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難病の我が子

 建設会社に就職し、社会に出るとまもなく、次男が誕生した。力強く育ってほしいとの願いから、〝進次郎〟と勇ましい響きの名前をつけた。ところが、なぜか進次郎は日を追うごとに縮んで小さくなっていく。徐々に泣き声もかぼそくなり、弱っているように見えた。妻が悲しげな声で言った。
「あの子は早産で未熟児として生まれたでしょ。わたしたちには、あの子が自分の生命力でちゃんと育つかどうかを見守ることしかできないの」
「病気ではないのだろう。何かできることがあるはずだ」
「どうしようもないのよ。お医者さんや看護婦さんは、わたしたちはまだ若いのだから、またすぐに元気な子供を生めばいいって。そう言って慰めてくれたわ」
 克彦は妻の言葉を最後まで聞かなかった。家を飛び出し、病院へ急いだ。自分の怒りを抑えることができなかった。
「なんとかしてほしい。せっかくの命を授かって生まれた子を、このまま放ってはおけない。あなたも医者なら、助けるよう最善の努力をすべきだ」
「わかりました。最近できたばかりの未熟児専門の病院はどうですか。ベッドの空きがひとつあるそうですから、紹介状を書きましょう。最新の医療技術でなんとか助かるかもしれません」
 進次郎を抱きしめ、タクシーでその病院へと向かった。
「安心してください。だいじょうぶですよ。このお子さんはきっと助かります。元気にしてお返しします」
 二カ月後、成長した進次郎は元気になって自宅へ帰ってきた。克彦は涙で濡れた頬を押しつけながら、進次郎をしっかりと抱きしめた。

 翌年の初夏。
 ある晩、会社から戻った克彦に、不安げな表情の妻が近づいて、「進次郎がプール遊びをしている最中に突然、「痛い、痛い」と泣き出したと告げたのだ。
「どうもただの風邪ではない。大学病院で検査してもらいなさい」診断した近所の医者が克彦に勧めた。大学病院での検査結果は最悪だった。当時の医学では不治の病だった「白血病」と宣告されたのだ。
「あと一年の命です。お子さんが喜ぶようなところにどんどん連れていってあげてください」
せっかく助かったのに、どうして……。
 目の前がまっ暗になった。なぜ、どうして、こんな不幸が次男に訪れなくてはならないのか。克彦は神を呪い、運命の残酷さに思わず悪態をついた。
 進次郎は強い薬の副作用で全身がふくれていた。潤ませた小さな両目で、「つらいよ、つらいよ。助けて」と訴えていた。

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