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デフトーンズ『オームズ』と、以降

オームズ

 デフトーンズの新作『オームズ』を発売日に買って聴いた。めちゃくちゃ良かったし、いろんな人に全力を出して薦めていた。

 これを読んだ方も買ってほしい。
   すぐに。

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 『オームズ』を一言で表すと、これがいまのデフトーンズデフトーンズの全部乗せ。王者の風格。最新作がいちばん良い。オススメの曲は、「ウランティア」「エラー」「ザ・スペル・オブ・マセマティクス」「ディス・リンク・イズ・デッド」「レディアント・シティー」「ヘッドレス」かな。正直に言うけど、全部好き。シングル曲の「ジェネシス」「オームズ」だけを聴いて判断すると、いい意味で裏切られるだろう。それから、ベルチング・ビーバーファントム・ブライドか、ホワイト・ポニー(クラフトビール)を飲みながら聴くと、すごく楽しくなってくることを約束する

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 『オームズ』では、フランク・デルガドの煌びやかなキーボードが増えたり、チノ・モレノのヴォーカルが透明感を深めたことで、繊細さと浮遊感が強くなった。エイブ・カニンガムのシャキッとしたドラムとキックに、ステファン・カーペンターのメタリックなギター、セルジオ・ヴェガのどっしりしたベースの低音が強まったことで、硬質なグルーヴと鋭い切れ味がダイレクトに来るのも頼もしい。ベイエリア・スラッシュやポスト・ハードコアからのギター・ヘヴィネスをずしんと轟かせつつ、甘く妖艶なヴォーカルをそよがせていられるバンドは、デフトーンズだけだと思い知らされた。もちろん、血も凍るほどの狂気を迸らせるスクリームも蘇っている。

 久しぶりにテリー・デイトとタッグを組んだり、「デジタル・バス」のあのスネアを使用した曲があったり、アートワークがチ・チェンを想わせたりと原点回帰を匂わせつつ、ステファンが9弦ギター2曲で弾き、チノの歌詞がポジティヴになったところに、一歩踏み出した感覚がある。「オームズ」の曲調が、かつてなく開放的で陽気そうなのも良い。また、アートワークの深紅(=ゴア)は、前作を無かったことにしない意志の表れかもしれない。名ドラマーのザック・ヒルを、効果音扱いしているのも贅沢だ。

 個人的には、「エラー」の「Beyond the gates/Outside the grid/We follow in your grace/But someday/The clouds will break and we'll all drift through」や、「オームズ」の「This is our time/We devour the days ahead」という一節に勇気づけられた。こんな歌詞は、今まで無かった。

 『オームズ』でも、過去作品と同様に自分自身が現実や肉体から遊離してゆく光景が描かれている。チノのこんな言葉を引用しよう。「音楽で僕がリスナーにやりたいのは、みんなの意識を別世界に連れていくことなんだ。歌詞は、僕が感じていることをそのまま言葉にするようにしている。必ずしも誰か、何かについてじゃなくていいんだ。ちょっとしたアイディアや思いの断片に合った言葉があれば、すばらしいね。僕はそれを目指している。なかなか難しいけど、うまくいったときはとてもうれしいよ」

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 1988年、カリフォルニア。ステファンのガレージに集まって、チノとエイブと三人でメタリカデス・エンジェルアンスラックスの曲を弾いていた頃を思い出しながら曲作りをしたからか、ステファンのギターが大活躍している。もちろん、「オームズ」はメタルだけでは説明がつかない。エイブのこんな言葉を引用しよう。「デフトーンズはとてもヘヴィなバンドだけど、メタルはベースになっている要素のひとつ。むやみに音を詰め込むんじゃなくて、みんなが気持ちよくなれるグルーヴを意識しているんだ」

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 『オームズ』では、高純度のストレートなヘヴィ・ロックをやってくれたことが何よりも嬉しい。初期作品を懐かしがるよりは、現在のバンドをしっかりと受け止めてあげたい。作品ごとに更新されてゆく、美と破壊を。

