まねき先輩、その後
先日、豊国神社の近くで出会ったサビ猫のまねき先輩のことをnoteに書いた。朝の散歩の時に、まねき先輩に誘われるように豊国神社をお参りして、新たにWebライティングの仕事の案件を得たという話。
その後、まねき先輩に再び会えないかなと思って、朝の散歩の時に近所をフラフラしていたのだが、しばらくまねき先輩を見かけることはなかった。
そして昨日、なんとなくまねき先輩の姿を探すでもなく、散歩の途中にフラフラと歩いて、豊国神社の隣にあるお寺の鐘がある所に出た。
とはいえ、やっぱり私はまねき先輩の姿を探していた。これまで鴨川沿いを散歩していた私は、このところ、すっかり散歩経路を神社方向に変えていたのだから。
ふと、足元を見ると砂利のところに、猫のフンらしきものがドデーンとあって、うおっと思う。慌てて、うっかり踏んづけていないかと足の裏を見ながら、自分の周りを見てみると、けっこうぽってりとした猫のフンが、あちこちにあることに気づいた。
え!? もしかして、これってまねき先輩の仕業……?
衝撃を受けて、ぼーぜんとしてしまったが、今日も結局まねき先輩に会うこともなかったな、と家に帰ることにした。
すると、あっさり再びまねき先輩が登場したのだった。
ところが、昨日、私の目の前に現れた招き先輩の様子からは全く覇気が感じられなかった。なんだか、すっかりうなだれた様子で、いかにも「あ〜、つかれた〜」とでも言いたげに、のっそり、のっそりと神社の祠の後ろに向かって歩いて行かれたのだ。
私は、まねき先輩の後ろから、
「まねき先輩!」
と声をかけた。
私の声を聞いてまねき先輩は、一瞬ビクッとされたようだった。
しかし、私のほうを振り向くでもなく、まねき先輩はそのまま、のっそり、のっそりと祠の裏に行ってしまった。
もしかしたら、まねき先輩は、最近、ちょっとお疲れだったのかもしれないなと思った。
今朝も私はまねき先輩に会えないかなと、朝の散歩にいつもの散歩道ではなく神社に向かい、石段を上がっていった。
すると、神社の中から、まねき先輩が私の方に向かって来るではないか! しかも、めちゃめちゃ元気いっぱいに!
私は、思わず嬉しくなって
「まねき先輩! おはようございます!」
と声をかけた。
しかし、私に向かって走ってきているように思えたまねき先輩は、途中でクイっと方向を変え、ひょうたんがついた手水のところに向かった。そして、その先には、手を洗っている、背の高い、けっこう年配のおじさんがいた。
まねき先輩は、おじさんに飛びかからんばかりの勢いで近づいていった。そして、おじさんの目を一心に見つめ、まるで犬のように尻尾をふらんばかりに右に左にと飛び跳ねる。
おじさんも嬉しそうに、
「おー、ヨシヨシ、おー、ヨシヨシ!」
と言いながら、まねき先輩の頭を撫でていた。
「まねき先輩、おじさんには触らせるんだ!」
私は、呆気にとられて、まねき先輩とおじさんの感動の再会シーンをじっと見ていた。
おじさんとまねき先輩は、まるで本当の家族みたいだった。
ひょうたんの手水のところで手を清めたおじさんは、そのまま本殿にお参りをされた。おじさんについていくまねき先輩。おじさんはお賽銭を入れて、丁寧にお参りする。その間、じっとおじさんの後ろで待っているまねき先輩。お参りが終わると、おじさんは隣の稲荷神社の祠に向かう。そして、おじさんにまとわりつくようにしながら、ついていくまねき先輩。
ああ、そうか。
この瞬間、私にはわかった。まねき先輩は、おじさんをずっと待っていたんだ。神社にお参りして、隣のお稲荷さんにお参りする、それは、まねき先輩とおじさんの日常のルーチンだったのだ。神社の神様が、私を神社にお参りするように誘導するため、まねき先輩を派遣したわけでもなんでもなかった。まねき先輩は、おじさんと一緒にいつもそうやっていただけのことだった。
それに気づいて、私はちょっとがっかりしてから、猛烈に寂しい気持ちになった。招き先輩は、私にはおじさんに対するみたいに慕ってもくれないし、信頼してもくれていない。単なる通りすがりの人というだけだった。
わたしは、おじさんのお参りが終わった後、静かに神社とお稲荷さんにお参りした。私とすれ違ったおじさんの横を歩くまねき先輩は、ほんの一瞬だけ、私の顔をみた気がしたけど、きっと気のせいだろう。まねき先輩の、とても嬉しそうな様子だけが、目に焼きついた。
まねき先輩は、私のまねき猫ではなかった。
まねき先輩が招いてくれたと思った仕事は、マニュアルだらけで、マニュアルを覚えるのが超苦手な私に向いた仕事ではなかった。勝手に運命を感じて受けてしまったけど、正直ちょっと後悔している。でも、受けてしまったものはなんとか最後までやりとげなければ。
きっと、いつか、またいい出会いがあるよね。お仕事も猫さんも。