怒りの正体2:無力感からの怒り
怒るのは、大切にしているものが阻害されるから
怒りは、自分が何かを悲しく思い、それに反応して生じる感情です。
怒りには大きく分けて3つの種類があります。
自己否定からの怒り
大切なものを傷つけられた怒り
大切な人を傷つけられた怒り
今回は2.をお話ししていきます。
怒りという自己防衛
相手の基準で自分の考え方や大切にしてきたものが「意味がない」「価値がない」と判断されると、深く心の傷を負うことになります。
この経験は、自尊心を著しく損なう可能性があり、結果として強い怒りの感情を引き起こします。
相手の価値観によって自分の信念や大切なものが否定されることは、自己否定につながります。人は本能的に怒りという感情で自己を防衛しようとします。
このような状況は、実は精神的虐待に近い体験と言えます。
虐待のケースと同様に、他者によって自分の価値観や存在意義が否定されることで、深刻な心理的ダメージを受ける可能性があります。そのため、怒りは自己防衛メカニズムとして機能し、自分の内面を守ろうと発動されるのです。
怒りは境界線をつくる
さて、では怒りはどのように自分を守ってくれるのでしょうか。
怒りは見えない壁を作ります。この壁は、私たちの大切な考えや自信を守るためのものです。
この壁のことを境界線といいます。
この心の壁は、自己防衛の方法の一つです。私たちの価値観や信念、そして自分を大切に思う気持ちを守ります。誰かがこの壁を越えようとすると、怒りが起こります。怒りは、「危険!誰かがあなたの大切なものを傷つけようとしています」と教えてくれるのです。
私たちの考え方は、一人ひとり違います。これは、それぞれの経験や価値観、生き方から生まれるものです。自分の考えは、生きていく中で少しずつ形作られ、常に変化していきます。
家族の中でも、みんな違う経験をし、違う影響を受けて育ちます。ですから、血のつながりが近くても、全く同じ考えを持つ人はいません。
境界線とは何か
では境界線とは、なんでしょうか。これは、自分と他者の間に設ける心理的な線引きのことです。これは自分を守り、健全な人間関係を築くために重要な概念です。
自分の感情や価値観を認識し、尊重すること
他者の意見や行動に過度に影響されず、自分の判断を保つこと
自分の責任と他者の責任を区別すること
「ノー」と言える能力を持つこと
自分の感情を適切に表現し、他者の感情も尊重すること
虐待を受けると、心の境界線が壊されることがあります。その理由をわかりやすく説明します。
虐待する人(特に自己中心的な人)は、自分の弱さを相手に押し付け、相手の心の境界線を無視します。
虐待される人は自分を責めたり、相手に悪いと思ったりして、自分の境界線を守ることができなくなります。
虐待する人は、相手の気持ちや大切にしているものを無視して、自分の思い通りにしようとします。
長い間虐待を受けると、自分の気持ちや欲しいものがわからなくなり、適切な境界線を作るのが難しくなります。
心の境界線の回復の条件
心の境界線を回復するには、以下の2つが大切です。
自分をよく知ること
自分を大切にすること
それでは、順を追って詳しく見ていきましょう。
1.自分をよく知る
自分を知るとは、自分の内面をよく理解することです。これには、自分の考え方や感情、大切にしているもの、そして得意なことや苦手なことを知ることが含まれます。自分を知るには、「自己観察」と「自己分析」という二つの方法があります。
自己観察とは、自分の行動や感情、考えを客観的に見ることです。自己分析は、それらをさらに深く考え、なぜそうなのかを探ることです。これらを通じて、私たちは自分自身をより良く理解できます。
しかし、虐待を経験したサバイバーにとって、自分を知ることは特に難しい場合があります。虐待の影響で、自分の内面と向き合うことが怖かったり、自分を否定的に見てしまったりすることがあるからです。そのため、虐待を経験した人が自分を知ろうとする時は、特別なサポートが必要になることが多いのです。
2.自分を大切にすること
虐待を受けた人にとって、自分を大切にするのはとても難しいことです。長い間つらい経験をしてきたため、自分に自信を持つことさえ難しく感じることがあります。
でも、自分を大切にすることは、実はとてもシンプルなことから始められます。それは、自分の幸せを第一に考え、自分の気持ちやニーズに耳を傾けることです。他の人の期待や要求よりも、自分の幸せを優先することが大切です。
自分を大切にする具体的な方法は、次のようなものがあります:
自分の体と心をケアすること
自分の境界線(他の人との距離感)を健康的に保つこと
自分の良いところや頑張ったことを認めること
特に2に関しては、健康的な関係を築ける個人やグループと、適度な距離感を保てる環境が望ましいでしょう。
急速に親密になろうとする人には注意が必要です。挨拶や天気の話、日常的な会話程度の交流から始めるのが良いでしょう。そして2~3年またはそれ以上に時間をかけて、お互いのことを知っていくつもりで関わっていきます。
これらのことを少しずつ日常生活に取り入れていくと、徐々に自分の価値を感じられるようになっていきます。価値というものを特別感じようとはしないでください。
自分がホッとできる。充実している。悩むことがない。
このような穏やかな気持ちが作れることがとても大切です。
課題の分離
他の人の問題を自分の責任として背負わないことが大切です。
これは、自分と他人との境目をはっきりさせることです。他の人の悩みを理解することはできますが、それを解決するのは相手の役目だと覚えておきましょう。
サバイバーは、他の人の気持ちや様子に敏感になりがちです。そして、その人の問題を自分で解決しなければならないと思ってしまうことがよくあります。これは、過去の辛い経験から身につけた自己防衛の一つです。
虐待を受けていた環境では、加害者の機嫌や気分の変化を常に気にして、それに合わせて自分の行動を変えることが、身を守る方法でした。
この習慣は、安全な環境に移っても、知らず知らずのうちに続くことがあります。サバイバーは他の人の気持ちを察するのが上手ですが、同時に自分を犠牲にしたり、必要以上に責任を感じたりすることにもつながります。
他の人の気持ちや感情は、その人自身のものであり、自分が直接的に変えることは難しいということを認識してください。
サバイバーは、過去の経験から、他人の感情を察知し、それに合わせて行動することで危険を回避してきた可能性があります。しかし、これは虐待という極めて特殊な状況下での対処法であり、通常の人間関係においては健全とは言えません。
他者の感情の変化は、多くの場合、あなたの行動とは無関係です。
人の気持ちは複雑で、いろいろな理由で変わります。例えば、その人のストレスや体調、過去の経験などが影響します。これらは、あなたにはコントロールできないものです。
だから、誰かの機嫌が悪くなっても、すぐに自分のせいだと思う必要はありません。その人の気分が変わったのは、あなたとは関係ないことが多いのです。
大切なのは、他人の気持ちの変化に振り回されないことです。自分を責めたり、過剰に反応したりせず、まず、自分の気持ちは自分のもの、相手の気持ちは相手のもの、と思い込みます。それが適切な距離を保つヒントになります。