 「セレモニー」のミュージック・ビデオが公開された。リー・ワネル監督によるショート・フィルムとなっている。お互いにファンだったことが抜擢の理由だが、チノがジェームズ・ワン監督の「ソウ」(2004年)を好きなのも理由のひとつだろう。ちなみに、「ソウはシリーズ化されてから興味が無くなってしまったけど、一作目は最高だった」そうだ。さらに、6月4日にWHOKILLEDXIXによる同曲のリミックスがリリースされた。

以降


 その後のデフトーンズは、『ホワイト・ポニー』(2000年)の発売20周年を記念して、リマスター盤とリミックス・アルバム『Black Stallion』を年末までに発売するそうだ。もともとは、アルバムを丸ごとDJシャドウにリミックスしてもらう予定が、「デジタル・バス」一曲だけになったとか。他にも、クラムス・カジノトレヴァー・ジャクソンが参加している。

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 追記:12月11日にリリース決定。その他の参加者は、ロバート・スミス(ザ・キュアー)、マイク・シノダ(リンキン・パーク)、スクエアプッシャー、ピュリティ・リングなど11名となる。

 
 ゴジラとのツアーは、2022年の春からに延期された。

 この合間を縫って、チノはクロセズパームズの活動に復帰し、他にもコラボレーション複数のサイドプロジェクトを行うようだ。彼のお気に入りの映画はジョン・カーペンター監督の「ハロウィン」(1978年)や「ブギーマン」(1982年)などで、いつかはホラー映画のスコアにも挑戦してほしい。ステファンもSol Invictoを再開したところだし、セルジオもクイックサンドのレコーディングに参加するような気がする(している)。

 2008年から作りかけのままになっている『EROS』は、いつか完成させて、シングルかEPとして発表するそうだ。

 エイブは、早くも次のアルバムを作るつもりでワクワクしている。

 もしも、10枚目のアルバムを作るとしたら、メンバーが住むオレゴン(チノ)とサクラメント(エイブとフランク)とニューヨーク(セルジオ)とロサンゼルス(ステファン)をオンラインで繋いで、バーチャルセッションとファイル交換を繰り返しながら曲を作っていくのだろうか。
 ただ、チノは『オームズ』のボーカル録音の際、テリー・デイトのスタジオの敷地内から一歩も出ることなく、トレーラーで寝泊まりをしたそうだから、同じようなことをメンバー全員で行うのかもしれない。

 先のことはわからないが、デフトーンズのメンバーがバラバラになってしまい、バンドでは無くなってしまう事態だけは起きてほしくない。

 
ところが、ステファンが地球平面説やワクチン不要論などを信じる陰謀論者であるとのニュースが流れ、その事について釈明している。その後は、Sol InvictoやKush?を進めながらテレグラムを活用しているようだ。

 チノは、クロセズでコーズ&エフェクトのカヴァー曲を発表したり、キャロライン・ポラチェックの「Hit Me Where It Hurts」リミックスでトロ・イ・モワと、トリッピー・レッドによる「Geronimo」で、それぞれコラボレーションを果たしている。また、クロセズのレコーディングが行われていることも明らかになった。パームズについても、トラックがすでに完成しているという噂が正しければ動きがあるだろう。さらには、Healthタイラー・ベイツによる「ANTI-LIFE」でもコラボレーションを行っている。

  さらに、『Black Stallion』からの未発表曲として、6月12日にテレフォン・テル・アヴィヴアルカによる「デジタル・バス」と「フェイテイセイラ」のリミックスが発表された。

 セルジオやウォルター・シュレイフェルズたちのクイックサンドも、新曲「Inversion」を公開した。8月13日には、「Distant Populations」を発売して、秋にはツアーに出る予定だ。ステファンはギターの演奏動画をアップしている。今のところ、『アドレナリン』『アラウンド・ザ・ファー』『デフトーンズ』『ダイヤモンド・アイズ』『恋の予感』、そして『オームズ』から17曲を弾いている。
 
 それから、ベルチング・ビーバーとの新しいコラボレーションで、オームズのクラフトビールが発売された。わたしは、まだ飲めていないが......。


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