒーを飲みながら窓辺に腰かけ読書。こんな感じの年上の男性が、子供の頃に読んでいた漫画に出てきていた気がする。今、実際にそんな中高年男性を見かけたら、私は口を真一文字にして閉じて回れ右をし、その場から素早く去るだろう。
一方私だって、素敵なおねえさまにも、おばさまにもなっていない。その前に、なりたいと思ってこなかった。私は今素敵な〇〇になりたいか、自分に問いかけてみる。
「うん。なんかそういうの、私はもういいかな。」
素敵かどうかは、他人にしかわからないと思っている。若い頃は他人のジャッジを気にしていたが、もうそのジャッジの舞台からは降りたいと思う。
さて、明日はどんな美味しいものを食べようか。なんてことを考えながら、私は今日を進んでいく。
毎月、対になっているテーマでそれぞれが綴る『MIRRORING』
第1回はスギノさんが『母性』私が『父性』でした。
スギノさんの『父性』は以下からも読めます。『母性』と『父性』を読み比べるのもおすすめです。
来月も、対のテーマでお届けします。